<密蜂二人旅 左腕の男(前編)>

実験的にツイッタで書いている小説『★魔法少女血風録★』のまとめです。今回はトンデモ西部時代劇。
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おおらか @noba_nashi

やがて馬がやってくると八郎はひょいとその背に乗り、足元の忠国へこう言った。 「明日ンなって己が戻らなきゃ砦に引きあげろ」 「はい。分かりました」忠国は頷き、そしてニヤッと笑った。 「頼みますよ、八郎様。私は貴方のような人望がないんですからね」68

2014-12-03 23:41:24
おおらか @noba_nashi

「なあに一日で殺せなきゃ二日で殺す。それでも無理なら三日で殺すさ」 「お気をつけて」 「応!」そう言うと、彼を乗せた馬は矢のように勢いよく駆けだしていった。69

2014-12-03 23:42:47
おおらか @noba_nashi

(あらすじ。荒野に現れた一人の女、密。魔法少女である彼女は化け物牛の住処である黒牛森の探索を続けている最中、己に向かってきた矢を撃ち落とす。一方、その矢を撃った武士、鎮西八郎は自分の矢を撃ち落とした女に興味を惹かれ、黒牛森へと馬を走らせた。今、危険な二人の射手が邂逅する!)

2014-12-21 23:44:08
おおらか @noba_nashi

弾け飛んだ弾丸と矢を眺めながら、魔法少女はボルトと呼ばれる銃身後部に取り付けられた細長い金属の棒を引く。円筒型の容器が銃身から吐き出されるように飛んだ。彼女の呼吸は穏やかで、むしろ普段よりもさらに落ちついていた。70

2014-12-21 23:59:10
おおらか @noba_nashi

しばらく彼女は銃を構えたままの姿勢でいたが、第二の矢が飛んでこないことが分かるとすぐに銃を肩に担ぎ、反転し、駆け出した。一匹の美しい獣の如く、木々の間を縫うように進んでいく。71

2014-12-22 00:04:23
おおらか @noba_nashi

弾け飛んだ弾と矢。密は先ほどの光景を反芻する。それは互いの力が相殺されたことを意味している。そして相手がかなりの使い手であることも。ただ力任せに引くだけでは弓矢は力を発揮しない。剛と柔、強靭でかつしなやかな筋肉とそれを十分に弓で活かす技術が必要なのだ。相手はそれを知っている。72

2014-12-22 00:19:28
おおらか @noba_nashi

「ほぉれ、言わんこっちゃないぜ」ここで口うるさい首飾りの割り込みだ。密は思考を中断させる。「ちゃんと殺らねえからこうなるんだ。これで分かったろうが?」「…矢」「あん?」「…矢だった」「そうだな」「……大軍じゃない」「あー?だからなにを言ってって、おい!なんだその顔は!」73

2014-12-22 00:27:31
おおらか @noba_nashi

「…あたしの勝ち」「なにおゥ!つーかそもそも勝ち負けの話じゃねえだろが!敵に情けをかけたせいで、自分の身を危険に晒したって話で」「…でも馬に乗ったモノノフじゃなかったよ」「聞けよう!」「…だからあたしの勝ちだよ」「こ、のっ!分からず屋ァ!」ハチノスがブルブルと震える。74

2014-12-22 00:36:35
おおらか @noba_nashi

もし血管と皮膚があったのなら、彼の顔は真っ赤に染まっていたことであろう。 「…さあ、勝ち負けもはっきりしたところで」「はっきりしてねえ!」魔法少女は足を止めた。「…こっちの勝ち負けもはっきりさせないと」辺りに漂う血の匂いが濃くなっている。ぬかるんだ地面にはくっきりと蹄の跡だ。75

2014-12-22 01:00:31
おおらか @noba_nashi

血の匂いに混じる独特の大気の揺らぎ、それは異物を排除しようという明確な敵意と警戒の証である。今まさに、魔法少女とその首飾りは巨大な神経器官の中にいるようであった。そしてそれはその中心にいるであろう彼らの獲物が近いことを意味していた。76

2014-12-22 01:25:50
おおらか @noba_nashi

その時である。ドン!鈍い音が響いた。素早く魔法少女は前転、間一髪!彼女がいた場所を矢がかすめていく。そして、おお!なんということか、矢は三本の木の幹を抉り取り、ようやく四本目の木に突き刺さりその動きを止めた。77

2014-12-22 01:47:14
おおらか @noba_nashi

「来たか!」ハチノスが叫んだ。密は再び前転。今度は地面に深々と矢が突き刺さり泥をはね上げた。さらに追撃の矢が二本、三本と魔法少女を狙う。回避!回避!回避!「密!キリがねぇぞ!」魔法少女は素早く銃を構える。しかし矢は飛んでこない。ザザザザザザ!この音は?上だ!78

2014-12-22 01:55:49
おおらか @noba_nashi

彼女の頭上、大樹の枝の上に巨大な影が見えた。魔法少女は銃を構え、引き金に指をかけた。その時である。「やあやあ!」影が叫んだ。「…挨拶?」密は指を止めた。「我こそは九州総追捕使、鎮西八郎為朝なり!」影が高らかに叫んだ。この森の何処までも届くであろう大きな声であった。79

2014-12-22 02:18:23
おおらか @noba_nashi

「…え?」そして奇妙な静寂がやってきた。時が止まったようなその場所で魔法少女と巨大な影は対峙していた。「ひょっとしてよぉ、密、お前の番なんじゃねーのか?」ハチノスがヒソヒソと声を潜めて言った。確かに頭上の影は何かを待っているようであった。「…密」魔法少女は名乗った。80

2014-12-22 02:26:05
おおらか @noba_nashi

(前回のあらすじ)魔法少女の密と言葉を話す首飾りのハチノスはある目的のため黒牛森に足を踏み入れる。一方、自分の弓を射落とした密に興味をひかれた武士、鎮西八郎もまた黒牛森へとやってきた。そしてついに二人の射撃の名手が黒牛森で激突する。

2015-01-01 13:02:52
おおらか @noba_nashi

「…え?」そして奇妙な静寂がやってきた。時が止まったようなその場所で魔法少女と巨大な影は対峙していた。「ひょっとしてよぉ、密、お前の番なんじゃねーのか?」ハチノスがヒソヒソと声を潜めて言った。確かに頭上の影は何かを待っているようであった。「…密」魔法少女は名乗った。80

2015-01-01 13:04:20
おおらか @noba_nashi

「密!それがお前の名前か!」 「…そう」 「そうか!では」 「…では?」 「参る!」勢いよく影が飛び出した。その手には太刀。一刀両断必至か!?いや、魔法少女は両手で銃を真横に持ち、太刀を受け止めている。ズブンッ!彼女の小さな体が地面に沈み込む。81

2015-01-01 13:05:49
おおらか @noba_nashi

銃と太刀との間で、二人の視線が激突する。双方ともいくさ場には不似合いなほどに幼い顔つきながら眼光鋭く、その眼には一歩も引かない意思の炎が煌々と燃え盛っている。「このままたたっきる!」八郎が腕に力を込める。それを待っていたかのように魔法少女は体の力を抜いた。82

2015-01-01 13:17:03
おおらか @noba_nashi

川の流れのような力の受け流し!冷たい銃身の上を刀が滑る。「ムッ!」八郎の大きな体がつんのめる。魔法少女は情熱の国の踊り子の如くひらりと回転、背後へと回り込む。さらに回避運動を攻撃へと転用!両手はしっかり銃身を握っている。そのまま銃床を八郎の左側頭部へと目がけて思い切り振った!83

2015-01-01 13:24:49
おおらか @noba_nashi

激突!?否!ガギィンッ!体勢を崩しながらも八郎は一撃を太刀で受け止める。背後の魔法少女を一瞥、そのまま右手を腰の小太刀にかける。魔法少女はそれに気づき、銃から手を離すとその場で飛び上がり、揃えた両足で八郎の背中を蹴りつけた。84

2015-01-01 13:39:33
おおらか @noba_nashi

「ムゥーッ!」蹴り飛ばされながらも八郎は地に手を付き前転、見事な体さばきだ!さらに起き上がりざま、素早く弓を構え、振り向きざまに発射。ダンッ!魔法少女も銃を拾い上げ発射。ズドン!前へ!前へ!二つの純粋な意思の衝突だ!挟まされた空気がたまらず悲鳴を上げる。85

2015-01-01 13:43:46
おおらか @noba_nashi

銃弾と矢は対消滅、行き場を失った前進運動の残滓がはじけ飛ぶ。密、八郎、それぞれの頬に一筋の線、そこから同時にゆっくりと血が流れる。86

2015-01-01 13:51:18
おおらか @noba_nashi

相手より先に撃つ。互いに考えていることはそれだけだ。血が頬を伝い、落ちるまでに、排莢(ボルトを引き、薬莢を排出すること)・矢筒から矢を抜き・装填(ボルトを押込み、次の弾を込めること)・矢をつがえる。87

2015-01-01 19:21:48
おおらか @noba_nashi

必殺の動作をあと一つと残すところまで、二人の動きは同時。さらに発射まで同時!まるでそれは計算し尽くされた演舞のようだ。放たれた凶器は再び衝突!衝撃!消滅!八郎は再び矢を構える。しかし魔法少女はその右手側へ回り込むように駆けている。弓矢の死角。88

2015-01-01 19:58:37
おおらか @noba_nashi

密は銃を構える。大事なことは姿勢だ。いくら引く力が強くても弓がしっかりと構えられなくては、矢をしっかりと構えられなくては、その真の力を発揮できない。弓を左手に持ち、右手で矢を持つ目の前の男もその例外ではない。そのはずだった。89

2015-01-01 20:12:13
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