オバケのミカタ第四話『オバケのミカタと瀬戸大将』Bパート(2/3)

Bパートです。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「何か、じゃないわよ。どうしたのそんなに興奮して。あなた今日お化けになったばかりでしょう」「姫、姫が」「姫?」「そうだッ。目が覚めたら姿が見えぬのだッ! 我が半身が! 愛しの姫が!」「あー……」哀は横目でマスターを見遣った。「確かさっき『ティーセット』って」 #OnM_4 94

2015-01-17 22:18:16
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ああ。それは元々、ティーポットとカップカップ二人分のセットだったんだ。だけど昨日、うっかりポットを割っちゃってね」「それだ!」瀬戸大将が飛び上がり、哀の頭を中継地点にしてマスターの足元へ飛びかかった。うひゃあ、と飛び退った拍子に足を滑らせ、マスターは尻餅。 #OnM_4 95

2015-01-17 22:18:37
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「貴様ーッ」瀬戸大将はマスターの腕を伝って肩まで駆け登ると、彼の頬にティースプーンを突きつけた。「姫をどうした! 言え!」「え、ええ?」「その割れたポット、どうしたの!」哀が助け舟を出す。「どうしたって……そりゃ、捨てたよ。もう一個のカップも欠けてたし」 #OnM_4 96

2015-01-17 22:19:05
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「な」瀬戸大将は一瞬、ぴたりと動きを止めたかと思うと、今度は健康器具か何かのように震えはじめた。「なななななな」マスターの頬をスプーンでぐりぐりと突く。「何ということをしてくれたのだ貴様ーっ! 死ね! 死んで詫びろ!」「ええ! 何、何で!? ひええ!!」 #OnM_4 97

2015-01-17 22:19:39
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「つまりね」哀は溜息混じりに解説した。「本当ならその割れたポットとカップが、その子の相方――っていうか『つがい』のお化けになるはずだったのよ。ところがいざ自我が芽生えてみたら、自分は棚の中で一人っきり」「それでこんなに怒ってるんだ」 #OnM_4 98

2015-01-17 22:20:02
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ハッ。こんなことをしている場合ではない」ひとしきりマスターを痛めつけた瀬戸大将は彼の肩から飛び降り、身体をかちゃかちゃ鳴らしながら走り出そうとした。哀が慌てて制止する。「ちょっとちょっと。どこ行くつもりなのよ」「決まっておろう。姫を探しに行くのだ」 #OnM_4 99

2015-01-17 22:20:47
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「探すって言ったって――当てでもあるの? 離れててもお互いの場所が分かる能力とか」「そんなものはない」瀬戸大将は憮然として言った。「だが必ずや運命の導きが我らを再び巡り会わせるであろう」「駄目だわこりゃ。あー、待って。あたしも行くわ。手伝う」 #OnM_4 100

2015-01-17 22:21:07
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

ティーカップにくっついた目玉が、怪訝そうに細められた。「何故だ。貴殿には関係なかろう」「そうでもないのよ。あたしだってお化けの味方だもの。困ってるお化けを助けて、人間との仲を取り持つのも業務のうちなの」哀はタブレット端末で手早く検索をはじめた。 #OnM_4 101

2015-01-17 22:21:39
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ん。今朝出したゴミだったらまだ、処理場に残ってるかもしれないわ。駅からバスで30分くらい。とりあえずそこからあたってみるのがよさそうね」哀は瀬戸大将に手を差し出した。「ほら、遠慮しないで。本当にお姫様と再会したいなら、使えるものは何でも使うべきでしょ」 #OnM_4 102

2015-01-17 22:21:59
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瀬戸大将は哀の手を前にしばらく戸惑っていたが、やがて無言でそこに飛び移った。「決まりね。それじゃマスター、お会計」「いいよいいよ今日はタダで。だから早いとこそいつ連れてっておくれよう」「あら、ごちそうさま。……だ、そうよ上繁さん。あなたはゆっくりしてって」 #OnM_4 103

2015-01-17 22:22:57
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

神奈は一瞬、自分だけ蚊帳の外に置かれたような気持ちになった。「……ねえ。あたしも一緒に行っちゃ、駄目かな?」「あなたが?」「お化けの味方の仕事ってどんなのか、興味あるんだ。ね、お願い。あたしにできることだったら手伝うから。それとも、素人がいたら迷惑?」 #OnM_4 104

2015-01-17 22:23:22
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「いや……う~ん。危険はなさそうだし、問題ないとは思うけど……」哀は真っ直ぐな視線を向ける神奈を見、肩の上の瀬戸大将を見、それからもう一度神奈を見た。「……ま、いいでしょ。その代わり、あたしの注意にはちゃんと従ってちょうだいね」「やった!」 #OnM_4 105

2015-01-17 22:23:57
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

友愛は割れ目を合わせつつ、ティーポットの下半分に上半分をそっと載せた。「動かないでよ……そのまま、そのまま」セロハンテープをべたべた貼って、上下をつないでゆく。「……OK。立ってみて」ポットはすっくと立ち上がった。テープがべりッと剥がれ、上半身が落ちた。 #OnM_4 106

2015-01-17 22:29:48
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「駄目か」「当然ですわ! ボーンチャイナがセロハンテープなんかでくっつくものですか。もっと頭をお使いなさいな」「うるさいなあ。じゃあガムテープ使う?」「ご冗談。跡が残ってしまうじゃありませんの」「どうせもう割れちゃってんだから、貼りっぱなしでいいでしょ」 #OnM_4 107

2015-01-17 22:30:21
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

喋りながら、友愛は軽い目眩に襲われた。どうして自分は割れたティーポットなんかと会話しているのだ。これは夢? でもつねってみたほっぺたは十分過ぎるくらい痛かった。じゃあもしかして、頭がおかしくなってしまったのか――先生が言うように、親の愛が足りないから。 #OnM_4 108

2015-01-17 22:31:33
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

渡辺家の居間である。友愛が生垣に引っかかっていたところを救出した喋るティーポットは今、卓上に置いたティッシュペーパーの箱に腰かけ、ふんぞり返っていた。ポットの底には逆さまのカップがスカートめいてくっつき、モザイクタイル状の足が、欠けたフチから覗いている。 #OnM_4 109

2015-01-17 22:31:51
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「あのねお嬢さん。金継ぎってご存じかしら」「キンツギ? 知らない」「漆で割れた陶磁器をくっつけて、そこに金粉を貼る補修方法ですの。ちゃんとまた使えるようになるばかりか、見た目も綺麗ですのよ」「あたしにそれをしろって言うわけ?」「他に誰がいるんですの」 #OnM_4 110

2015-01-17 22:32:34
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「無理だよ。だってやり方分かんないし、道具もないし」「ホームセンターに行けば一通り揃ったセットが売っていますし、それでも分からなければネットがありますわ」「なんでそんなに詳しいのさポットのくせに」「ポットがポットの直し方に詳しいのは当然でしょう」 #OnM_4 111

2015-01-17 22:32:55
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「言われてみれば確かに……ってそんなわけあるか。そもそもポットが喋ってること自体がおかしいんだってば。あんた一体何者なの? ポケモン? トランスフォーマー? それともあたしの幻覚?」ティーポットは首――に該当するらしい、蓋の付け根あたりをかしげた。「さあ?」 #OnM_4 112

2015-01-17 22:33:21
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「さあ、って」「分かりませんわ。目覚めたときにはもう、ワタクシは一人きりでビニール袋に詰めこまれていましたから。おのれの正体を教えてくれる者は誰もおりませんでした」「捨てられてたってわけ。一人っきりで……仲間とか家族とか、いなかったの?」「ええ」 #OnM_4 113

2015-01-17 22:33:37
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ただ……そうですわね。元いた場所には、ワタクシの対になる者がいた気がしますわ」それを聞いて、なぜだか友愛はほっとした。「なんだ。じゃあ、これからそいつのところへ戻るんだね」「戻りませんわ」「なんで!?」「だってワタクシはもう捨てられたんですのよ」 #OnM_4 114

2015-01-17 22:34:50
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「自分を不要だと断じた相手に執着したところで、得られるものがあるとは思えませんわ。それよりも新天地に赴き、おのれの新たな人生を切り開くことの方にこそ、ワタクシは意義を感じます」「あ……そう」食器が人生を語るとは。「ともあれ、まずは体を直しませんとね」 #OnM_4 115

2015-01-17 22:35:22
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「で、あたしに手伝えと」「そうなりますわ」「それ、あたしに何か得ある?」「袖擦り合うも多生の縁と申しますでしょう」「聞いたことない」「不勉強ですわねえ」「あのね。学校ってのはね、習ってないことまで知ってると怒られるもんなの。勉強も空気読まないと駄目なの!」 #OnM_4 116

2015-01-17 22:35:49
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ははあ」ティーポットは蓋の頭をコリコリと掻いた。「人間の子供も大変ですわね」「食器に同情されても全然嬉しくないんですけどお」「そうですか。……じゃあ、仕方ありませんわね。ご縁がなかったと言うことで」ティーポットはずり落ちた上半身を据え直し、立ち上がった。 #OnM_4 117

2015-01-17 22:38:04