「スナイパーズ・アイズ・シー・ザ・ワールド・オバー・ザ・ガン・サイト」

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

◆与太話◇ ◆望まぬならミュート◇

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「スナイパーズ・アイズ・シー・ザ・ワールド・オバー・ザ・ガン・サイト」

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ひゅう、と冷たい潮風が吹いた。「寒い」潮風に吹かれ、洋上に立つ若葉は呟く。だらしなく着こなした上着とネクタイが風にあおられはためく。現在時刻午前5時。早朝の洋上の風は、思いの外体を冷やした。艤装のタービン熱が救いであった。なければ風邪を引いていただろう、と若葉は考えた。 1

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艤装を纏い、洋上に立つ若葉は常人ではなく、深海棲艦を祓う為に船霊をその身に宿した超人的存在、『艦娘』である。本来ならば流氷浮かぶ極寒の海域ですら問題なく活動できるほどの耐寒性を持つ艦娘であるが、それでも寒いものは寒い。「早く終わらせよう」若葉は艤装を軽く点検する。 2

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「出力、安定。艤装精神接続、良好。連装砲…」若葉はピストル型12.7cm連装砲を構え、虚空へ模擬弾を撃ち出す。ZANK！「問題なし」撃ちだされる模擬弾を見つめ、若葉は呟く。PiPi！『おはようございます、若葉さん』同時に艤装に内蔵された通信装置から、声が響く。 3

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「おはよう、管制官殿」若葉は自身の後方にある佐伯湾泊地に視線を向け、通信に応じた。『早朝訓練とは感心ですね。的は必要ですか？』「３つ、頼む」『了解』すると海中から3つの紅白の円形射撃ターゲットが浮上する。「イヤーッ！」ZANK！浮上と同時に、ターゲットの一つが中央から破砕！ 4

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「イヤーッ！」ZANK！ZANK！息つく暇もなく、残り二つのターゲットも同じく中央より破砕！タツジン！何たる早撃ちか！『お見事』通信の向こう側の管制官も、モニター越しの光景に感嘆を禁じ得なかった。『的はまだ必要ですか？』「いや、大丈夫だ」若葉はリロードしつつ答える。 5

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『了解。何かご入用でしたらお声掛けを』「助かる」若葉は通信を打ち切り、目を閉じた。（今日の“相手”は…春雨？いや、昨日やったな。磯風？手合せの経験が少ない。夕立？時雨？あの二人ではこちらが訓練にならん。となれば）若葉は目を開いた。そこには、改二艤装を装備した吹雪の姿があった。 6

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この吹雪は若葉のイマジネーションの産物である。優れた武人はパントマイマーの如く己のイマジネーション上の相手を現実に投影することができる。達人となれば、人と同じ大きさの蟷螂や油虫などの、現実に存在しえないものですら投影可能であるとされる。幻影の吹雪は挨拶をした。当然声は無い。 7

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「若葉だ」若葉は幻影吹雪に挨拶を返す。己のイマジネーションが造りだしたとはいえ、武を交わすならば挨拶は必須だ。そして、「イヤーッ！」ZANK！挨拶からコンマ7秒後、若葉のピストル型12.7cm連装砲が砲火を吐く！幻影吹雪はこれをブリッジ回避！そして勢いをつけ後方宙返り射撃！ 8

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若葉はこれを右へ滑走回避！そして未だ空中にいる幻影吹雪へ向けて早撃ちを仕掛ける！「イヤーッ！」ZANK！ZANK！幻影吹雪は空中で高速回転！そして10cm高角連装砲の肉厚な上部装甲で持って砲弾を弾く！そして幻影吹雪は着地と同時に若葉へ向け高速突撃！牽制として高角連装砲の砲撃！ 9

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（近接カラテではこちらが不利）若葉は高速思考し、後退しながらの射撃牽制を開始した。射撃戦術の一つ、退き撃ちである。彼女が知る吹雪は元々のカラテ素養の高さに改二艤装による高水準の砲雷撃能力を持つ、万能型の戦士である。対する若葉は狙撃に抜きんでた才を持つが、それ以外は平均的だ。 10

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故に、近接戦や雷撃戦ではなく、砲撃戦でのダメージレースこそ若葉に勝機があった。（魚雷を放たれる前に削りきる）若葉の精密射撃が徐々に吹雪の装甲を削る。やはり砲撃戦ダメージレースでは若葉が有利！だが、その時！幻影吹雪が唐突に酸素魚雷を放つ！（何だ？）若葉は魚雷を迎撃！ 11

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迎撃した魚雷は水柱を立て爆砕する。無論、この水柱も若葉のイマジネーションだ。実際に水柱が立っているわけではない。若葉が迎撃した魚雷の意図を高速思考しようとした瞬間、更なる水柱が上がる！「何！？」若葉は状況を判断し困惑した！幻影吹雪が自ら発射した魚雷を撃っているのだ！ 12

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2本。3本。4本。連続して立ち上がる水柱はやがて一瞬の濃霧として地上に降り注ぐ。幻影吹雪を撃たんとした若葉は気が付いた。（霧で、吹雪が見えん！？これが狙いか！）若葉は一瞬でフーリンカザンを奪われたことを察するが時既に遅し！幻影吹雪は既に若葉の背後を取っていた！ 13

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（シマッタ！）若葉は振り向き様に撃とうとしたが、幻影吹雪の右腕に銃身が逸らされる！そして幻影吹雪の慈悲なき左手横薙ぎチョップが若葉の首を薙ぎ、幻影吹雪の姿は掻き消えた。それは、若葉の敗北を意味していた。暫くの間、若葉は茫然と立ち、やがて短く呟いた。「負けた、か」 14

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若葉は懐からタバコを取り出しつつ、先程の戦闘について考察した。（ダメージレースに持ち込んだからと言って、それを維持できねば話にならん）タバコの火をつけ、そして吸う。彼女は成人で、喫煙者なのだ。（要はフーリンカザンの奪い合いだ。決して奪う隙を与えるべからず）若葉は陸へ戻る。 15

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「ん？」陸に戻る途中、若葉は気付いた。何者かが筒のようなものを構えているのを。（誰だ？）筒の先はこちらに向いていない。そして、その何者かは、忙しなく動き回っていた。（他に早朝訓練をしている者が？）若葉は訝しみ、慎重に近づく。 16

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近づけば分かったが、それは男であった。ジャージを着こみ、筒と思っていたものは何らかの頭を模した巨大な弩であった。（一体何を？）若葉は暫く男を観察した。男は何かと戦っているかのように動いていた。（もしや）若葉は男への視線を集中させる。そして、金色の化け物の姿が浮かび上がった。 17

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（あれは？）若葉は金色の化け物を見て驚愕した。それは顎に棘を持ったトカゲめいた顔を持ち、太い2本の脚と巨大な翼を持ち、巨木めいた太さの扁平な尾を持っていた。（ドラゴン…いや、前肢が翼だからワイバーンか？）若葉は以前子日に見せてもらった幻想生物辞典の内容を思い出していた。 18

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真の達人は、己のイマジネーションの具現を他者に認識させることすら可能である。若葉の目の前で、無自覚にやってのけている男の行動はまさにそれであった。そして、何よりも男の動きの無駄の無さ！化け物の攻撃を全て避け、的確に弩を撃ち込んでいる！若葉は目の前の光景に飲まれた。 19

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男の砲撃は、最早狙撃と言っても過言ではなかった。突進は足を穿ち転倒させ止め、サマーソルトめいた尾の薙ぎ払いを尾を撃ち貫くことでバランスを崩し、吐き出されんとした火は喉と火種を狙撃し、逆に化け物の喉を焼いて見せた。（スゴイ）若葉は声に出さず驚嘆しきりであった。 20

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5分ほどの間、男の一方的な狙撃が続き、遂に化け物は地に伏せ、消えた。「フゥー」男は息を吐き、弩を折り畳み、背負う。そして洋上で立ち竦む若葉に気が付き、視線を向けた。「おや、君は？」若葉は一瞬平静を欠いたが、挨拶した。「駆逐艦、若葉だ」男も挨拶を返す。「どうも、ウォッカです」 21