【第四部-七】僕が欲しかったもの #見つめる時雨

山城×時雨
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

時雨「…はぁ」 村雨「まだ引き摺ってるの?」 時雨「…村雨、僕はどうしたらいいんだろう」 村雨「…そんなの、時雨が一番わかってるんじゃないの?」 時雨「……」

2015-04-11 23:17:50
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村雨「…ねぇ、時雨ってさ、いつから見返りが欲しくなったの?」 時雨「…え?」 村雨「だってそうでしょ。山城さんは時雨のこと大切に想ってくれてるって、わかったんだよね。でも、時雨は今もまだそんな状態。まだ欲しいものがあるってことでしょう」

2015-04-11 23:21:33
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村雨「…この際だから言っちゃうけど、私、時雨が身を引くって決断したの聞いて、すごいって思ったんだよ。あと、偉いって。でも今の時雨には全然そんなこと思えない。龍鳳さんの気持ちを知ってて、酷いことしてる。最低」 時雨「村雨…」

2015-04-11 23:23:38
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村雨「時雨の気持ちもわかるわよ。だけど、このままじゃ誰も幸せになれないことは時雨もわかってるんでしょ。…ねぇ、時雨が欲しいものって何?山城さんの、何が欲しいの?」 時雨「僕は…。…」

2015-04-11 23:25:37
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村雨「…何となく時雨が考えてることわかるんだよね。あと、それを口にできないことも。…私もね、あるんだ。何だろうね、この気持ち…」 時雨「…村雨も?」 村雨「…だけど、それとこれとは話は別。この浮気者ー」 時雨「う…」

2015-04-11 23:27:20
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村雨「…真面目な話、一回山城さんにお願いしてみたら?それで時雨の気持ちが晴れるかはわからないけど、何かが変わるかもしれない。したことないでしょ」 時雨「え!?いや、そんなこと…できるわけが…」 村雨「…まぁ、そうよね…。ごめん、聞かなかったことにして」

2015-04-11 23:28:40

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深夜の談話室のソファーに腰を沈める。僕はそこで、大きな溜息をついた。…僕はどうしてこんなにも引き摺っているのだろう。どうして。 「……」 その問いに返事をくれるひとはここには誰もいなかった。

2015-04-12 01:50:25
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「むぎゅ」 …突然、僕の頬が圧迫された。何、何が起きたの。 「うりゃうりゃ」 「んー…!?」 頬を包む彼女の両手が、僕を弄ぶように動く。僕は彼女がここにいることに驚くと同時に、何とも言えない気持ちが僕の中に広がっていった。 「や、山城…!?」

2015-04-12 01:52:13
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最後にパチンと叩かれた。妙にいい音が鳴る。 「…痛いよ、山城」 「ふん」 山城は悪びれる様子もなく、僕の背後に立っている。その表情は不機嫌を隠す気もないといった感じで。でも僕はその理由が何となくわかる気がした。

2015-04-12 01:55:16
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山城が僕の隣に腰を下ろす。…目は合わせてくれない。眉間に皺を寄せて、前にある机を見ていた。 「……」 時計の針の音だけが部屋に広がる。冷たく冷え切った空気が、この場を支配していた。

2015-04-12 01:57:30
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「「ねぇ」」 …僕と山城は同時に口を開いた。面を喰らった僕たちは、また口を噤んだ。 「…あぁもう…どうしてこうなるのよ…」 山城が両手で顔を覆いながら、苦い言葉を零す。僕はそれに何も返すことができず、目を伏せた。

2015-04-12 01:59:39
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「…ごめんなさい」 山城が、謝罪の言葉を口にする。両手で覆われた顔からは表情はわからなかったが、その声は酷く苦しそうだった。 「私が貴女の気持ちを中途半端にしてるせいで、時雨にも、周りの皆にも、嫌な思いをさせて…」

2015-04-12 02:01:33
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「…どうして…!!」 山城の手が僕の肩を掴む。力がこもった彼女の手は…震えていた。 「どうしてそんなことが言えるのよ!!時雨は自分のせいだって思ってるの!?本気で!?」 鬼のような山城の表情に、僕は言葉を詰まらせた。

2015-04-12 02:08:34
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「もう…嫌い嫌い、大っ嫌い!!全部自分のせいにするあんたも、引き摺り続けている私も…!!」 「や…山城…」 山城の感情が、僕に吹き荒れた。それは今まで溜め込んでいたものが、遂に決壊してしまったかのようだった。

2015-04-12 02:11:44
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「…ねぇ、時雨…やっぱり違うわ…。こんなの違う…」 …山城の目から一筋の涙が伝った。そして、僕の胸に崩れ落ちた。 「私…貴女が、龍鳳にしてること…もう…見てらんない…。そして…貴女にそんなことをさせてしまったのは…私…」

2015-04-12 02:15:25
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…激しく流れ込んでくる山城の言葉に、僕の心がざわついていた。山城をこんな状態にしてしまったのは誰? そして、龍鳳を今も尚傷つけているのは誰? 心のささくれが、次々と剥がされていく。それは見て見ぬふりをしてきた僕への、大きな代償だった。

2015-04-12 02:18:46
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

どうすれば僕は山城を悲しませないようにできる? 誰か教えて。山城が、泣いてるんだ。僕のせいで、泣いてるんだよ。ねぇ、どうすれば…どうすればいいの?

2015-04-12 02:22:43
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…山城」 …僕は山城の身体をそっと離し、彼女の目を見た。彼女から溢れた涙で…酷く濡れていた。 「一つだけ…お願いがあるんだ」 …村雨に言われたことを、思い出していた。

2015-04-12 02:28:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕は何が欲しかったのか。山城は僕を手放したくないと言ってくれた。僕が欲しかったはずの山城からの気持ちは、貰っていたはずなのに。それなのに僕は龍鳳を傷つけてまで、それ以上の何を求めていたんだ。…僕が欲しかったもの。涙で濡れた山城の顔をこんなにも近くで見た時、その答えは出てきた。

2015-04-12 02:32:59