【邪悪の樹――二籠】最終戦闘フェイズ――死の樹

『伽藍の矢』――貪欲(@habgier_toe) 『万斛の鎌』――醜悪(@Akagachi_atom
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【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

ただ黒のみが辺りを塗りつぶす世界かと思えば、そこにはぼんやりとだが確かに光があるようだ。そう【醜悪】が気が付いたのは、扉を潜り幾らかして、漸く闇に目が慣れて来た頃合いだった。 双頭は形こそ鳥のそれを模してはいるが、彼らの様に夜目が全く聞かぬわけではない。

2015-01-21 21:17:14
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

辺りへぎょろりと目を向ければ、濃紺が広がり始める空にはこれが最後とばかりに紅く色づいた日がその存在を主張している。その周り、紺と赤のぶつかり合いでよくは見えないが、ぽつぽつと何かの影らしいものがあるのを確認出来る事から、どうやらただ平坦なだけの土地でもないらしい。

2015-01-21 21:17:43
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『おーい、おーい』 落ちかけた日が紅く僅かに照らす石作りの道を、子は巨躯に抱かれ進む。 初めて肌で感じる日没の空気は、黙っているとすぐ不安と侘しさに押しつぶされてしまいそうで、子は出来るだけ無い声帯を震わせて探し人達に呼びかけた。

2015-01-21 21:18:20
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『なぁ、ルスト。アップレーヌング。いるんだろ?』 声に返答はなく。それでも子等は辺りを見回し、歩を止める事はしなかった。 『アテイスムスも、アパティーもだ。なぁ、なぁ、いるんだろ。』 諦めてしまったら、そこで終りな気がして。いつまでも信じていたくて。

2015-01-21 21:22:15
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

答えを求めて【醜悪】は進む。 進む。進む。進む。 『俺、帰ったぞ。ちゃんと約束守ったんだ、なぁってば。』 それでも声は、ただ宵闇の空気に木霊するだけだった。

2015-01-21 21:23:34
【無神論】アテイスムス @evil_athe

ーー呼ばれた、と。 感じた目が、開いた。

2015-01-21 22:27:39
【色欲】ルスト @actLust

──ゆるりと、瞼が開かれる。 ──血濡れた眼は何を映す事も無い。 ──ただ、微睡の淵で微笑んで。 「──ごめんね、りひ」 ──囁き落ちる、届かぬ声。

2015-01-23 02:51:17
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

宙に、指が躍る。 其れは寝そべり、誰にも見えぬ楽譜を宙へと描き続けていた。 羊皮紙もペンもなにもない。 記録されず媒介もされない。 聴くものも理解するものもいない。 それでも止めどなく溢れる旋律を記すのは己のためか、誰かのためか。

2015-01-22 19:31:20
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

ひとつ瞳に映ったのは見知った2人。 それを見て指が一瞬止まったが、何事もなかったように動きだす。 喜びも嘆きも感じない。無気力といったところか。 先程まであんなに思うことがあったというのに… ――ああ、心臓を持っていかれたのだった。 まさに心を奪われてしまったか、と苦笑した。

2015-01-22 19:33:37
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

ただでさえあまり加減の出来ない力の全てを込めても、最後の扉はむずがるようにゆっくりとしか開かなかった。そして隙間からでも容赦なく入り込んで来たのは、冷え込んだ黄昏の空気。見上げた空はひとさしの紅を残して全て黒に沈んでいる。外套の合わせを調節しながら、【貪欲】は一歩踏み出した。

2015-01-22 00:46:50
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

歩きながら吐く息は白い。痩躯が一度身震いし、周囲を見はるかした。 近くには古びた見知らぬ木造の建物と、小さな池。遥か彼方には森があり、其処へと至る為か此方を目指す為に造られたのだろう、石を敷き詰めた道が伸びている。 道と森の境界には、まるで扉のない門のような、深い緋色の建造物。

2015-01-22 00:47:28
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

ふむ、と言葉にならない音を洩らし、道伝いに進んでいく。その最中も、常に周囲に視線を走らせ、何処からか影が飛び出して来ないか伺う。 通り抜けた風が、今や不揃いの髪を遊ばせ、木々に行きあたってはざわざわと騒ぎ立てる。 その只中で、耳朶が一つの声を拾い上げた。

2015-01-22 00:47:41
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

聞こえる問い掛けは自身の知る声ではなく、呼ばれる名前も全て知らない。――否、ひとつだけ、知っている。 アップレーヌング、Ablehnung。【拒絶】だ。 心臓が書いて字の如く心を含むものであるならば、己の一部は今、歓喜に打ち震えているだろうか。それとも、嘆き悲しんでいるだろうか。

2015-01-22 00:48:19
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

逡巡は三秒。考えたのは、相手の敵意、罠の可能性、好機に乗ずる第三者の有無。差し引いても、このまま遠ざかられるほうが痛手だ。 僅かに声を張り上げて、呼びかける。 「其処にいるのは、【万斛の鎌】の一振りかい?」

2015-01-22 00:48:52
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

相手がさほど動かないならば、暫くして声の出処を探り当てるだろう。どちらにしても今の【貪欲】に隠れる意思はなく、相手が先に此方を認めるかもしれない。

2015-01-22 00:48:58
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

ぐぅらり、ぐらり、巨躯が揺らぐ。 揺り籠の様なそれは、いつもなら子の心を安らげるものであるが、今回ばかりは勝手が違う。不規則なその揺れに不安を煽られ、仲間を呼ぶ声には焦燥の色が浮かぶ。 『ここにもいない』『あそこもいない』 『どこ』『どこ』『どこ』

2015-01-22 02:35:11
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

それぞれトーンの違う幼い声が、双頭の口を通して飛び交い続ける。いずれの声も、滲む感情は道を失い途方にくれた迷い子のそれだ。雑多に耳を掠めるそれらの声に阻まれながらも、子は返る音を期待して耳をそば立てる。 自らの放つ雑音に混じって、コロリと投じられた異音に、子はすぐさま顔を上げた。

2015-01-22 02:36:23
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『誰だ』 双頭を頭上高くに持ち上げれば、硝子玉の如き瞳孔がぎょろりぎょろりと眼孔を走る。 離れた位置から、此方へ向かい動く影が一つ。聞こえた声も、問いからしても、それが己の探していた人物であることはまずないだろう。

2015-01-22 02:36:39
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

万斛の鎌、と言う言葉には聞き覚えがあった。確か、屋敷に来たあの鳥が自分達の事をそう呼んでいた筈だ。じゃあ向こうはガランノヤという奴か。子は目を伏せ、己の舌ではなく双頭の嘴に言葉を乗せた。 『ああそうだ。でも違う。違う。聞きたいのはお前の声じゃあない』

2015-01-22 02:36:53
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

返された肯定、そして重ねられた否定に、歩みを止め、顎を引いた。足を肩幅に開く。 全貌が見渡せる位置で【貪欲】は相手を観察する。 この世の生き物を無理矢理に組み合わせて生み出されたような異形。その中で抱かれている幼子が持ち上げているのもまた、得体の知れない生物の双頭。

2015-01-22 12:35:22
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

鳥の眼は此方を見、幼子の瞳は瞼で隠されている。果たしてこの姿は禍罪か生来か、失っている感覚は何か。 結論を出すには情報が足りていないと判断し、口を開く。 「私は【貪欲】。仲間とはぐれた、といったところかな? 一度停戦としてくれるなら、探すのを手伝おうか」

2015-01-22 12:35:29
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

表情こそにこやかな笑みだが、提案は決して親切心からくるものではない。他に敵陣営がいるならば、別々の方向から攻撃されるより纏めて相手をするほうが幾分ましだというだけだ。強いて言うならば、明らかに戦闘より捜索を優先している相手に掴みかかるのは無礼だろう、という認識もあるにはある。

2015-01-22 12:35:49
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

両腕を広げて武器を持っていないことを示し、続ける。 「もっとも、探すのに邪魔だからまず私を殺すというならこちらも手加減はしないし、どちらも望まないなら、君の気が済むまでおとなしくしているよ」 さてどう返してくるかと、じっと相手の様子を窺った。

2015-01-22 12:35:55
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…手伝う?一緒に探してくれるのか?』 相手の提案は子等にとってとても意外なもので、一度は伏せられた黒曜の瞳が丸々と開かれる。 その腹の内を勘繰る程、子も骨も何かを疑う事に慣れてはいない。掛けられた言葉をそのままに受け取って、子はひとまず警戒を解いた。

2015-01-22 13:32:37
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