【君♡と♡映画まとめ】レトロさんと群青くん
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だけど演劇の充実と反比例するように心の充実はスルスルと心の中を通り過ぎた。始めは新鮮でキラキラだった演劇という対象も慣れてしまえば、それが日常となる。劇団ならなおさら。「そして生活は続く」は希望の言葉で絶望の呪縛。なにより演劇の中にレトロさんがいない。その事が、もう、駄目だった。
2015-01-19 21:17:37俺がレトロさんと立体さんの話を知った頃には、2人の関係も下降気味だったのだと言う。この一年の間でレトロさんは外部の劇団や映画の出演が多くなっていった。そしてそれに比例するように劇団の代表になった立体さん、いや同い年だ、ここからは立体と書かせて貰うが、独裁が進んだ。劇団の私物化。
2015-01-19 21:18:54もちろん、熱心な信派もいたが立体の横暴を心よく思わないものもいて。まあ、俺の事なんだけど。それに応じて劇団は泥沼に。ドップリと浸かってみれば、劇団周りとはなんてドロドロしたものだろう。誰と誰が付き合ってたから、恋人役同士は辛いとか、もういい。劇団内で穴兄弟とか、もういい。
2015-01-19 21:19:45予期せぬ遭遇
そんな、夏休みのある日。後輩と開いた「立体は心からセンスが無い会」の帰り。酔い潰れ何処に向かって進めば良いのか分からないままフラと歩いて。「立体は存在が滑ってる」空に呟いた、その時。一つの物々しい影が現れる。始めは身構えたが、見れば覚えある姿形。「助けて」の声はレトロさんだった。
2015-01-19 21:21:34いつもの元気が震えている。「変なのに、触られた」涙を浮かべて汚いものを拭う仕草。休む間もなく重い突撃音と共にレトロさんの頭が真下の視界に広がる。「やー、こわかった、なあ…」抱きしめられたのは一年ぶり。「訳分かんない事言ってるのはわかるんだけど…自宅まで付いてきて貰っても、いい?」
2015-01-19 21:23:08「今日の事は忘れよう!」とレトロさんはコンビ二で、たくさんのアルコール類を買った。既に酔いは醒めている。僕の後ろを歩くレトロさん。初めて訪れたレトロさんの部屋は可愛い匂いがする、女子大生の部屋だった。彼女は「上がって」と言い「いや、そこまでは」という俺を遮って無理やり上がらせた。
2015-01-19 21:24:58群青くんの好き
そこからは忘れるように酒を煽った。互いに。そうして飲み会の延長戦。「…いや、もうクソですよ。演劇は」「出た否定」「世界はクソで溢れてるんすよ。演劇、音楽、アニメ、映画、ぜーんぶ、クソ」「先生になる人の発言じゃないよ」「まあ、俺、人生『裏』なんで」「…前にも聞いたけど、それ何?」
2015-01-19 21:27:19「人間のメインストリームが『表』だとしたら、そこから逸れた人間が『裏』です。小5の時に異性とプリクラ撮りに行けたのが表。無理だったのが裏。中2の時に異性のグループと近所のイオンで映画を観に行けたのが表。そうじゃないのは裏。家族の同伴のみが映画体験の場合は裏中の裏ですね」
2015-01-19 21:28:26「家族と一緒の映画体験でも人生変わる事あるよ」「はい出ました表中の表」「私、辛い事とか悲しい事あったら映画観に行くよ。泣く為に」「めっちゃ映画に啓発されてるじゃないですか」「納得いかない」「え」「群青くんの好き、ちゃんと教えてよ」「ないですよ」「好きな映画とか」「裏なんで」
2015-01-19 21:29:52「漫画は?」「裏なんで」「テレビ」「裏」「音楽…」「裏…」「じゃあ」レトロさんは一呼吸置いて。「好きな演劇は?」酔った勢いだった。「レトロさんの演劇」沈黙。「…はい?」「先輩の演技は好きです」顔が赤くなる。「新歓の公演で」ようやく瞳を捉えて。「レトロさんに会ってから」真っ直ぐに。
2015-01-19 21:31:30「『そして生活は続く』って今でも残ってます」「ほー…」電灯の紐を一回。「立体とは、どうなんすか」また一回と。「んー」闇に。「抱きしめるの、上手くなったなー」口と口の音。「ずっとでした」荒い息。「ずっとかあ」散る衣服。「映画より漫画より、ずっと」「…好き?」「はい」「じゃあ、次は、
2015-01-19 21:32:32≪1月23日更新≫ 『レトロさんと群青くん』 その2 pic.twitter.com/gcAlCWroPo
2015-01-19 21:38:44「(あなたが好きな映画)」『お前がそれ見るの?』「(あなたが好きだった映画)」『なにそれ?』「(あなたが愛する漫画)」『お前がそれ見たら作品の価値が下がる』「(あなたが毎週見る番組)」『きも』『きしょい』「(あなたの人生を変えた楽曲)」『無理』 そんなところで、夢が、覚めた。
2015-01-23 06:49:18私の好き、見せてあげる。
見事な朝チュンを迎える中、俺は、ただただ頭を抱えていた。本人がどう言おうと、これは不味い。同い年とはいえ、先輩の女と一晩をあかしてしまったのだ。と、そんな罪悪感を尻目に、レトロさんは備えつけのDVDプレイヤーをオンにして、パンツ一丁の俺をテレビの前で正座させた。
2015-01-23 06:50:50「(玄関の覗き穴を見ながら)来てない?立体、来てない?」「あの、ちょっと今の状況で、そのジョークはシビアっすね」「いいよ、敬語。同い年だし」「…あの、ぶっちゃけまして、立体さんとは、今、どういう?」「これがまあ、よく分かんないんだよね。」じゃあ、他人の俺は、より分からないはずだ。
2015-01-23 06:51:31「で…」俺は自分自身が置かれてる状況について尋ねた。「…この、鑑賞会は?」レトロさんの手には映画のDVD。「いや、言ったでしょ」何をだろう。「私の好き、見せてあげる、って」頭にクエスチョンマーク。「昨日の夜」『行為』の婉曲ではなく、マジの好きを見せる話だった事に慄く。
2015-01-23 06:52:21「ムカついてるよね」ムカついてるらしい。「映画で人生変わる事を、なにあれ、表中の表、って。映画で感動とか普通にあるから。アレ、『啓発』ってワードで沸点迎えたね。あのなあ、世界にはなあ、素晴らしい映画とか、最高の漫画とか、忘れられないテレビとかで、たくさん溢れてるからなあっ」
2015-01-23 06:52:41