ラバウル少佐日誌：天空の母編其ノ伍

白幸御言 @NGWCTG

瑞鶴と元帥閣下の武蔵との間の一件が一段落着いてから数日が経ちました。 (1) #ラバウル少佐日誌

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ここ数日、私は弓の稽古に励み、或いは本土から取り寄せた流行の小説を読むなどして、日々を過ごしておりました。 赤城さんがいれば、この無味乾燥な毎日も少しは彩りが見えそうなものですが、何故か最近はあの人から秘書艦への御指名が集中していたのです。 (2) #ラバウル少佐日誌

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ただ、赤城さんも出撃の任務は下されていないそうで、書類整理やお茶汲みを延々させられているとの事でした。 ……私は嫌な予感を禁じ得ませんでした。 何かを、あの男は私から隠している。 だから私と赤城さんを、必要以上に離そうとしているのではないか。 (3)#ラバウル少佐日誌

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私は確信し、あの男の元へと足を向けようと考えました。 勿論、正面から掛かったところでのらりくらりと躱されてしまうのは史実のマリアナでの瑞鶴を見るよりも明らかですから、飛龍に監視をお願いして、妙な動きを見せたその時、一気に私達四人で詰め寄る算段でした。 (4)#ラバウル少佐日誌

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……ですが、私達はどうやら詰めが甘かった。 確かに私達の知らない艦娘が一人、そこに居はしました。 大鳳。 昨年艤装が完成した、新型の空母艦娘。 そして、つい最近着任した雲龍の事は私達もよく知っていました。 地に脚の付いていない、妙な気質の子でしたから。 (5)#ラバウル少佐日誌

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「演習の計画を、二人と立てていたんだ。今、我等の艦隊は防空能力に問題がある。その事はよく分かっているだろう？」 言葉の意味以上に、提督は不敵な笑みを浮かべていました。 「摩耶さんに初霜ちゃん、吹雪ちゃん、それから秋月ちゃん。誰もここにはいませんが」 (6)#ラバウル少佐日誌

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赤城さんの尤もな意見に、然し提督は笑みを崩しません。 「彼女達は対空射撃を行えばいいだけだからな」 「然し大鳳さんはまだしも、改装済みの雲龍さんを動員するなんて、提督、らしくないですね」 「と言うと？」 その時、飛龍が赤城さんへ何事か耳打ちをしました。 (7)#ラバウル少佐日誌

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「そうですね。その事についてはこれ以上の追及はやめにしましょう。彼女の方が私達よりも消費資材も艤装の修理時間も遥かに低コストですから」 ……俄かに、提督の表情に陰りが見えました。 対して赤城さんは、雲龍さんの背後を指差し、 「ですが提督」 (8)#ラバウル少佐日誌

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「アレは何ですか？」 ……それは、本棚に立て掛けられた細長い何かの入った袋でした。 「チッ、うっかり屋で慢心癖なのは姉も同じか」 提督は確かに『姉』と言いました。 今度は赤城さんが、露骨に狼狽えた表情を見せました。 (9)#ラバウル少佐日誌

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「もう構わん、出てこい」 「し、然し……」 私と赤城さんは、その声の主をよく知っていました。 「どういう事です……？　提督！」 珍しく、赤城さんが声を荒げました。 無理もありません。 彼の執務机の下、隠し扉の中から姿を現したのは、 (10)#ラバウル少佐日誌

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赤城さんが『赤城』さんとなった、その元凶とも呼べる方であったのですから。 (11)#ラバウル少佐日誌

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「……黙っててごめんね」 彼女はそう私と赤城さんへ言って、頭を下げてきました。 私は、直ぐには返事を返せませんでした。 私の目の前で、振袖を纏い腰に艤装を着た彼女は、何故艦娘としてここにいるのか。 私は先ずそこから疑問を禁じ得ませんでした。 (12)#ラバウル少佐日誌

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「先月末より着任していた、航空母艦娘の天城だ」 天城。 それは彼女が本来、赤城さんの代わりに軍へ召し上げられ、身に纏う筈だった艤装の名前。 試験中に『通常有り得ない』事故によって壊れ、彼女の脊椎を道連れに再起不能となった艤装の名前……。 (13)#ラバウル少佐日誌

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「姉さん、腰は」 「まだ完治していないからきつめに帯を巻いてるの。御医者様が言うには、あと数週間もすれば取っていいそうよ」 にこりと笑う天城さんと、戸惑いながらも喜びの表情を装う赤城さん。 そして、 二人の後ろで提督は未だ不敵な笑みを浮かべていました。 (続く)#ラバウル少佐日誌