【邪悪の樹――二籠】最終戦闘フェイズ――死の樹

『伽藍の矢』――貪欲(@habgier_toe) 『万斛の鎌』――醜悪(@Akagachi_atom
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【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『おまえ、良いやつだな。ガランノヤは、良い奴だ。……グラオザームも優しかった。』 嬉しそうに微笑んで、巨躯は【貪欲】と名乗る相手へと身を寄せる。 双頭をその眼前へと突き出してしっかり紫苑の瞳と視線を合わせれば、暗がりでよく見えなかった相手の顔が詳細に瞳に刻まれた。 言葉は続く。

2015-01-22 13:36:52
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『俺様達は【醜悪】。大事な奴らを探してんだ、記憶の遡れる限り、ずっと一緒に居た。俺様は殆ど寝てたけど、でも、一緒だった。』 声を放つ鳥頭は無機質無表情であるが、声は僅かに上擦っている。藁にも縋る思いで、子は双頭を更に近づけた。

2015-01-22 13:37:16
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『先にこっちに着いてる筈なんだ。絶対そうなんだ。なぁ、おまえ、知らないか?俺様達と同じ、その何とかの鎌と言う奴だ』

2015-01-22 13:37:32
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

目の前にずいと差し出された双頭に、咄嗟に後ずさりそうになる自身を制する。此方から不審を露わにする訳にはいかない。 硝子を嵌め込んだような両眼と、確かに視線が合った心地がした。 一度は黒曜に眼差しを向けるものの、此方を見て喋ってくれと言外に告げられていると判断して、そちらを向く。

2015-01-23 00:52:30
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

賞賛に混じって零れた名前。【残酷】。これはまた、厄介な相手が先立って会ってしまったものだ。 続く言葉に思い出すのは、【拒絶】。【万斛の鎌】は互いが互いの掌中の珠らしい。自分が以前仲間や敵に向けた好意より余程、激しく深い。 畳み掛けるような言葉を浴びながら、【貪欲】は思考する。

2015-01-23 00:53:34
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

考えながら言葉を紡ぐ。僅かばかり眉根が寄る。 「いや、私は屋敷から出て来たばかりでね。ここまで来る途中では、誰も見ていないよ」 相手はこちらの陣営に悪感情がない。生きていて、しかし記憶が無い。 「それにしても、【残酷】か。優しかったろう? 私たちの中で、一番面倒見が良かった」

2015-01-23 00:54:37
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

【残酷】を連れて帰ったのか。それとも心臓を喰らっていないだけなのか。 ――答えは、明白だ。 「いや、【残酷】だけじゃない。【愚鈍】も、【不安定】も、【物質主義】も、きっと優しかった」 優しくなかったなら、真実邪悪であったなら、おそらくは、此処にいた。

2015-01-23 00:55:05
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

【残酷】を連れ帰ったなら、【醜悪】の傍を離れるという選択はしないだろう。 【万斛の鎌】が【拒絶】や【醜悪】のような存在ばかりなら、【醜悪】を不安にさせたりはしないだろう。 置いて行きなど、しないだろう。――置いて逝って、しまったのだろう。

2015-01-23 00:56:00
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

「【万斛の鎌】も五人だったね。一人は君だ。探さなければいけないのは、何人?」 さて、言い募った子は、この問いの意味に気付くだろうか。 ――【貪欲】は、決して優しくない。

2015-01-23 00:56:24
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『やさしかった。いっぱいいっぱい、俺達と遊んでくれたんだ』 挙げられた【残酷】以外の名は、子等には聞き覚えの無いものばかりだ。けれど、他ならぬこの者が言うのならきっとそうなのだろう。返る答えに、鳥頭の洞から覗く瞳孔が揺れる。

2015-01-23 21:24:43
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

扉の向こうに置き去りにしてしまった【残酷】は今頃どうしているだろうか。本を読み上げる声が止まった後も、暫くの間子は寄り添っていたが、一度潰えた声を再び聞くことは終ぞ叶わなかった。あれが死というものだとするならば、せめて埋めてやるべきだったのかもしれないと子は僅かばかり後悔をした。

2015-01-23 21:26:08
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

人は死んだら土に埋めてやるものなのだと、【醜悪】は屋敷あった絵本で読んだ事があった。しかしそれをしなかったのは、勿論あの場所に掘れるような場所がないというのもあるが、それよりも【醜悪】自体が【残酷】の死を完全には認めていなかったというのが大きい。

2015-01-23 21:26:39
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

あの傷で再び動き出す事は不可能に近いとは解っていても、どこかに可能性を残して置きたかった。けれど目の前の【貪欲】の反応からして、その僅かな可能性は否定されたも同然のものとなってしまったが。 『…いたい』 胸の辺りが、不意に酷く痛んだような気がした。

2015-01-23 21:26:54
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

双頭を膝におろし、自由になった片手でとんと胸を叩く。服は汚れているが、そこに傷はない。不思議に思いつつ、続いて耳に入った言葉に子は更に首を捻った。 『何人?変な事を言う奴だな、5ひく1は4だろ。だから、4人だ』 引き算は得意なんだと自慢げに、言葉の上辺だけを掬って子は答えてみせた

2015-01-23 21:27:12
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

紅葉のような小さな手で胸元を押さえる相手に、【貪欲】は目を細める。眼前の子が【残酷】を殺したとして、それは例えば、幼子が蝶を捕まえようとして誤って握りつぶしてしまったようなものだったのだろう。自分と相手ではこの場所に至った経緯がまるで違う。 それでも、どちらも『勝利者』なのだ。

2015-01-24 13:30:13
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

自慢げに答える姿はとても愛らしく、されど【貪欲】はゆっくりと首を横に振る。 「いいや、違うよ。少なくとも、あと一人引かなきゃいけない」 先の戦いで焼き切れほつれた髪が視界を掠める。結う必要が薄れる程度には短くなったんだなと、頭の隅で考える。 「【拒絶】は、此処には来れないよ」

2015-01-24 13:33:28
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

思いを馳せる、自らこそが焼き殺した相手。そこには間違いなく、賛辞という名を被せた殺意があった。後悔はない、反省はしない。 「あの子は、最期まで誇り高かった。君たちをずっと大事に思っていた。それでも私は、勝って外に出たかった」 まるで独白のように紡ぐ。そして。

2015-01-24 13:35:40
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

「それは、今も変わっていないよ」 かそけくも確かに、言い添える。今度は、黒曜を見据える。 「だから私は、最終的には君たちに戦いを挑むよ。勝ちを譲ってくれないなら、殺すことすら厭わないよ。それでも、私と一緒に探すかい?」

2015-01-24 13:38:09
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

風が吹く。ざわざわと森が鳴く。そのせいで聞き取れなかったという理由が許される大きさで、呟く。 「仲間の死を認められないなら、勝って外に出た後の君の世界は、きっと何も楽しくないよ」

2015-01-24 13:40:34
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…なんで、そんな意地悪言うんだ?』 少し間を置いて、洩れた声は酷く冷ややかだ。 告げられた見知った者の名前、その言葉の意味するものを悟った後も、子の幼い表情は怒りや驚き、悲しみといった類の感情による歪みを映しはしなかった。 光を宿さない程の黒い瞳が、珍しく正確に相手の顔を捉える

2015-01-24 17:21:18
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『意地悪はいけない事だぞ?ああ、そうだ、意地悪されたんだから怒らなきゃ。人は嫌な事されたら怒るんだ。嫌な事したんだから、こいつは嫌な奴だ。おこらなきゃ。おこらなきゃ。おこらなきゃ。』 勢いをつける様に巨躯が身を捻り、【残酷】によって付けられた傷の残る尾を振り上げた。

2015-01-24 17:21:49
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

自己暗示の様に洩れ続ける言葉とは裏腹に、子の胸の内にすら明確な怒りの感情はなく、あるのはただただ困惑ばかりである。どうしてか、屋敷に入り込んだあの鳥も、目の前のこの相手も、【醜悪】の中の確固とした希望とは真逆の事ばかりを口にする。

2015-01-24 17:22:17
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

その度に頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回される心地がして、不快感とも呼べないそれに子は小さく身を縮こまらせた。それが望まない事実に対する拒絶感である事には、気付きもしない。 巨躯は子を守る様に抱く力を強め、八つ当たりの様に振り上げられた尾はそのまま【貪欲】ごと地を抉るべく振るわれた。

2015-01-24 17:22:41
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『……外なんか、出なくていい。一緒にいたいだけだから』 ざわりと木々が犇めく音に邪魔をされ、それでもなんとか聞き取れた相手の声に、そんなふうに答えながら。

2015-01-24 17:25:35
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

冷ややかな声は、それだけならばひどく純粋に不思議がっているように聞こえた。【貪欲】の言葉の意味だけでなく、【醜悪】自身の感情さえも。 紡がれ続ける言葉は、こちらに示すというよりも声の主に染み渡らせるための役割を果たしていて、【貪欲】は視線を落とした。

2015-01-25 02:34:51