吉川英治「新平家物語」の平清盛　幻の中世国家

イヌノオー@ウマシカliberalism @inunohibi

戦後吉川英治は、「国民作家」としてファシズム精神を鼓舞したという批判を受けるが、中国文学者の竹内好は、「吉川英治論」で「吉川がファシズムにおもねったのではなく、ファシズムが吉川を利用した」と主張した。

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吉川英治「三国志」。「三国志演義」ではただの悪役だった曹操を、「魅力的なライバル」として確立させたことで有名。この作品における曹操は、戦いでの敗北に再起を誓い、部下の死に悲憤し、燃えるような野望を秘めて、時に冷酷な多面的人物である。

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吉川英治は巻末の作者解説で、「人間的な面白さは孔明以上」と断言する。話の概略はよく知られているし、本編も当然長い。しかしせめて、最後の「余禄」だけでも一読しておきたい。今なら青空文庫で、無料で読める。aozora.gr.jp/cards/001562/c…

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吉川英治「新平家物語」をぽつぽつ読み始める。前にも書いたように、ストーリーはあんまり面白くないのだが、清盛の描写が魅力的。繊細な感情を持ちながら、宗教的権威、神仏のたたりも恐れない大胆不敵な男。

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従来悪役だった人物から、多感で多面的な魅力を引き出すのは、｢三国志｣の曹操と似ている。吉川英治の得意技なのだろう。

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たとえば祇園社闘乱事件。寺院勢力の権威を打ち砕くため、清盛がみこしに矢を向ける。坊主が「あな、無法者っ、罰当たりめっ。血反吐を吐いて、死ぬのも知らぬか｣というと、「血反吐？　吐いてみたい！」といって矢を放つ。かっこいい。

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吉川英治の新平家物語、まだ青空文庫に収録されていない。長いから後回しなのかな。古本屋に安く置いてある。

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西洋から近代日本の歴史学に輸入された「中世」という概念は、日本では、天皇と貴族権力を中心とした「古代」から、武士階級の台頭によって「中世」が始まった、という学説で定着した。そこでは武士が政治にかかわる先駆者として平清盛が評価されるものの、

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一方で王朝権力、いわゆる天皇家と一体化しようとした清盛の戦略が「藤原摂関家と似ている」とされ、半ば貴族的であり、古代の限界を打ち破れなかった政治家とされている。吉川英治もこの枠組みを踏襲している。

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一般的には、「水鳥の飛び立つ音に驚いた」という富士川での情けない敗走が有名なため、源頼朝の挙兵と清盛の死で、平氏は一直線に滅亡したようにイメージされる。しかし実際には富士川の戦いの後も、平氏が兵力と補給を立て直して何度か源氏に勝利しており、

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数年の間は源氏と平氏のにらみ合いが続いていた。この時期平氏の拠点である西国が激しい飢饉に見舞われており、鴨長明「方丈記」にも記されているというが、当然これは平氏政権を疲弊させた。源氏の勝利には、運も味方していたのである。

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ここ十数年、源氏こそが武士本来の姿を貫いた歴史的進歩の担い手であり、平氏は滅びるべくして滅びた、という単純な進歩史観に挑戦する、意欲的な歴史研究が続々表れた。

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代表的なのは元木泰雄「平清盛の闘い」だと思うが、そこでは後に室町幕府の足利義満が、王朝権力を吸収した政治体制を試みたことにふれながら、清盛の政治構想を「幻の中世国家」と位置づける。清盛と義満は、他にも共通点が多い。ともに対外貿易に目を向け、推進したこととか。

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参考、五味文彦「日本の歴史４　武士の時代」、上杉和彦「平清盛」。