【第四部-序】夢 #見つめる時雨

時雨 龍鳳 山城
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とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「……」 時雨が無言で、ゆっくりと私の前に移動して来る。私はこの場を動けずにいた。ただ固まって、時雨を目で追っていた。…私の間近で彼女の柔かな香りが舞う。…そして、私に小さな重みがふわりと乗ってきた。

2015-02-28 00:52:11
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「し、時雨…!?」 私がかつて帰りを待ち続けた、そしてついに帰って来なかった、でも、運命の悪戯で艦娘として再び出会うことができた、時雨というひと。私よりも小柄で、腕を回せば収まってしまうひと。…私の心臓を、激しく揺らすひと。そのひとに今、私は抱き締められていた。

2015-02-28 00:55:34
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「龍鳳」 静かで落ち着いた声。私が大好きな声。しっとりとした声色が、私の心をかき乱す。 「あ、あの…どうしたの…?またこわい夢を…」 「…ううん、そうじゃないよ。…キミを、抱き締めたくなったんだ」 …え?何…?どういうこと…?私の心は、パニックになっていた。

2015-02-28 00:58:56
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

自分でもはっきりとわかるくらいに顔が熱くなっている。きっと、肌は真っ赤になってしまっているに違いない。私の身体は、このまま時雨に抱き締められていたらどうにかなってしまいそうだった。 「…龍鳳、いつもありがとう」 「ふぇ…?」

2015-02-28 01:01:12
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨の腕が緩む。私との間に空間ができ、時雨の瞳に再び私が映る。 「…ふふ、龍鳳ってば、顔真っ赤だよ」 「だ…誰のせいですかぁ…」 「僕のせい?」 柔かな時雨の微笑みが、とてもいじわるいものに感じた。…うぅ。

2015-02-28 01:03:55
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…龍鳳」 時雨が両手で私の手を包む。…少しひんやりとした時雨の手。そう感じるのは、時雨の手が冷たいせいか、それとも私の手が熱くなってるせいか。 「龍鳳の手、温かいね」 「ふぇぇ…」

2015-02-28 01:06:33
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「僕ね、この温かさ、好きだよ。僕が不安で堪らなくなったとき、優しく包んでくれた温かさ。…すごい安心する」 そ、そう言ってくれるのは嬉しいけど…私は心臓が破裂しそうです…。というか、どうしちゃったの…急に…。

2015-02-28 01:08:50
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨が静かに目を閉じ、ゆっくりと…口を開いた。 「…龍鳳、いつも傍にいてくれて、ありがとう。…これからも、僕の傍にいて欲しいな」 …時雨の言葉の後に静寂が訪れる。部屋の時計の針の音がやけに大きく聞こえた。時計って、こんなに大きな音で時を刻んでいたんだ…。

2015-02-28 01:12:18
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…時雨にどんな心境の変化があったのか、その詳細は私が知ることではありません。でも、時雨の言葉からは私に歩み寄ってくれているんだということが感じられました。…静かに刻まれる時の中で、時雨の言葉は私の心にじんわりと染みわたっていきました。

2015-02-28 01:16:58
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…傍にいて欲しいだなんて。時雨の方から言ってくれるだなんて。…ああ、でも…あの言葉は言ってはくれないんだね。…ううん、違うよ龍鳳。あの言葉は、時雨にとってあのひとにだけ向けられるもの。私に言ってくれたって、それは気を使ってくれただけ。それは、本当の言葉じゃない。

2015-02-28 01:20:03
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…時雨に嘘はついて欲しくない。正直で、一途で、真っ直ぐな貴女が、私は好き。…そんな時雨が、私に歩み寄ってくれた。私の気持ちを受け止めようとしてくれてる。なんて幸せなことだろう。…いいんだよね。私、飛び込んで…いいんだよね…?

2015-02-28 01:22:56
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…時雨、私…」 …急に不安が立ち込める。もしかして、私が一人で誇大解釈をしてしまっているだけではないだろうか、心の中の私がそう囁く。…でも、その不安は、 「…龍鳳」 私の頬に伸びてきた時雨の手が、優しく払っていった…。

2015-02-28 01:25:51
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私は向かい合わせに座る時雨に、ゆっくりとしなだれかかった。頬と、頬が触れる。…私は時雨の背中に手を伸ばし、息を吐きながら、身体を密着させた。時雨もまた、私を抱いてくれた。寝間着の生地を通して、時雨の柔らかさが伝わってきた。…とっても、気持ちよかった。

2015-02-28 01:28:18
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

少し目線が下の彼女に頬ずりをする。ふわふわした時雨のお風呂上がりの香りを、いっぱいに吸い込みながら。…少しして、時雨の方からも頬をくっつけてきた。…私は、それが堪らなく嬉しかった。時雨の方から、私に触れてくれた。…時雨。私、もう…。

2015-02-28 01:31:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…時雨の頬に、キス。気持ちが、もう抑えられなかった。私はそんな自分を恥ずかしく思った。なんて、卑しい。…でも、その後ろめたい気持ちはすぐに吹き飛んでしまった。時雨もまた、私の頬にキスをしてくれた。時雨が、私に…。

2015-02-28 01:35:48
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…ああ、それだけで満足しなきゃいけないのに、欲深い私を許してください。もっと欲しいと、そう思ってしまった私を許してください。…そんな私の熱を帯びた視線は、そのままに時雨に届いてしまったようです。 「…もっと?」 「…はい」

2015-02-28 01:39:09
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…時雨の瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。…時雨の手が私の後頭にまわり、私は引き寄せられ、彼女との距離が縮まっていく。私と時雨の吐息が絡み、混ざり合う。そして…これが、夢にまで見た、貴女の…。 「…ふ…」 唇…。

2015-02-28 01:46:41
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…ゆっくりと唇を離す。全身が火照って熱い。たった数十秒で、季節が逆転してしまったかのよう。…ああ、熱いよ…。…時雨の手が、私の髪を撫でた。くすぐったさと、心地よさと…どちらでもない感覚が、私を這う。そしてそれは私の口を動かし、私の浅ましい感情を吐露させた。 「…もっと、ください」

2015-02-28 01:53:13
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私の髪を撫でていた彼女の掌に、唇を落とした。時雨の手が、ぴくんと震える。…どうしよう、止まらない。少しずつ発散してきたつもりだったのに…。私の中にあるねっとりした欲望が、溢れてくる…。時雨…時雨…。ああ、どうしよう…。

2015-02-28 02:04:14
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…龍鳳には、ずっと我慢させてきたからね…」 …私は時雨に抱き寄せられた。時雨が口を僅かに開き、桃色の舌を覗かせた。それは、とても美味しそうな果実のようで…。 「…全部、受け止めてあげる」 再び重なった唇。…私は、感情のままにその果実を求めた…。

2015-02-28 02:15:13
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ん…ふ…ぁ」 時雨とのキスはロマンチックに、そんな夢を抱いていた私もいた。けれど、そんなことを考えていた少女はここにはいない。時雨の唇と舌の感触が、私の欲望の蓋を取り去ってしまった。…ねぇ、時雨?どうしてそんなにキスが上手なの?…私、駄目になっちゃいそう…。

2015-02-28 02:25:11
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私達の間に唾液の架け橋ができる。身体の力が抜け、私は時雨の身体に崩れ落ちた。…時雨は、そんな私をしっかりと抱き留めてくれた。…時雨が、耳元で囁く。 「…可愛いよ」 …普段の私なら、すぐに飛び退いて顔を隠したでしょう。でも今は、その恥ずかしい言葉ですら、私は…。

2015-02-28 02:36:11
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…時雨。こんな私を受け止めてくれて、ありがとう。…できれば、時雨が許してくれるなら、これから先もずっと、貴女の傍で…貴女の体温を…――

2015-02-28 02:50:41
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