牧眞司の文学あれこれ その8(2015年)

牧眞司の文学あれこれ その7(http://togetter.com/li/673244)の続きです。
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

篠田節子『冬の光』(文藝春秋)読了。エンタメ的な引っぱりはないのに、巻を措く能わず。相変わらず恐ろしいほどの構成力。篠田作品の大きな魅力のひとつがヒロインの存在感なのだが、本書の中心にいる笹岡紘子もまた際立っている。

2015-12-05 01:24:50
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

紘子は硬質な美貌と教養と意志を備え、学生運動のころは仲間から「砂漠の薔薇」と呼ばれ、アカデミズムの道へ進んでからは人に媚びず、派閥に絡めとられない姿勢を貫き、孤高の立場にある。

2015-12-05 01:25:07
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

女性の地位向上や学内不正是正のため無私の尽力をするが、共闘を持ちかける女性グループから学問上の干渉を受けると容赦なく突っぱねる。紘子を慕う学生や若手学者も多いが、彼女の理想は先鋭化して、親しい者もやがて遠ざかっていく。

2015-12-05 01:25:27
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

篠田節子が凄いのは、こうした「浮き世離れした(=神格的な)ヒロイン」をあくまで生身の女性として描くところだ。記号的あるいは象徴的な身体性ではなく、呼吸し排泄し汚れ欲望する身体だ。にもかかわらず、彼女の貴さは損なわれない。

2015-12-05 01:25:58
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『冬の光』には、紘子の青春時代より断続的に関わる(同志・恋人・友人として)、富岡康宏という男がいる。彼は旧財閥系メーカーのエリートサラリーマンになり、紘子と別れたのち平凡な結婚をして娘をふたりつくり、出世競争の半ばで挫折し、それでも世間的にはじゅうぶん幸福に生きてきた。

2015-12-05 01:26:33
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

物語の前半では、康宏はもっぱら紘子の人生の傍観者(ときに伴走者)――あるいは彼女の苛烈な生きざまを対照する「世俗」の代表――の役周りだ。しかし、後半は、康宏の人生が深く語られる。

2015-12-05 01:28:03
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

物語全体としてみれば、いちばん外側の枠組に視点人物として康宏の次女、碧がいる。彼女がたどるのは康宏の謎だ。康宏は四国遍路を終えたあと帰路のフェリーから海に消えた。

2015-12-05 01:30:40
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

碧にとってみれば、紘子は康宏の浮気相手にすぎない。だが、紘子からすれば、そもそも「浮気」という発想はない。たとえ結婚制度のもとであれ、ひとが他人を所有できるとは考えない。では、康宏にとって紘子はいかなる存在だったのか?

2015-12-05 01:31:14
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

複数の視点(碧・康宏・客観)を切り替え、人生の意味、家族の問題、愛情と自由……きれいごとではおさまらないテーマが鮮烈に描かれる。

2015-12-05 01:31:55
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

アーシュラ・K・ル・グィン『世界の誕生日』(ハヤカワ文庫SF)読了。ぼくは青二才のころ『所有せざる人々』読んでル・グィンの無政府主義にシビれたくちで、いまだに世界のひとびとが彼女のように考えれば、世界は素晴らしいところになるだろうと信じている。

2015-12-05 18:54:42
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

その思索の深さは、この短篇集の諸篇でも健在だ。というか、さらに進んで、人間の弱さや間違いを犯しかねないことろも取り組んでいる。それにともなって、いっけん複雑に見える設定(性差や婚姻・家族関係に関わるところが多い)も、かなり練られている。

2015-12-05 18:58:49
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

とはいえ、では小説が面白いかというと、それはまた別の問題なのだ。ないものねだりになるのだけど、ル・グィンは徹頭徹尾、良識に軸足を置くので、人間に内在する狂気や錯誤を認めながらも、文化的に吸収・緩和する方向へ物語を誘導してしまう。

2015-12-05 18:59:18
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはつかいまこと『世界の涯ての夏』(ハヤカワ文庫JA)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-12-08 13:56:20
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

書評のさわり―― 世界にとって時間は意味を持ちうるか? (略)一方向へ流れる時間はじつはかりそめのもので、世界が考えている「いま」を起点として時間は広がっているのかもしれない。そんな問いが、幾度となく、静かに立ちあがる。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-12-08 13:56:37
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』(創元SF文庫)読了。ひゃーっ、いまどきコレっすか! ヒーローと適役のやりとりを引用すると―― 「おまえ、狂ってるな」 「世界を作り替えたいと願うことが狂っているかね」

2015-12-14 15:02:40
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ベタベタでんなー。どっ直球マッドサイエンティスト! こんなのに英国SF協会賞をあげて大丈夫か、イギリスのSFのひとたち?  わはは、面白いじゃんかー!

2015-12-14 15:04:15
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

しっかしなー、『ガンメタル・ゴースト』って邦題はなー。 原題の『“高射砲(アクアク)”マカーク』(Ack-Ack Macaque)のリズムが片鱗もない。

2015-12-14 15:08:29
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

適役ではなく敵役でした。タイポすまんです。「かたきやく」で入力すればよかった。て

2015-12-14 15:09:58
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』(東京創元社)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-12-15 11:45:26
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

書評のさわり―― 『12人の蒐集家』の各話は、こんなふうに尋常ならざる蒐集家が登場する。(略)それぞれの蒐集が、あるものはシュールな、あるものは不吉な、あるものは残酷な、あるものは宙ぶらりんなエピソードで彩られている。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-12-15 11:45:43
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは小川哲『ユートロニカのこちら側』(早川書房)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-12-22 17:45:58
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

書評のさわり―― 「アガスティアリゾート」は、理想や哲学ではなく現世利益としての「自由」を実現するシステムとしてはよくできている。しかし、そのなかに新たな「不自由」が胚胎する。おそらく不可避に。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-12-22 17:46:10
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

若木未生『ゼロワン』(徳間書店)読了。一気に読みました。すごく面白い! 冴えない漫才コンビ「ゼロワン」がマンザイ・グランプリの頂点を目ざしながら、自分たちの「笑い」を模索していくのだが、彼らは素でボケとツッコミでそのやりとりが笑える。

2015-12-29 21:03:59
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

笑いの要素に加えて、「笑いと悲しみって、なんで似ているんだろうな」というテーマが流れている。じわっときます。

2015-12-29 21:04:10
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

L・P・デイヴィス『虚構の男』(国書刊行会《ドーキー・アーカイヴ》)読んでいる。たいそう面白いのだけど、意外な展開とか結末が予想できないとかそう思うのは、けっこうパッケージの効果なんじゃないかなあ。視差みたいな。

2016-06-07 12:46:30
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