ベイ金剛VSベイ山城

J9J9...(届かぬ想い)
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ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「金剛さん」 ぎゅ、と彼女の両手がワタシの両手を包んだ。 身体が強張る。 「私は、演習を終えればここから去る身です。だからこそ、言えることもあると思います」 彼女の手は暖かく、だがとても強い力でワタシの手を包んでいる。 逃げられない。

2014-12-28 01:14:11
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「私に話すことができないのなら、長門さんを呼んで来ます。今の金剛さんを放っておくことはできません」 「……そんなに酷い顔してまシタ?」 「ええ。今も」 咄嗟に顔を隠そうとするが、山城サンは手を放してくれなかった。 いつでも笑顔でいることがワタシの特技のはずなのだけど。

2014-12-28 01:14:36
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

今、この場にいるのが山城サンであることは幸運なのか不運なのか。 少なくとも、長門と大和に見せたくないものであるのは確かだ。 どうせ抱えていても何も変わらないのだ、ぶつけてみるのも悪くないか。 私は自分の体を投げ出すようにして、提督の椅子に腰を下ろした。

2014-12-28 01:15:19
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「山城サンは……扶桑サン、お姉様のことは……お好きデスカ?」 「はい」 ワタシの言葉を食い気味に、力強く彼女は頷いた。 まぁ、聞くまでもないことなのだけど。 「ワタシにも妹が、三人ほど。皆いい子達デース」 くるくると椅子を回しながら、山城サンにも座るように促す。

2014-12-28 01:15:51
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「少しばかり、自分語りになりマスが」 ワタシは指をピンと伸ばし、左の手の甲を彼女に向ける。 薬指に、飾りの無い銀のリングが嵌められている。 山城サンが息を呑む音が聞こえた。 「その、ワタシには、愛している方がいマス……」

2014-12-28 01:18:00
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「素敵……」 頬の色を染める山城サン。 もしかしたら、彼女にも想い人がいるのかもしれない。 ……ワタシの顔は彼女と比べてはいけないほどに、酷いことになっているだろう。

2014-12-28 01:18:18
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「まぁ、何というか、ウチの提督なんデスケド……色々、えぇ、本当に色々なことがあって、ワタシは提督と結ばれマシタ」 本当に……色々ありまシタ。 出会い、成長、成功……死別、失脚。 この世の天国も地獄も、提督と二人で乗り越えて……あぁ、これは関係ない。

2014-12-28 01:18:39
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「山城サン、艦娘は人間か、兵器か。どちらだと思いマスカー?」 「えっ?」 「ワタシはかつて、兵器だと思っていマシター。書類上は軍艦だしネ。国の為に身を捧げた兵器だと、ワタシのすべき事は敵の撃破だと、そう思っていマシター」 「過去形ということは、今は違うんですね?」

2014-12-28 01:19:10
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「ええ。でも、ワタシがそう思っていた様に、艦娘を兵器だと思っている人はいるんデスヨ。それなりの数ネ」 「……私達には意志があります」 「今ならワタシもそう思えマス。ですが、あー……兵器が人間の真似事なんて、とか。まぁ、色々、耳に入るんデス、ヨ」

2014-12-28 01:24:38
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

言葉がおかしなところで切れてしまったのは、苦々しい記憶が呼びさまされたからだろうか。 「酷い……」 「まぁ、慣れて、いるので……ワタシが今、内勤となっているのも拍車をかけているようデスネ。職務を捨てた、恥知らずな女だと」 「……」 ついに山城サンは言葉を失ったようである。

2014-12-28 01:25:12
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

艦娘としての職務を放棄していることは否定できないのだけど、それぐらいの人員不足なんだから秘書官ぐらい配属してよ。 ウチの鎮守府に割く人員など無いということなのだろうけど。 あぁ、人と艦娘で溢れ返っていた昔が懐かしい。

2014-12-28 01:25:41
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「そんな感じの噂に背びれ尾ひれがついて……妹達のところまで。一部では相当酷い様で、身を案じる手紙が届きまシター」 遠回しであったり直球であったり、噂への触れ方はそれぞれであったが、ワタシの身を案じているのは三人とも同じだった。

2014-12-28 01:25:58
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

ワタシは大きく息を吐く。 遠い戦地にいる妹達からの手紙、それはワタシの宝物だ。 今まで送られて来たものは一通も残さず保存してある。 比叡からの量が多すぎて保存場所に困り始めてたけど。 「それを最後に、妹達からの手紙が届かなくなりマシター。補給の度に届いていたものが、ぱったりと」

2014-12-28 01:28:14
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「……一度も?」 「ええ。一度も」 一度も、誰からも、である。 「その間、ワタシからも何通か手紙を出していマスが、返信もなく……嫌われちゃったのカナ、と」 「そんなこと!」 「あの子達にも奇異の視線が向けられているでショー。何せ姉が恥知らず、デスカラ」

2014-12-28 01:28:56
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

吐き捨ててやったが、一度弱気をこぼすと止まらなくなる。 「ケッコンの時も事後報告だったしネ……そもそも昔からやりたい放題やってきたし、日本語下手だし……」 「日本語は関係ないかと……」 あったら困る。

2014-12-28 01:29:25
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「全て想像デスヨ……でも、無関係と思えるほど図太くもありまセン。想像でも、怖いのデス。妹がワタシの所為で傷つくことが……妹に嫌われることが、ネ」 それだけのことなのだ。 しかし、かつて妹達はワタシの全てであり、今でもかなりのウェイトを占めている。 失われるなんて考えたくも無い。

2014-12-28 01:30:26
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

ワタシは椅子から立ち上がり、窓を開けた。 冷たい風が頬を撫でる。 冬の風は好きだ。 熱と一緒に、体にまとわりつくものまで奪い去ってくれるような気がする。 「金剛さん」 振り返ると、山城さんはワタシの後ろに立っていた。

2014-12-28 01:31:12
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

神妙な面持ちで、細い顎に手を当て俯いていたが、一度大きく首を振ると、引き締まった表情を見せた。 カツカツと歩み寄ってきて、再びワタシの手を取る。 「大丈夫です、金剛さん」 「山城サン……?」

2014-12-28 01:31:48
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「妹というものは、生まれた時から姉の背中を見つめ、羨望し、少しでも追いつこうとするものです。姉を嫌うなんてことはあり得ません」 「それは山城サンでショー?」 私がそう答えると、彼女は気恥ずかしそうに小さく笑って見せた。

2014-12-28 01:32:44
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「はい、私のことです。でも、こんな考え方を持ちそうな妹……心当たりはありませんか?」 凄くある。 ワタシと山城サンの頭の中には同じ人物が浮かんでいるのだろう。 凄くあるけど、何故山城サンが、という思いがある。 彼女の目は爛々と輝いていて、どこか悪戯っぽい光に代わっている。

2014-12-28 01:33:16
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「詳しいことは話せませんが、私を信じてください。妹は、常に姉を思っています」 「……ははぁ、なるほど。大体分かりまシタ」 「あら」 「そもそもウチの様な弱小鎮守府に演習の依頼がくる時点でおかしいと思うべきデシタネー……」 ふるふるとかぶりを振る。 「弱小なんて……」

2014-12-28 01:34:27
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「今はとにかく人がいまセンからネー」 寒い。 山城サンの手をそっとほどき、窓を閉める。 そして今度はワタシが山城サンの手を取る。 「不安デスヨネ、姉妹が離れるのって。姉もまた、いつでも妹達の身を案じていマス。それは、このワタシが保障しマース!」 ばちこん、とウインクを決める。

2014-12-28 01:35:09
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「金剛さん……!」 山城サンが頭を下げ、目尻を抑える。 「流石は現役艦娘最年長、ですね」 「それは本当にやめて」 「うふふっ」 山城サンは一歩下がると、くるりと回って見せた。 「慰めるはずが、私も励ましてもらってしまいました」 「102歳だからネ」 「ごめんなさいっ。ふふっ」

2014-12-28 01:35:55
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

結局彼女は清楚か快活か小悪魔か。 ワタシは拗ねてなどいない。 「金剛さん、私、明日の演習、楽しみにしています。これは本当です」 「ええ。ワタシも楽しみにしていマース。ワタシが培ってきたもの全てを、お見せしマスヨ」 「そう聞くと俄然。明日はよろしくお願いします」 「こちらこそ」

2014-12-28 01:36:27
ベイスターズを愛する金剛型1番艦 @DB_Kongo

「それでは今夜は」 「ええ」 握手を交わす。 そのまま一礼し、部屋の入口へと向かっていく彼女の背を見送る。 ドアノブに手をかけたところで彼女はふと動きを止め、振り返った。 「金剛さん。艦娘は兵器か否かの件なんですけど」 「はい、なんデショー?」

2014-12-28 01:36:56
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