- OBAKEnoMIKATA
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「どうして入れちゃったのよ」「だって~。マコちゃんの友達って言うから、てっきりお化けかと。まさか一般人の子だなんて~」事務員――六実の首がにょろにょろと伸びて、パーティションの上から飛び出した。「ひっ」神奈は危うく悲鳴を噛み殺す。(うわああろくろっ首だああ)#OnM_3 133
2014-12-27 22:56:11もう一人の事務員――梢が、パーティションの隙間から顔を覗かせた。「ごめんなさいね。上繁さんだっけ。マコトちゃん今、電話出られないみたいで――帰るのも多分、遅くなると思う」「そうですか。……あの、待ちます、あたし」「う~ん、でもここ、七時には閉めちゃうから」#OnM_3 134
2014-12-27 22:57:01「んん……」嘘だろうと思ったが、それを指摘して食い下がるだけの確証もない。「……分かりました、帰ります。でもその代わり、教えてくれませんか」「何を?」「どうして曲さんがここで働いてるんですか。どうして、曲さんじゃなくちゃいけないんですか」「それは」#OnM_3 135
2014-12-27 22:57:27「それは答えられない」梢に代わって答えたのは、頬がこけ、鋭い目つきをした壮年の男だった。彼は神奈の対面に腰を下ろすと、支局長の釣鐘と名乗った。つまり、マコトの上司だ。やや気圧される。それでも神奈は訊ねた。「答えられないって、なんでですか」#OnM_3 136
2014-12-27 22:58:02「あ、あたしに知られたくない事情があるってことですか」「そうだ」男はあっさりと認めた。そして切り返した。「局員のプライバシーに関わることだ。軽々しく部外者に明かすことはできない。どうしても知りたいなら、直接本人に訊いたらどうだ。それなら我々とて口は出せない」#OnM_3 137
2014-12-27 22:58:37釣鐘の口調から神奈は察した。マコトがそれを話さないであろうことを、彼は確信しているのだ。彼女は君の側ではなく我々の側の人間だ――そう言われた気がして、神奈は悔しくなった。「一つ言っておくが」釣鐘は重ねて言った。「この仕事を選んだのは彼女だ。彼女の意志だ」#OnM_3 138
2014-12-27 22:59:02十分後。特殊文化財局を出た後も立ち去りがたく、神奈は郷土資料館の中をぶらぶらと歩き回っていた。結局、釣鐘に何も言い返せなかった。彼の言うことはいちいちもっともだ。マコトにとって釣鐘たちは、いわば戦友だ。じゃあ自分は? ……教室で隣に座っている。それだけ。#OnM_3 139
2014-12-27 23:02:29そもそも神奈自身、どうしてマコトのことがこんなに気になったのか、分からないのだ。分からないということは結局ただの物珍しさ、怖いもの見たさなんだろう。そんな動機で身内に近づいてくる小娘がいたらどう思う? 見世物じゃないぞと、言いたくなるんじゃないか。#OnM_3 140
2014-12-27 23:03:19理性ではそう納得したものの、心は晴れない。悶々としながら縄文土器の破片を眺めていると、ショーケースのガラスに、何やらヒラヒラ動く白いものが映っているのに気付いた。振り向くと、通路の陰からさっきのろくろ首――六実がこちらを手招きしていた。#OnM_3 141
2014-12-27 23:03:36気後れしつつも、神奈は彼女の元へ近づいて行った。「な……何か」「何って君、マコちゃんのこと知りたいんでしょ。あたしが教えたげる」「え。いいんですか」「あたしが喋ったってのは秘密よ~?」彼女が周囲を見回すたびに、首がゴムみたいにグネグネしなる。ちょっと怖い。#OnM_3 142
2014-12-27 23:04:21神奈は再び管理棟へ誘われ、空いていた小会議室の一つに通された。一旦立ち去った六実が、缶コーヒーを片手に戻ってくる。くれるのかと思ったら、目の前でプルタブを開け自分で飲みはじめた。それから思い出したように口元を押さえる。「あっ。君の分も買って来ればよかったね」#OnM_3 143
2014-12-27 23:04:59「いや、いいです、別に。それより……どうして教えてくれる気になったんですか」「まあ、一人くらい、マコちゃんの事情知ってる友達がいた方がいいんじゃないかなって思ったの。支局長の考えは違うっぽいけど」それから彼女は、ふいに真顔になって訊いた。「友達なんでしょ?」#OnM_3 144
2014-12-27 23:05:15神奈は即答を躊躇った。「えっと……」「ん?」「分かんないです、自分でもよく。でも、うん。友達になりたいとは、思います」口にしてみてようやく、今日の自分の行動が腑に落ちた気がする。六実は頷き、語りはじめた。曲マコトの過去を。彼女の数奇な運命を。#OnM_3 145
2014-12-27 23:05:39