公理主義と後期クイーン的問題

数学における公理系、自然科学における理論と、探偵小説における手掛かりとの関連についての考察まとめ
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@quantumspin

「不完全性定理の前提破壊と後期クイーン的問題」をトゥギャりました。 togetter.com/li/767652

2015-01-08 22:22:15
@quantumspin

法月以降、探偵小説における手掛かりは、数学における公理系や自然科学における理論とパラレルな関係にあるというのが、後期クイーン的問題を論じる前提にあった。確かに、いずれも推論規則により定理を導く点では共通している。しかし他方、手掛かりと公理系とは特徴が異なる面もあるように思われる。

2015-01-23 21:37:50
@quantumspin

フェアな探偵小説のひとつの特徴に、解が唯一であり、手掛かりから得られる諸法則は全てこの唯一解を導く補題となっている事が挙げられる。これは、数学や自然科学の特徴、すなわち、公理系ないし理論から、対象領域における様々な法則、定理を導く、という特徴とは、一見、異なるように思える。

2015-01-24 06:54:40
@quantumspin

この違いを明らかにする為に、前述したNewton力学の3公理、Newton方程式、作用・反作用の法則、慣性の法則を手掛かりに、質点の自由運動を推理する事を考えてみよう。容易にわかるように、この場合のNewton方程式の解は、初速度を保存したまま等速直線運動をし続ける質点に等しい。

2015-01-24 07:12:07
@quantumspin

3公理を手掛かりに得られたNewton方程式の解は、現実の質点のふるまいを、満足いく精度で推理できていると言える。ところで導出に際し、我々は作用・反作用の法則を全く必要としなかった。質点の等速直線運動という運動形態だけを推理するなら、作用・反作用の法則を手掛かりと見なす必要はない

2015-01-24 07:26:46
@quantumspin

公理系に含まれる諸公理は、公理系の対象領域を定める。対象領域を拡張する為に新たな公理を追加する事は、その公理が、公理系の完全性、独立性、無矛盾性の基準をクリアする限り、許されるだろう。作用・反作用の法則は、等速直線運動を越え、質点の様々な運動形態を説明する為に導入されるのである。

2015-01-24 07:35:40
@quantumspin

探偵小説における手掛かりも、これと似た状況にある。探偵小説において、手掛かりを非手掛かりと峻別する為には、それらは完全性、独立性、無矛盾性の基準をクリアし、同時にそれらは事件に関係していなければならない。力学の公理が対象領域から峻別されたように、事件が手掛かりを峻別するのである。

2015-01-24 08:20:35
@quantumspin

ところでHilbertによれば、公理系には、『「より基本的」な命題への帰着を可能ならしめ』る、より深い公理系の連関が存在する。例えば良く知られているように、Newton方程式はHamiltonの原理から導出される事が知られているし、熱力学はBoltzmannの原理に基礎づけられる

2015-01-24 09:24:46
@quantumspin

斯様にして、公理系それ自身も別の公理系から導出されたりする、即ち手掛かりは別の手掛かりから導出されたりする事が明らかになってくる。Hibertはこれを公理の従属性と呼んだ。この連関の存在が、手掛かりに関する後期クイーン的問題と密接に関係している事は、言うまでもなく明らかだろう。

2015-01-24 09:40:37
@quantumspin

事件の真相なる唯一解を導出する為作者が配置する手掛かりには、この階層の自由度があり、どの階層の手掛かりを配置するかは多分に作者の恣意性に拠るだろう。そして、実はこの時作者が切り捨てた残余―事件から手掛かりに遡る際の深堀の差止―こそ、探偵が被る手掛かりに対する疑義に他ならないのだ。

2015-01-24 10:04:04
@quantumspin

探偵の手掛かりに関する真偽判断の悩みは、ある意味、作者の恣意性に拠ってもたらされているものである。作者は、作品制作に際し手掛かりの由緒を省略した。作者のこの行為が、後期クイーン的問題として探偵を苦しめる。作者は、無限の手掛かり記述を放棄する事で、探偵に苦しみを押しつけるのである。

2015-01-24 10:15:22
@quantumspin

まとめを更新しました。「一般設計学と後期クイーン的問題」 togetter.com/li/780106

2015-06-07 11:14:49