古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #39

更新三十九回目のまとめです。 サブ島沖海域の死闘の終結。そして青葉の真意とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私はただただ立ち尽くしていた。古鷹ねーさんが、青葉をかばった古鷹ねーさんが、消えてしまった。信じられない。信じたくない。いくら目を見開いても目の前には表情を凍り付かせた青葉がいるばかり。体が動かない。一歩でも踏み出せば古鷹ねーさんがいなくなってしまったことを認めてしまうようで。

2014-12-21 22:42:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

何もかもが動きを止めてしまったかのような世界の中、数秒か、数瞬か。どれくらいの間固まっていただろう。視界の端でぱっと何かが動き、それを目で追った時、ようやく世界が動き出した。 「加古!?」 思わず叫んだ。加古が敵艦隊と逆の方向に走り出している。加古が逃げ出した。そう思った。

2014-12-21 22:48:54
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんな、まさか、まさか。古鷹ねーさんがやられちゃったから?敵艦の火力に恐れをなして?私は足元が溶けて崩れ落ちていくような感覚を味わった。加古だけは絶対に私のそばにいてくれる。そう無意識に信じていたのが、打ち砕かれたかのようだった。けれど、加古の走る先に何かが見えた。

2014-12-21 22:53:37
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あ、ああ」 それを認めたとき、思わず全身が震えた。崩れ落ちそうだった足元に力がみなぎった。知らず視界が滲む。 「古鷹ねーさんッ!」 私が叫ぶと同時に、加古が走りながら海面に手を伸ばし、倒れ伏していた古鷹ねーさんの腕を掴む!そのまま肩に引き上げ、足も掴んで艤装の上に担ぐ!

2014-12-21 22:59:16
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんを担いだまま加古が振り返って言い放つ! 「青葉ッ!撤退だ!援護頼む!」 その言葉に弾かれたように青葉が走り出す!それに吹雪、叢雲、私も続く! 「加古さんッ!面舵一杯ッ!」 青葉の指示に従って加古が右に転舵!その直後、加古がいた場所に南方棲戦姫の砲弾が落ちる!

2014-12-21 23:04:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が海面上でくるりと向き直り、後進をかけながら敵艦隊の方に目を向ける! 「衣笠ッ!加古さんの直後について援護!吹雪さんはその右舷で警戒!叢雲さんは前方で潜水艦を警戒!」 さっきまで凍りついていたのが嘘のように全員が配置についた!青葉の声には私たちが思わず行動に移る力があった!

2014-12-21 23:14:13
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私たちは敵艦隊からみるみるうちに距離を離した。南方棲戦姫の砲弾が追いすがってくるけれど、青葉の的確な転舵指示で回避していく!これなら逃げ切れる、そう私が安心しかけたその時! 「左舷前方十一時方向!雷跡三ッ!」 加古の前方で警戒に当たっていた叢雲が悲痛な警告を発した!

2014-12-21 23:19:32
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

まずい。叢雲に続いて雷跡を視認した私は総毛がよだつような感覚を覚えた。味方の進路斜め前方、最も回避しにくい角度からの潜水ヨ級の雷撃。激しい砲雷撃戦を経てダメージを負っている私たちには、致命傷になりかねない。しかもヨ級の魚雷が狙う先は――あろうことか、古鷹ねーさんを背負った加古だ!

2014-12-21 23:29:50
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ただでさえ自身も小破している加古は、古鷹ねーさんを背負って小回りが利かず明らかに雷撃を避け切れない! ドウンドウンドウン! 「叢雲ッ!?」 その加古の前に叢雲が立ちはだかり、海面に向けて両舷の主砲と機銃を放つ!まさか、いつかの古鷹ねーさんのように魚雷を砲撃して破壊するつもりか!

2014-12-21 23:38:44
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それは、どう見ても無茶な行いだった。あの時の敵潜水艦より練度の高いヨ級の雷撃、それも三本。それを古鷹ねーさんよりはるかに火力の劣る駆逐艦の叢雲が全て破壊し切るなど不可能に近い!叢雲の砲撃も空しく、魚雷が迫る!幸運にもかろうじて一本は砲弾が命中したけれど、残りの二本が止まらない!

2014-12-21 23:43:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

もう間に合わない、叢雲に魚雷が命中すると思ったその瞬間!叢雲が砲撃をやめ、左のアームの先に据えられた12.7cm連装砲B型改二を真上に高く差し上げた!右の連装砲はアームをたたんで体の正面に構える!どちらの連装砲からも発射前の砲弾が排出され、ボトボトと海面に落ちる!これは一体!?

2014-12-21 23:50:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

叢雲が右手に握った槍を高く掲げた!左手は庇うように顔の前に構えられる!迫る魚雷に恐怖の色を浮かべながらも、その眼光は光を失わない!ここに至って、私は叢雲の狙いを理解した。魚雷を連装砲と槍で直に破壊するつもりなのだ!自分を奮い立たせるかのように叢雲が叫ぶ! 「うああああああ!!!」

2014-12-21 23:56:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

叢雲が海面に向かって左の連装砲と右手の槍を振り下ろす! ドドゴオオオオオン! 叢雲の小さな体を、魚雷の爆発で起きた巨大な水柱が包み込む!古鷹ねーさんと加古は無事だ。けれど、叢雲は!?針路を変え、叢雲のもとに向かう。ゆっくりと晴れていく水煙の先に目を凝らす。

2014-12-22 00:04:22
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

魚雷が爆発した辺りの海が元の海の暗さを取り戻しつつあった時。 「叢雲ッ!」 海面に確かに二本の足で立っている叢雲の後姿が見えた!左の連装砲はひしゃげ、槍も途中で折れている。けれど、体の前に構えた連装砲と左腕でかろうじてバイタルパートは守ったか。けれど、その足元がふらりとぐらつく!

2014-12-22 00:10:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

推進系の艤装までは守りきれなかったか、足元が沈み始めている!駆け寄ろうとした私の前を、風のように駆け抜けていく者あり!それは、主砲や魚雷発射管などの武装を次々と放り捨てながら走る吹雪!海面に倒れこむ寸前で叢雲の体を支え、背負うように担ぎ上げる! 「離して、吹雪……自分で走る……」

2014-12-22 00:20:00
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「いいから!この方が速い!」 叢雲を抱えた吹雪が航走を始める!吹雪の体から降りようとする叢雲を、吹雪が力づくで抑え込む! 「足手まといには、なりたくな――」 「こんな時くらいお姉ちゃんの言う事聞きなさいッ!」 吹雪に一喝された叢雲が大人しくなり、吹雪の速度が上がる!

2014-12-22 00:25:23
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

けれど、そのすぐそばに砲弾の水柱が上がり、吹雪が慌てて転舵する!輸送ワ級を安全圏に逃がしたか、南方棲戦姫がその長射程で、軽巡へ級がその高速度で追いすがる!古鷹ねーさんを背負う加古、叢雲を抱える吹雪は速度が上がらないため、このままでは逃げ切れない!その時、青葉の指示が飛んだ!

2014-12-22 00:32:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「衣笠!照明弾用意ッ!」 その言葉を聞いた瞬間、私は自分の耳を疑った。一刻も早く敵艦隊から逃れなければいけない時に、なぜ攻撃用の装備である照明弾を撃たなければならないのか。敵艦の姿を浮かび上がらせたところで、ほとんど火力の残っていない私たちには何の意味もない。

2014-12-22 00:36:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

本当に照明弾を撃っていいのか青葉に聞き返そうとした、その時。古鷹ねーさんを背負った加古がちらりと私を見た。そのまなざしに「大丈夫。信じろ」と言われた気がした。ええい、ままよ。信じるからね、青葉、加古! 「射角直上!全弾放てッ!」 青葉の指示通り、照明弾を真上に放つ!

2014-12-22 00:40:55
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ドウドウドウドウ! 高く撃ち上げられた照明弾が燃焼し、次々に白い光を放つ!私たちが、敵艦隊が、辺り一帯の海が眩いばかりに照らし出される!私たちを守ってくれるはずの夜の帳は完全に取り払われてしまった。私たちの姿は、光に照らされて敵艦隊から丸見えのはず……否!

2014-12-22 00:46:55
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私たちも敵艦隊も移動しているため、ゆっくりと落下してくる照明弾は今や両艦隊の中間の空に位置している。目の前に次々に落下してくる照明弾の光のせいで、こちらからは敵艦隊の姿がほとんど見えない。つまり、それは敵も同じ!照明弾が光っている間は、敵が私の姿を捉えることはできないのだ!

2014-12-22 00:50:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

これで南方棲戦姫の砲撃は封じた!之字運動を取りながら全速で撤退する!しかし、敵もバカではない。照明弾の光より私たちに近づき光を背後に置いてしまえば、私たちの姿を捉えることができる!それをわかっている軽巡へ級が一直線に私たちの方に突っ込んでくる!しかしその出ばなをくじく風切り音!

2014-12-22 00:56:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

へ級が頭上に目をやった時にはもう遅い!ほぼ直上からいくつもの砲弾が落下し、へ級の周りに水柱を立てる!そして、そのうちの一発が重力加速度に任せてへ級の頭部を直撃する! ズドオオン! へ級が轟沈し、敵艦隊は追撃の手段を失った!照明弾が消えないうちに私たちは深海棲艦たちの海域を去った。

2014-12-22 01:00:44