牧眞司の文学あれこれ その8(2015年)

牧眞司の文学あれこれ その7(http://togetter.com/li/673244)の続きです。
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

こんにちの読者は、サスペンス的な心理小説や、ギミックを凝らした「信頼できない語り手」を読みつけているので、『ピンフォールドの試練』の仕掛けはすぐにわかって「ははん!」と思うかも知れない。しかし、ウォーの狙いはたぶん、そこにはない。

2015-01-19 21:05:13
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

むしろ仕掛けは最初からほぼ明示されている。物語は意地悪なユーモアが3割、作家の孤独と鬱屈が7割くらいの配分。サスペンスやサイコホラーみたいな、いたずらに刺激を追い求めるようなものではない。小説家についての小説というのが一番あたっていると思う。

2015-01-19 21:05:30
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『ピンフォールドの試練』 の訳者・吉田健一は「解説」で、まずウォーを読む楽しみにふれ、それと対照させて、こんな皮肉を言っている。 〔我々が読むのに馴らされて来た種類のものでは船に乗る所が出て来れば我々は先ず作者がそこを書くことで何を狙っているのかということを考える仕儀になり、

2015-01-19 21:27:56
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

その方に気を取られてその人間が実際に船に乗ったのかどうか(略)は直ぐに頭に浮かんで来ない。(略)何が書いてあってもそれがそのままに受け取れなくて先ず意図というようなことに頭を使わなければならないのでは文章を読んだことにならない。〕

2015-01-19 21:28:10
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

吉田健一がここで念頭に置いているのは写実主義(およびその論じられかた)だけど、「先ず意図ということに頭を使う」読みかたはそれに限ったことではなく、むしろ先鋭的な現代文学や幻想文学に馴染んだ読者が陥りやすい弊だろう。いわゆる「深読み」ってやつだ。

2015-01-19 21:28:52
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

「深読み」しすぎは駄目でしょ――と言うと、短絡的に「ただ物語を楽しめばイイんだ」と受けとられるかもしれないけど、それはそれで違うのです。ぜんぜん違う。

2015-01-19 21:46:57
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは荒俣宏編『怪奇小説大山脈』全3巻(東京創元社)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-01-20 13:44:43
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

書評のさわり―― 怪奇小説の大部なアンソロジーはすでに前例がいくつもあるが、この3冊は屋上屋を架すような後追いではなく、(略)バランスよりも、むしろ偏ることを恐れぬ作品選択により、怪奇小説史に新しい展望を開いてくれる。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-01-20 13:44:56
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

佐藤哲也『シンドローム』(福音館書店)読了。侵略SFにして青春小説だが、鮮やかなセンス・オヴ・ワンダーもなければ、甘酸っぱいトキメキもない。そこが独特で面白い。非常時でも恋をしても、どよんと薄曇りのような日常がつづく。ときどき、ちょっと陽がさしたり、雷鳴がしたりするくらい。

2015-01-20 18:15:36
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

物語にはスカッとするところがなく、ふつうだと「やんなっちゃうね」と思うところだが、主人公(男子高校生)はあんがい平然と受けとめている。読んでいるうちに、ああこういう気分ってあるかもなあとだんだん思えてくる。

2015-01-20 18:22:50
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくの感覚だと、『シンドローム』はコージー破滅小説(ジョン・ウィンダム的な)の系譜に位置づけられる。シラけた感覚が、ちょっと風変わりだけど。

2015-01-20 18:25:53
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

アントワーヌ・ヴォロディーヌ『骨の山』(水声社)読了。傑作。ただし、凄いすごいと騒ぎまわるようなタイプの作品ではない。作中の印象的な情景がふいによみがえり、何度でもそれに魅入ってしまう。映画のシーンにような鮮やかな記憶。

2015-01-23 23:18:05
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

作品の背景は全体主義のディストピア。収容施設に監禁された女(マリア)と男(ジャン)がおり、別々に尋問・拷問を受けている(といっても、じつは同じ施設内で、尋常ならざる関係性で“繋がり/すれ違っている”ことがやがて明かされるのだが)。

2015-01-23 23:19:13
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

マリアとジャンの運命は、いわば枠物語である。作品の大きな部分を占めるのは、マリアが書いた7つの掌篇からなる「骨の山――《シュルレアリスム的監禁学提要》」と、ジャンが書いた同様の「骨の山——《ポスト・エキゾチスム的監禁学概要》」だ。

2015-01-23 23:19:53
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

各エピソードは内容的にみれば幻想的でも超現実的でもないのだが、情景の置かれ方や階調(透明感のある文章)が独特で、イメージが心に焼きつく。ブルトン的な「痙攣的な美」というか。

2015-01-23 23:21:02
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

たとえば「カメ」というエピソードで、内々の展覧会に呼ばれた語り手は、廊下をさまよい台所へ出る。そこでは、美しい娘がカメを解体していた。調理のためか、別な目的かはわからない。この情景が冷ややかに切り詰めた言葉で綴られる。夢のなかのような、神話の断片のような、切りとられた時間。

2015-01-23 23:22:46
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

マリアの「骨の山」とジャンの「骨の山」は、エピソードごとに照応しているのだが、そのつながりかたもひと通りではない。全部を読めば何かが明らかになるなんてこともない。鮮烈な情景ばかりを残して、世界が沈んでいく。

2015-01-23 23:23:40
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

サリー・グリーン『ハーフ・バッド ネイサン・バーンと悪の血脈』(早川書房)読了。ヤングアダルト向けのファンタジイ。一種の貴種流離譚だが、主人公の境涯がなんかもうヒドすぎて、いくらオハナシの都合とはいえどうにかしてくださいって感じ。

2015-01-25 10:48:04
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

善とされる「白」の魔法使いと、邪悪とみなされている「黒」の魔法使いが存在するほかは、ほぼ日常といえる世界が舞台。主人公の少年は白と黒のハーフであり、白の魔法使いのコミュニティから異端視されている。彼の血は呪いであり、同時に(本人にとって不本意ながら)運命を切り拓くカギでもある。

2015-01-25 10:48:29
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

この構図はけっこう普遍的であって、物語の駆動系として有効だ。人は多かれ少なかれ、「周囲となじめない自分」「特別であることへのコンプレックス」を経験しており、この作品はそれをファンタジイ設定で増幅してみせてくれる。

2015-01-25 10:51:36
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

まあ、そこに共感するか、クドい(アザとい)と思うかは、読むひとしだい。

2015-01-25 10:51:47
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは月村了衛『機龍警察 火宅』(早川書房)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-01-27 16:50:08
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

書評のさわり―― 作中に科学技術的な説明がそれなりのボリュームを占めている。しかし、それが物語を停滞しない。むしろ物語の勢いに寄与している。(略)《機龍警察》のテクノロジー描写はイメージを広げ、その先を知りたい気持ちを刺激する。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-01-27 16:50:31
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは佐藤哲也『シンドローム』(福音館書店)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-02-03 11:45:54
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

書評のさわり―― このアホでぐだぐだな感じがこの小説の面白さでもあって、学園青春ものにつきものの甘酸っぱいトキメキがないし、侵略SFに期待される鮮やかなセンス・オヴ・ワンダーもない。恋をしても非常時でも、どよんと薄曇りのような webdoku.jp/newshz/maki/20…

2015-02-03 11:46:21
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