天叢雲剣譚【1-5】

天叢雲剣譚【1-5】まとめです。一般人のクルーザーに迫る敵の新たな艦載機。それに対し叢雲が取った行動は――
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天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「叢雲さん! 大丈夫ですか!?」 「大丈夫よ。大げ……」 妙高はバタバタと私に駆け寄ると私の両手をぎゅっと握る。 「あれほど無茶をしないよう言ったじゃないですか! それを貴女は……」 「ちょ、ちょっと妙高……わ、悪かったわ……」 おたおたと妙高に握られた手を離す。

2015-03-28 02:15:17
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「あのとき、叢雲さんが沈んでしまうのかと……みんな心配してたんですよ。それに中々目覚めなかったですし」 「え、そんなに眠ってたの?」 「丸々一週間、ですね」 妙高の言葉に慌てて壁に備え付けられている日めくりカレンダーを見る。妙高の言うとおり、あの出撃した日から一週間経っていた。

2015-03-28 02:20:18
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「嘘でしょ……」 「あれほどの重傷を負ったんですよ。当然です。これで少しは反省してくださいね?」 「……わかったわ」 とは言ったもののまた繰り返すのだろう、そう思いながら一週間穴を開けていた分の話を聞いてみることにした。大淀がいるとはいえ、きっと仕事が山積みだろう。

2015-03-28 02:25:02
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「そういえば妙高、仕事はどうなってるの? たぶん書類とか山積みだと思うのだけれど」 しかし返ってきたのは予想外の答えだった。 「それでしたら全部終わってますよ」 「ああ、そう……え?」 驚きのあまり目を丸くして、妙高に尋ねる。 「どういうこと? 何で全部終わってるのよ!?」

2015-03-28 02:31:02
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「それでしたら……」 「おっと妙高、そこからは私が話すよ」 私たちの会話を割って気の抜けた声が飛び込んでくる。するとカーテンの後ろからひょっこりと真っ白な軍服を着こなす、一人の女性が現れた。その顔には見覚えがある。 「何でアンタがここにいるのよ……! それにその恰好は」

2015-03-28 02:36:57
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

しかし私の言葉は彼女の自己紹介で遮られた。 「この格好では初めましてね、叢雲。先日付けでここ、潮岬鎮守府に着任した鶴木です。これからよろしくね」 「アンタが……提督? ふざけないで! アンタみたいなバカをするやつに艦隊を任せられないわ!」 「バカ……って、どのこと?」

2015-03-28 02:43:01
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

バカと言われているのに鶴木は飄々と受け流す。挙句にどのことか覚えていないとは。 「拳銃でロ級を撃ったことよ!」 「ロ級? あー、あいつ、ロ級って言うのね。そのことについては仕方ないじゃない。そうしないとあなた沈みそうだったし」 鶴木は悪びれる様子もなく、いけしゃあしゃあと話す。

2015-03-28 02:51:11
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「……何言ってんの? アンタが死ぬかもしれなかったのよ? それだけじゃない! あの船にいた全員が……!」 「わかってるわよ。それでも目の前であなたが失われることを見るのが耐えられなかった。だから私はああしたのよ。結果、全員が生還できた。それでいいじゃない」 「アンタねえ……!」

2015-03-28 02:56:59
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

私はそこで言葉を切ると捲し立てるように叫んだ。 「今回は運が良かったけど、毎回そんな行き当たりばったりじゃ上手くいかないのよ! これは戦いよ! 戦争なのよ!? 死と隣り合わせなのよ!? アンタが思っているほど、深海棲艦は生ぬるい敵じゃないの! それなのにッ……!」

2015-03-28 03:00:22
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「それは、わかってるわ。正直、あのロ級と対峙したとき、身体の奥底から震え上がるような悪寒を感じたわ。相手は一体なのに、まるで四方八方から殺意を向けられたような……。これから先やっていけるのかと不安になるぐらいにね」 「あら、そうなの。じゃあ尻尾を巻いて帰りなさい」 「嫌よ」

2015-03-28 03:02:06
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

迷いのない即答。さらに鶴木は続ける。 「敵はわかった、ならば対策を立てて立ち向かえばいい。折角着任したのに、ここで諦めるわけにはいかないの。貴女達みたいな私と見た目の変わらない女の子が戦っているのに、それに関わらずに見てるだけなんて出来ないわ。それに」 鶴木は私の顔を覗き込む。

2015-03-28 03:07:33
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「貴女を放っておいたら何時か、沈みそうだからね。ちゃんと見守ってないと、ね」 鶴木はそうニコリと言い放つ。その言い方は癪に障ったが、決意だけは本物だろう。ただ一つだけ譲れない、いや認められない点があった。 「……アンタの決意は伝わったわ。わかったわよ、好きにしなさい。ただ」

2015-03-28 03:09:50
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

そこで小さく深呼吸すると、私は鶴木に言い放った。 「私はアンタが提督だなんて、絶対に認めないわ!」 私の宣戦布告とも言えるその言葉に、鶴木は笑顔を崩さずただ頷くだけだった。

2015-03-28 03:10:56
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

認めない、絶対に認めないわ。……私の提督は、あの人だけよ。

2015-03-28 03:13:35
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

潮岬鎮守府の叢雲【2-1】へ続く

2015-03-28 03:13:48