ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説42
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雨の音を聞きながら、小さな生き物として生まれ、死ぬ夢を見た。目覚めてみると生きた感触だけが淡く残り、起こったことは忘れていた。今のこの現実も存外そんなものかもしれない。うっすらと陽がさして、鳥の声が聞こえる。外は晴れたのか。鳥のところに行きたい。身体も心も捨て、高く高く囀りたい。
2015-01-28 23:15:23雪の日、君とふたりパスタを食べる。どこからかすんすんと透明な音がするが、君は聞こえないと言う。雪が舞う。むかしついた嘘を思い出し、悔恨で少しだけ胸が痛む。雪の白い風景の中でしか見えないものがある。忘れていたものが空からやってくる。窓硝子が曇って、すんすんとかすかな音を立てている。
2015-01-30 18:28:59親族の集まりで祖母の写真を見た。女学校のころの制服の写真。夢見るような瞳とふっくらした頬。集まった従姉妹たちみなに少しずつ似て、だれとも違う。この人がこのあと戦争中に四人の子を育て、わたしたちがいる。祖母はもういない。なあにしとられんがいね。祖母の声を思い出し、真似て呟いてみる。
2015-02-02 17:16:27広い平原のだれもいなくなった町で鉱石ラジオが鳴っている。宙を漂う電波を拾い、世界のどこかで起きた悲惨な出来事や楽しい話、流行りの歌、人々の悩みやコマーシャルを流すのだ。聞く人もないのにラジオは世界がまだあると伝え続ける。もしかしたらそれもまた宙を漂う世界の亡霊なのかもしれないが。
2015-02-09 20:36:10いつも空の下にいるけど、空という場所はない。鳥はどんなに高く飛んでも空には着かない。空はどこにでもあり、どこにもない。青くて、眩しくて、きっと似ているのだ、僕たちが帰る場所と。だから空に心臓をつかまれてしまうのだ。魂を放り投げたくなるのだ。どんなに高く投げても、届きはしないのに。
2015-02-14 22:55:34たくさんある笹の一枚だけ素早く揺れている。なに不自由なく育ったからか、人の痛みはどこか遠くて、ぽかんと眺めているだけだった。僕が見ていたのはいつも葉の日の当たる側。裏側があるなんて気づきもしなかった。父が出て行ったわけも。母が泣いていたわけも。葉が揺れる。ぴるるると風もないのに。
2015-02-16 10:06:17屋根の上に座り、月のない夜の闇に足を浸す。ひたひたと水が満ちてきて、街が沈んでしまったのがわかる。水に潜り、真っ暗な街の上を泳ぐ。水はやさしい。水の中なら泣いたっていいと思う。魚には瞼も涙腺もない。きっと必要ないんだろう。僕らは海に還るために泣くんだ。遠く空が白む。街が光り出す。
2015-02-17 17:44:23ごめんね、僕は行くよ。ひとりで。嫌いになったわけじゃない。大事じゃなくなったわけでもない。たとえこの先だれとも会えなくても、行く先が見つからなくても、行かなきゃならない。ただそのときが来たというだけ。空は広い。世界は広い。行くよ。忘れておくれ。さよなら。とてもとても好きだったよ。
2015-02-19 11:01:36あたたかい雨が降って、また春が近づいてくる。芽が出て、花が咲き、身体のネジがゆるんで、花が散るように老いていく。むかしむかし、幼い母が花を摘んだ。幼い祖母が花を摘んだ。走って、踊って、なにもかもきらきらしてた。手をつないで野を歩く。うれしくて、さびしくて、迷子みたいに春のなかを。
2015-02-25 08:37:40だれからも音沙汰がなくなり、わたしが薄れていく。姿がなくなり、形がなくなり、そしたらはじめて自由になれる気がする。だれにも見られない、愛されない、縛られない、記憶されない。そうなったら言葉なんてなしに大声で泣こう。遠吠えのように思う存分声をあげ、わたしがひとかけらもなくなるまで。
2015-03-03 11:16:40ペンギンブローチ、まだ入手可能です。
annas川畑杏奈さん @annastwutea による刺繍アニメ、ついに完成です! 140字小説その147のペンギンのお話を原作にしたもの。ペンギンが動いてます!!かわいい!!→RT
2015-02-18 08:24:12