【邪悪の樹――二籠】第二交流フェイズ――万斛の鎌

醜悪(@Akagachi_atom
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【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

誰も居ない屋敷の大広間。 其処に再び、一羽の鳥が降り立った。 翼を畳み、両目を閉ざし。 それは帰りを待っている。

2015-01-17 18:06:54
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『お、今度こそ俺様達が一番ノリか?』 行きと同じく、悪戦苦闘しながら何とか潜り抜けた扉の先で、【醜悪】の声だけが響く。 見慣れた屋敷の広間に、未だ自分達以外の人影は見えない。外れてしまった双頭は子の腕に抱かれており、ぎょろりといつもの様に目玉を回す。

2015-01-17 18:09:56
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『あいつら、この頭を見たらなんて言うだろうな?吃驚させてやろうか。そんでそんで、その後におかえりって言ってやるんだ』 普段の定位置に巨躯を移動させ、子は満足そうに笑う。 同様に笑い声をもらす声達と共にこっそり悪戯の計画を立てていると、ふと、目玉の一つが卓上にある小さな影を映した。

2015-01-17 18:10:21
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…あん時の目覚まし鳥か?』 テーブルに身を投げ出して、双頭を影に近づける。あまり物覚えが良いとは言えない子等でも、鳥など殆ど見ないこの屋敷の中でそれを見間違える事はない。 まじまじと鳥を見据える双頭の瞳が、それぞれぐるりと一回転したかと思えば、にんまり笑顔のまま、子が口を開いた

2015-01-17 18:11:07
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『やぁやぁおまえ、ご機嫌よう』 嘴から洩れる子供の声。倣う様に、『御機嫌よう』『きげんよう』と更に音が重なる。 【醜悪】にとって、それは他の【邪悪】が揃うまでの単なる暇潰しのつもりだった。そういえば、と鳥頭は続ける。 『……心臓は、とって来なかった。あれは、あいつのもんだから』

2015-01-17 18:11:54
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 声をかけられた鳥は目を開く。不穏な両目をギョロリと現し、ニタリと笑う。 『ご機嫌よう』 両腕を広げるかのように翼を広げ、それは歓待するように朗々と声を響かせる。 『おめでとうございます。貴方は戦いに勝利した。貴方は自らの手で未来を勝ち得たのです』

2015-01-17 21:54:14
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 『心臓をお取りになられなかったことは非常に残念ですが、それももはや過去のこと。先ずは祝福と賛辞を。それから、これからの話をしましょう。戦いはまだ、終わりではありませんから』

2015-01-17 21:55:02
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…これから?何を言ってんだよ。これからあるのは永眠に勝るとも劣らない、俺様の安らかなお休みタイムだけだっての』 まぁ、その前に帰って来た【邪悪】達にちょっとした悪戯を仕掛ける心積りではあったのだが、それは敢えて口にはしない。双頭をぐらり、傾けると同時、子もこてりと首を傾げ。

2015-01-17 22:31:36
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…あとおまえ、その顔きもいぞ。夢に出そうだからやめてくれ』 にたりと笑う鳥を、双頭の先でつんつん突く。傍から見れば、笑う鳥も歪な頭部が幾重にも張り付いている鳥頭も同様に薄気味悪い物ではあるのだが、子は己等の事を棚に上げたまま、鳥をやんわりと突くのを止めなかった。

2015-01-17 22:32:08
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 『それは失礼致しました』 突かれる鳥は、その顔から笑みを掻き消す。そうして喉の奥だけで笑って、こう言った。 『おや、それでは困ります。貴方はこれから、また新たなる戦場へ行かなくてはなりません。貴方自身の感覚を取り戻し、屋敷の外の世界を見る為にね』

2015-01-18 08:05:02
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…かんかく?』 僅かに笑いを含みながら答える鳥の声。それにぴくりと眉を顰め、怪訝そうに子は繰り返した。取り返さなければならないものなど、記憶の他、自分は何か欠いていただろうかと首を捻る。 記憶意外に、己に何か欠けているものがあるとすれば、子に思い当たるのはただ一つだけ。

2015-01-18 15:15:27
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

けれどそれは、始めから自分に持ち合わせがないものだと思っていた。しかし鳥の言葉を上辺だけでも捉えてみれば、元より自分達には「それ」が備わっていたとでも言うかのようだ。 『…んだよ、じゃあその戦場とやらに行けばそれが戻るって言うのかよ。まさかまた心臓喰えとか言うんじゃねーだろうな』

2015-01-18 15:16:35
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

思えば、自分以外の屋敷の者達もどこかしら感覚を欠いていた事を思い出す。 もし、彼らもそこへ赴くことでそれらを取り戻せるのだとしたら、と考えて。 ならば今ここにいない彼らの分もしっかり聞かねばと、子は無意識に背筋を伸ばした。

2015-01-18 15:17:47
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 『その通り』 鳥は神妙に頷いて、『醜悪』の背後を翼でもって指し示す。其処には、以前の扉とは全く違う、鉄で出来た大きな扉が一つだけ。 『あの扉の向こうに居りますは、【伽藍の矢】。此度もその心臓を喰らえば、貴方の失った感覚を取り戻すことが出来るでしょう』

2015-01-18 16:11:23
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『……またガランノヤ?というか、扉の数が足りねーぞ』 翼の指し示す先、聳え立つ鉄の扉は何度数えても、数えなくても、たった一枚しか見当たらない。 さては数を間違えたか。心臓だの戦場だのと物騒な事を言う割に、抜けている所もあるのだな。そんな風に考えて、子はからりと笑う。

2015-01-18 20:02:22
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…四つ。あと四つ扉がいるぞ、おっちょこちょこちょいさんめ。遅刻してる奴らもそのうち来るから、早いとこ扉をだしてやれよ』 つんつん、つんつん。促す様に、双頭の先で再び鳥を小突く。 そういえばなかなかあいつら帰って来ないな、なんて頭の奥でひっそりぼやきながら。

2015-01-18 20:02:52
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 『いいえ、扉は一つのみ。戦場は一つしかありません』 つつかれながらも、鳥は涼しい顔で言葉を紡ぐ。 『これは二度の闘争によって完成される儀式。二度目の戦場は、元より一つしかありません。それに』 其処には、決して。

2015-01-18 20:21:54
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 『死者がくぐるべき扉など、この世の何処にも現れません』 偽りは無く。

2015-01-18 20:23:56
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…………なに、言ってんだおまえ。』 ピタリと、双頭によって鳥を小突く手が止まる。 目の前の鳥が紡ぐ言葉はいつだって【醜悪】にはよく分からなかったけれど、その一言だけは何となく分かってしまった。これが俗に言う悪い冗談というやつかと、子は頬を膨らませ。

2015-01-19 17:13:20
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『なんだよ。あいつらが死んでるって言いたいのか?そんな訳ねーだろうが、だって死んでるのは……』 言いかけて、口を噤む。別に、何か思う事があったわけではない。ただ、文字通り言葉が出てこなかったのだ。

2015-01-19 17:14:05
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

自分は、何を言おうとしていたのだろう。言いかけたその先に、何を付けたそうとしていたのだろうか。するりと口から滑り出た言葉の続きは、まるで靄がかかったように脳裏で薄れ、消えていく。 それによって生み出された不自然な間を取り繕う様に、首を振るって、子は新しく言葉を紡いだ。

2015-01-19 17:14:26
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『ああ、そうだ。もしかしたら、あいつら先に向こうに言ってるのかもしれない。一番乗りだと思ってた俺様達が、実はビリだったんだ。なぁ、そうだよな、きっとそうだ』 双頭を抱える腕が、僅かに震えている。連想するように、本の中に取り残してきてしまった【残酷】の最後の姿を思い出したからだった

2015-01-19 17:16:27
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

@Akagachi_atom 『そう思われるのでしたら、扉の先へ行き、確認すると良いでしょう。答えは其処にあるのですから』 そう言って、鳥は笑う。まるで嘲るかのような、笑いだった。

2015-01-19 18:50:28
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

『…言われなくたって』 軋む音を立てて巨躯が身を起こす。 こちらを嘲笑う鳥に憤る事も悲しむ事も出来ないまま、ただ彼等が今この場にいない事への不安ばかりが胸の内に積もっていく。 動かなくなった【残酷】の姿を仲間と重ね合わせるのは、【残酷】に対しても仲間に対しても失礼甚だしい行為だ。

2015-01-20 16:32:13
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

そうわかってはいても、一度思い浮かんでしまったそれを振り払う事は難しく、幼く顔に僅か苦悶を滲ませて、子は巨躯に抱かれて共に鉄の扉へと進む。 『急がなきゃ。俺が遅いから、きっと、あいつら怒ってんだろうな。おかえりって言うつもりだったけど、その前に俺がただいまって、言わなきゃな』

2015-01-20 16:32:29