徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』第二章#2

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碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「……人間、なのか?」ガンジーは恐る恐るクーカイに尋ねる。「……だから、俺に聞くな。本人が起きてから聞けばいいだろうよ」「いや、襲い掛かってきたらどうするんだよ!?」この時代。人類の敵は、得度兵器だけでは断じて無い。88

2015-07-01 22:26:40
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

道『徳』観の裏打ちがあるとはいえ、人間同士もまた味方とは限らない。まして、半身が得度兵器の怪物。ガンジーの危惧も無理からぬこと。だが、「『恩人』だと、言った筈だ」クーカイはそれを斬って捨てた。「恐れるのはいい。だが、『恩人』を見殺しにして……お前は、本当それでいいのか?」89

2015-07-01 22:29:52
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

諭すように、ゆっくりとクーカイは続ける。「……」「……最後は、お前が思うようにしろ。俺達の命も大事だからな」「……お前は、やっぱり徳が高いよ」沈黙の後、ガンジーはそう言って溜息を吐いた。「まぁ、今は俺達の徳も巻き添えに『均された』様子だがな」「そういうんじゃねぇ」90

2015-07-01 22:34:43
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「わかってるさ」クーカイは微笑んだ。「取り敢えず、車の所まで運ぶ」「ああ。万一暴れられた時、近くに足があった方がいいからな」「……でも、ヘタに動かすと不味いんじゃないのか?ここに置いとくと不味いってのはわかるが……」「担架を作ろう。当たり前だが、かなり重い筈だ」91

2015-07-01 22:42:41
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「……誰が、『重い』って」「うおわああぁあ!?」「落ち着け」「……生きてた」シャリオンが目を開いたは、それから間もなくしてのことだった。驚くガンジー、窘めるクーカイ、胸を撫で下ろすガラシャ。三者三様の反応を前に、シャリオンは平然としていた。 1

2015-07-02 19:00:26
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「アンタ……さっきまでの話、聞いて?」「エネルギー不足でね。節電(スタンバイ)モードで落ちてた」「どこから?」「全部だよ、全部。センサー(みみ)だけは動かしとかないと、命に関わる」「なら、話が早い」クーカイが口を挟む。「ああ」シャリオンは微笑む。「交渉と行こうじゃないか」 2

2015-07-02 19:04:34
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「つまり、アンタは今足が無い、と」「ああ」ひと通り説明を終えたシャリオンは、得度兵器の残骸を『貪り喰い』ながら答える。「残骸(マテリアル)があっても、使うエネルギーが足りない。できれば、手近な街まで運んで欲しい」「それはいいが……あんた、何キロある?」4

2015-07-02 19:11:15
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「嘆かわしいな」ゴリ、ゴリとIMMC(集積曼荼羅マテリアルチップ)を咀嚼するシャリオン。「文明が失われたとて、デリカシーまで後退することはあるまいに……それとも、それは自前か?」「喧嘩売ってるのか、この金属女!」「命の恩人に向かって、なんて言い草だ」 5

2015-07-02 19:15:20
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「……けんか、止めなくていいの?」「あれは、ガンジーが遊ばれてるだけだ」と答えつつも、クーカイは少し考え込む。どのタイミングで口を挟むべきか、と。 6

2015-07-02 19:22:59
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

結局、程々のところでクーカイはちょっかいを出し、相棒の非礼を詫びた。 「センサーが壊れて無ければ、全備重量は216kgだ」「ギリギリか……しかし、シャリオン……さんもお人が悪い」「呼び捨てで構わない。人と話すのが久し振りだったものでね。つい、からかってしまった」7

2015-07-02 19:25:35
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「空を飛んでいたようだが」「あれは、飛行型の得度兵器を捕まえた。あのサイズは珍しくてな。そういえばあんたら、何処から来たんだ?」「ここから南に100」「……あの辺り、まだ人が居たのか」「徳カリプス以降、孤立していた」「道理で、商隊(キャラバン)も組まずに立ち往生してた訳だ」8

2015-07-02 19:31:15
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「!……他に、人里を知っているのか!?」「幾つか知っている。例えば、ここからずっと北、『ホッカイドー』の方には『国』がある」国。国家。徳カリプスで崩壊したと思われていた統治機構を、維持している地域がある!「あの辺りは人口密度が低いからな。徳カリプスの影響も小さくて……」9

2015-07-02 19:34:39
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「待て。そもそも、徳カリプスの被害はどの程度だったんだ?生き残っている人類はどのくらい……」得度兵器の荒野。その『外』を知る貴重な人物。冷静なクーカイの口からも、思わず疑問が溢れる。「……ああ、あんたら何も知らないのか」だが、シャリオンはそれを遮った。10

2015-07-02 19:37:06
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「なら、イチから話そう。『徳カリプス』で何が起こったのか」シャリオンは微笑む。彼女の眼の奥底に、怪しい光が灯る。「別料金で良ければ、な」 11

2015-07-02 19:38:33
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

◆徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』第二章◆終わり ◆第三章へ続く◆

2015-07-02 19:39:09
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