パルマダ

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芝村裕吏 @siva_yuri

スバーダは最後まで喋る事も出来なかった。 木の棒で頭を潰され胴を薙ぎ払われ膝で股間を突かれ腕の関節を手の一振りで外されて指で眼を潰されている。 "ただの人間がどうしたって?" スバーダは口を開いたところで棒を突っ込まれて地面に叩きつけられた。泥のように溶け出している。

2015-03-17 13:39:32
芝村裕吏 @siva_yuri

それは蹂躙というものだった。 暴力が暴力をもて暴力を破壊している。 もう一体のスバーダは軽く棒で叩かれて死んだ。無造作の一撃だった。 "そんな目で見るな。一本目はどこが弱点か探していたんだ" ユーイチローは面白くなさそうに言った。

2015-03-17 13:41:10
芝村裕吏 @siva_yuri

意識が途切れ途切れになる。 私はユーイチローに抱かれて動いている。 そんな訳があるはずないのに、手に包むように軽々と運ばれていた。 眠い。多分、失血が多すぎるんだ。 見上げるとユーイチローが何かを優しく話している。

2015-03-18 14:29:59
芝村裕吏 @siva_yuri

少し遅過ぎたわね。小学生の頃にそんな風に話してくれたのなら、私はこんな風にならなかった。 "ようやく謎が解けた" なんのことだろう。 "昔、この山の上に半猫半女の生き物がいてな。いや。猫じゃなくライオンだったかもしれないが" 聞いたことある。街の歴史にあった伝説。

2015-03-18 14:30:48
芝村裕吏 @siva_yuri

"そいつは半端な上に頭が悪い女妖でな。死んだ主人をずっと待ってた。死んだと言われてもずっと待ってたらどうにかならないかと思ってたんだ" 私は抗議でユーイチローの腕に爪を立てた。 "それを猫の王が哀れに思い、主人を探してやることにした"

2015-03-18 14:31:16
芝村裕吏 @siva_yuri

"随分長く旅をして、猫の王は主人を見つけた。熊本藩家老の子で宮本武蔵の生まれ変わりと評判の高い男だった。まだ10歳だったがな" ため息。 "猫岳の王。猫又に頼まれて、それからまた長く掛かった。あのデブ猫、街全体に人化の魔法を掛けてやがった"

2015-03-18 14:31:56
芝村裕吏 @siva_yuri

難しい話は分からない。私はにゃーと鳴いた。そんな話がしたいんじゃなかった。すりすりして欲しかったのだ。

2015-03-18 14:32:31
芝村裕吏 @siva_yuri

私は目を覚ました。立ち上がって腹の傷を探した。どこにもない。 教師が何か言っている。銃もない。私はガムを飲み込んでしまった。横を見る。無理やり座らせられる。 先生、ユーイチローがいません。 "だれ、それ"

2015-03-20 12:29:58
芝村裕吏 @siva_yuri

私は教室を飛び出した。 走る。走る。服が落ちる。猫になる。 あれが終わりなのは嫌だにゃー。 涙もでにゃい。 私は左右を見た。スパーダが6つ。多分敵の転送限界。前より大きい。スパーダじゃない。ランチァ。

2015-03-20 12:31:06
芝村裕吏 @siva_yuri

長く大きく、そしてねじれた男達がゆっくりと歩み寄ってくる。 眼とセンサーを動員して何かを探しているみたい。 私は干からびた草の陰に隠れて様子をうかがった。猫でなければ殺されていたろう。 私は耳を動かし、目を動かし、ついでに尻尾を振ってランチァを観察した。

2015-03-21 08:32:51
芝村裕吏 @siva_yuri

ローマはランチァ6体によって破壊され尽くした。1986年の話になる。でも今は、それよりもっと昔だろう。奴らが現れるのはもっと先のはず。 混乱する。今となっては私の知識や経験が正しいものだったのかも分からない。ユーイチローがつれないので見ていた夢だったのかもしれない。

2015-03-21 08:33:31
芝村裕吏 @siva_yuri

いや、いや、私はイタリア陸軍の中尉だ。 でも今見えるパルマダの風景は、その頃のものじゃない。近くの修道院が飲み屋に変わってないし、山から半分突き出た宮殿も補修される前の姿だ。

2015-03-21 08:34:11
芝村裕吏 @siva_yuri

その頃の私はソニーが大好きな、腕の細さや胸の薄さをを気にする小学生だった。今となっては猫だけど。私が小学校高学年の頃ということは80年かそこらのはず。 にゃー? いや、それよりユーイチローだ。まずはそれだ。後のことは後に考えよう。

2015-03-21 08:35:16
芝村裕吏 @siva_yuri

パルマダの話。 正式タイトルは公開されていません。 ワールドナンバーは10 ワールドタイムゲートは活性化しています。 時間犯罪進行中です。 エースへの招集がなされています。 投入されているエースナンバーは07.11.24 世界崩壊まで14分50秒。 原作ゲームは進行中です。

2015-03-21 10:43:12
芝村裕吏 @siva_yuri

私は左右を見渡した。  ユーイチローはどこだろうと思ったら、向こうから歩いてやって来た。どこで手に入れたのか、短刀を手にしている。 私は足元に駆け寄って、にゃあにゃあと訴えた。主に私を一人にしたのが悪いという抗議だった。

2015-04-06 23:54:16
芝村裕吏 @siva_yuri

ユーイチローは難しい顔。しかるのちに私を抱き上げた。 「そうか。猫は歴史改変されても記憶改変されないんだった」  私はじたばた暴れた。引っ掻くのも辞さない暴れ方だった。 「なんで猫に戻るんだよ。街全体に人化の方が掛かっているだろう」

2015-04-06 23:55:05
芝村裕吏 @siva_yuri

そんなの知らにゃい。それより私をどこに置いて行く気だ。長い長い時が掛かったのに。  盛大に溜息をつく、ユーイチロー。 「ともあれ、ここは危ないんだ。分かったら隠れてろ」  私は人間に戻った。裸だった。ユーイチローが重さを間違えてひっくり返る。私は馬乗りになってしまった。

2015-04-06 23:55:46
芝村裕吏 @siva_yuri

「何回人にトラウマ植え付ける気よ。嫌だからね。もう離れないからね。7回死ぬまで一緒にいなさい。命令!」 「俺は命令されるのが大嫌いだ」  ユーイチローはメガネを外して言った。 「引っ掻いて噛み付いてオシッコかけて匂いつけるからね。だいたいなんでメガネ外すのよ」

2015-04-06 23:56:20
芝村裕吏 @siva_yuri

ユーイチローは少し恥ずかしそう。 「目を瞑るのも横を見るのも好きじゃない。でも女の子の裸を見るなんて悪い男がする事だ」  私は猫になるとオシッコした。

2015-04-06 23:57:13
芝村裕吏 @siva_yuri

猫でもオシッコすると身体が震える。私はユーイチローを見ながらこれは当然の報いよと思った。  ユーイチローは眼鏡を掛けて溜息。猫だと見えてもいいらしい。  そのままシャツを脱ぎ捨てた後、私を無視して歩き出した。

2015-04-08 14:46:01
芝村裕吏 @siva_yuri

人間の姿になって自分のおしっこのついたシャツを着るか、それとも猫のままですごい勢いで前脚と後脚を交互に動かすか迷った。  二秒考えてすごい勢いで歩く、いや、走ることにした。

2015-04-08 14:46:22
芝村裕吏 @siva_yuri

自分が猫であるのと人間に変われることは、自然に受け入れられた。ユーイチローの態度の方がはるかに受け入れられなかった。これまで奴は一度も私を受け入れられなかった。せめて私とサッカーするくらいはしても良かったはずだ。小学生よ小学生だったのよ。トラウマになるわよ。

2015-04-08 14:46:44
芝村裕吏 @siva_yuri

私はにゃあにゃあと強く抗議した。ユーイチローは私を拾って歩き出した。そういえば私の傷が消えている。どうしたんだろう。  見ればスパーダが四体、近づいてくる。ユーイチローが短刀を抜くのが見えた。  綺麗な日本の短刀。鞘に描かれた三つ笹紋。

2015-04-08 14:47:38
芝村裕吏 @siva_yuri

気付けば全部のスパーダが鮮やかに溶け出して死んでいった。まるでユーイチローがスパーダそのものであるような印象すらあった。  いとも簡単に化け物を殺戮して、ユーイチローは次の獲物を探して歩いている。

2015-04-08 14:49:25
芝村裕吏 @siva_yuri

いとも簡単に化け物を殺戮して、ユーイチローは次の獲物を探して歩いている。  にゃあにゃあ。 「人語で喋れよ」  嫌よ、そんな慎みのない。猫は猫の言葉を喋るものよ。猫が人語で喋ったらそれは化け物だわ。

2015-04-16 15:42:21