足音の追跡者#1

洞窟に潜った冒険者たちに襲い掛かる、魔法使いの罠! 足音の追跡者#2 http://togetter.com/li/792043 足音の追跡者#3 http://togetter.com/li/795011 続きを読む
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「た、助けてくれーっ、誰か、誰かいないのかーっ」 分岐点の、地上に続く方の道から声が聞こえてくる。闇の向こうに、ランタンの明かりが見えた。「誰かいるの?」 盗賊のキリマは声をあげる。すると、やがて闇の中から一人の戦士が現れた。革鎧と鉄兜を被った軽戦士だ。 21

2015-02-27 19:46:10
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「助け……いや走れ! 走るんだ!」 3人は顔を見合わせたが、とりあえずその軽戦士と並走することにした。さっきの行き止まりの道とは別の、洞窟の奥へと続く道を走る。「何であなたは走っているのですか?」 若いギルーの疑問ももっともだった。軽戦士は怯えながら答えた。「足音だ!」 22

2015-02-27 19:50:48
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キリマ達3人は走りながら耳を澄ます。すると、いま並走している4人とは違う足音が聞こえるのだ。まるで裸足で床を歩いているようなヒタヒタという異質な足音。武装している4人の鎧や衣擦れの音は大きい。しかし、そのヒタヒタという足音は、何故かはっきりと耳に届いた。 23

2015-02-27 19:54:27
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「変な足音……」 キリマは気味悪がる。軽戦士は息を切らしながら話を続けた。「あの足音は俺達をずっとつけているんだ。追いつかれたら終わりだ! 死体を見なかったか? 行き止まりになって、誰か一人が犠牲になる……もう二人もやられた! 奴は外へ出る道を塞いで俺達を追いかけるんだ」 24

2015-02-27 19:57:40
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洞窟の道は永遠に続くわけではない。必ず終わりが来る。そこで一人ずつ死んでいくというのだ。キリマは不安そうな声をあげた。「ちょっと、私たちもヤバいんじゃない。どうにかしてあいつを倒さないと、さっきの死体みたいに血まみれになって死んじゃう!」 しかし解決策など無い。 25

2015-02-27 20:00:58
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若いギルーはベテランのジルベルに意見を仰いだ。「どうします、ジルベル師匠。まさか相手も無敵の存在じゃないでしょう」 ジルベルは走りながら、静かに言葉を返した。「魔法陣だ」 「魔法陣?」 ギルーは初めて聞く単語に驚きの声をあげる。彼にはそれが何なのか分からなかった。 26

2015-02-27 20:05:01
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「魔法陣というのは、上級の魔法使い……魔人によって歪められた現実だ。それは魔法の一種で、魔法陣に巻き込まれた犠牲者の現実を歪め、罠にはめる」 「いま、僕たちは魔法陣の中にいるということですか?」 「そうだ、俺自身、初めての経験だ。抜けれるかどうか分からん」 27

2015-02-27 20:10:19
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「魔法陣の内部では、魔法使いによって歪められた現実こそが真理となる。そこではありもしないものが存在する、いもしない人間がいる、あるいは欠如する。想像を超える幻想が事実となるんだ。そこから抜け出すには、その歪んだ法則の歪みを見つけるしかない」 ジルベルはそう言った。 28

2015-02-27 20:14:49
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「法則が歪むだって……それで、俺は入口へ進んでるはずなのに……行き止まりに」 軽戦士にも思い当たる節があるようだ。ジルベルはさらに続ける。「現実の法則を歪めることで、必ず魔法陣には歪みが生じる。たとえば今俺達は追いかけられている。それが真理だ。それを覆すには……」 29

2015-02-27 20:18:57
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「逆にあの足音を追いかけてみるとか?」 キリマはおどけて言う。それくらいしか彼女には考え付かなかった。「冗談を言え! ここから逆に走ってみろ! すぐ追いつかれて……」 軽戦士の悲鳴をジルベルは遮った。「いや、そういうことなんだ。歪んだ世界の歪みを見つけるということは」 30

2015-02-27 20:24:14
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「しかし、ここから逆走しても意味ないことは同意する」 ジルベルはふっと息をついて言った。4人は走り続ける。当てもなく、溜まった地下水を蹴りながら。そして魔人の罠がその先にあるのだ。行き止まりという罠が、必ず! 31

2015-02-27 20:27:09