徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』第二章#2

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碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

これをぶつけて爆破し、得度兵器にダメージを与えよう、と彼らは考えていた。だが、方法がわからない。そして……そもそも徳エネルギーでは機械にダメージを与えられないことを、彼らは知らない。「これ、転がすの?」「……それしか、無いよなぁ」「だな」結局、それしか無いのだ。67

2015-06-23 23:09:40
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「よっこら……せっと!」外れたバンパーをテコに、クーカイは徳ジェネレータを動かす。徳ジェネレータは得度兵器目掛け、斜面をゆっくりと転がりはじめる。上手く行けば、得度兵器が勝手に踏み潰す。だが、その効果の程は、三人のうちの誰にもわからなかった。68

2015-06-23 23:17:34
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

その光景を、シャリオンは見た。2人の男の無謀な抵抗。そして、傍らに立つ年頃の……少女。(……女の子)この荒れ果てた世界で、子供を見るのは久し振りだった。得度兵器は、子供を優先的に狙う。だから、そもそも子供自体を見かけることが少なかった。70

2015-06-23 23:23:26
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「……あの人達なら」あの三人は恐らく、家族ではない。この荒野で、他人の子供を連れ歩く『お人好し』なら、他人にも手を差し伸べる確率は高い。だが、翼を失い、エネルギーも残り少ない今のシャリオンの力では、精々2体。それを倒す間に、あの3人は文字通りの仏になるだろう。71

2015-06-23 23:29:39
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「せめて、エネルギーがあれば」徳エネルギーが、あと僅かでもあれば手はある。自滅同然だが、彼らがお人好しなら、賭ける価値はある。倒した得度兵器は、軒並みジェネレータを壊してしまった。そう考える、彼女の前に……偶然は、文字通り転がってきた。72

2015-06-23 23:34:44
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

人類の視力をはるかに超えるセンサーが捉えたのは、ガンジーの『転がした』徳ジェネレータ。しかも、まだ『生きている』。シャリオンは跳ぶ。得度兵器を追い抜くために、全力で。ここでエネルギーを使い果たしても構わない。そうでなければ、賭けに間に合わない。73

2015-06-23 23:37:11
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

滑り込むように木々の合間に引っ掛かった徳ジェネレータに辿り着き、シャリオンは脇腹から配線を直結する。「……人助けはしておくもの、か」人助けという功徳。徳エネルギーとは関わりなく、徳はある。確かにある。だが、得エネルギーは、徳レベルの違いによって発生する。つまり……74

2015-06-23 23:39:37
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

徳レベルが均一な状態で、徳エネルギーは発生しない。だが、人はそれを積むことができる。そして仏に至る。だが、機械は仏にはなれない。仏になるのは、命あるものだけだ。彼らは徳を積むことはできない。故に、命あるものを利用する。舎利ボーグとして在り方を捻じ曲げられた彼女もまた、そうだ。75

2015-06-23 23:41:30
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「ここからが、賭けの始まりだ」逆に言えば。如何に徳を積もうと。如何に徳の奔流を受けようと。『彼女が成仏することは決して無い』。「ジェネレータを直結。一番から三十番までの安全装置を解除。炉心強制開放」彼女の胸と、繋がれた徳ジェネレータに光が灯る。徳エネルギーの光。76

2015-06-23 23:43:47
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

背中の破損から漏れ出るそれは、最早光の羽根。空間に徳の力を振りまきながら、シャリオンの新たな翼は輝きを増す。「あれは……俺と、同じ」遠くで、クーカイが呟く。徳エネルギーの奔流を操作する力。同じ異端技術の極北。77

2015-06-23 23:45:15
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

徳の力を自在に操る鋼の肉体。決して救済されることの無い存在。「--位相逆転」だからこそ。彼女の最終兵器(ギミック)は『成立』する。「因中無果・プラシャスタパーダ・ニュートライザアアアアァァ!」シャリオンは叫ぶ。その瞳の中に、蓮の模様が浮かび上がる。78

2015-06-23 23:50:01
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

そして得度兵器は……そのシステムがダウンする寸前、異常な徳エネルギー力場を観測した。全ての『山(ピーク)』が崩れ、フラットになる。その一瞬、膨大な徳エネルギー束が『一点』へ流れ込み、空気中へと発散した。79

2015-06-23 23:51:46
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

プラシャスタパーダ・ニュートライザー。それは徳エネルギー文明全ての天敵。禁断の徳テクノロジー。人工的徳雪崩によって、空間の徳レベルを均一化、全ての徳エネルギーを使用不能とする、シャリオンの最後の切り札。あらゆる浄土を遠ざける、『逆』強制成仏兵器。80

2015-06-23 23:53:37
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

だが、「……動けない」それは、彼女自身の徳レベルすらも中和する諸刃の剣。今の彼女は人並み、いや……動かない機械の半身という死重(デッドウェイト)を抱えた分、普通の人間以下。徳の光は失せ、残された得度兵器全ての動きは止まった。81

2015-06-23 23:56:00
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章◆togetter.com/li/800341 (現在サーバーエラー中)

2015-07-01 21:40:14
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

◆これまでのあらすじ◆ 得度兵器は、逆解脱兵器『プラシャスタパーダ・ニュートライザー(P・ニュートライザー)』によって無力化された。P・ニュートライザーの基幹技術は徳ジェネレータに起源を持つ。微量の徳エネルギー流によって解脱を起こさないレベルの徳雪崩を誘発し、エネルギーを(中略)

2015-07-01 21:45:36
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

長い夜の終わり。東の空が白み始める頃。ガンジー達は、森を歩いていた。得度兵器の巨大な足跡と、それに沿うように倒れた木々。救世をなさんとした機械の刻んだ、真新しい破壊の爪跡をガンジー達は辿る。……その先には、バーミヤンめいた得度兵器の残骸と……横たわる一人の女性の姿。82

2015-07-01 21:53:39
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「デカブツが突然動かなくなったなぁいいが……一体結局何があったんだ?」「……徳が、誰かに『均された』」「均された?」「不気味な程に、徳の流れを感じない」「その辺込みで、後でキッチリ説明して貰うからな……そういや、最後に叫び声が聞こえたよな。なんたらなんたらー、って」83

2015-07-01 22:00:04
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「プラシャスタパーダ・ニュートライザー」「そう、そいつだ」「俺も、それは知らんが……」「ガンジー、こっち!」ガラシャが横たわる女性……シャリオンの姿を見つけ、手を振る。「あいよ……全く、車も徳ジェネレータも壊れるし、散々だ」愚痴るガンジー。84

2015-07-01 22:05:54
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「車も、モーターには異常が無かった。動力があれば走るだろう。それに『恩人』を捨て置くのは、流石にな」クーカイが返し、2人はガラシャのもとへ駆け寄る。「……死んでんのか?」「そこは、『生きてるのか』と聞くところだ」「息、してるよ」「って、この女……!」ガンジーは思わず飛び退く。85

2015-07-01 22:09:19
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「知り合いか?」「身体が機械じゃねぇか!!」「だから言ったろう。『舎利バネティクス』だと。お前に分かりやすく言うとな……彼女は、身体の半分が得度兵器が」「半分が、得度兵器……」意識が無いのをいいことに、シャリオンの身体を無遠慮に見回すガンジー。86

2015-07-01 22:13:54
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

まず目に付くのは、顔を覆うバイザー。全身をぴっちりと覆う黒い服は、ところどころが割けて……いや、溶けている。その隙間からは、肌色の他に、明らかに人間のものではない銀色の皮膜と、光る模様(パータン)が覗いているのだ。 87

2015-07-01 22:18:44
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