ゴッドハンド・ザ・スモトリ #4
「参加団体はもう一つある」花道を歩いてくる男の低い声はコロシアム全体に届いた。身に着けるはマワシひとつ。刺青もサイバネティクスもバイオ手術痕もない肉体。オールドスクールなマゲ。人々はこの者が誰であるか、当然すぐにわかる。ブーイングする勇気のある者はいない。 24
2015-04-24 23:54:54「貴ッ様!なにをおめおめと!」セコンドにいたスモトリ軍団の一人が肉切り包丁を手に、この男に向かってゆく。「ドッソイ!死ね!」「ドッソイ!」「アバーッ!」張り手一つで、肉切り包丁のスモトリはうつ伏せに倒れ、白砂に顔面が突き刺さって動かなくなった。「ゴッドハンド」ヤチタは言った。25
2015-04-24 23:59:30周囲の観客がヤチタを見た。ヤチタはひととき狼狽えた。少年の胸には、かつての苦い記憶が去来した。(「通ぶりやがって」「ヨコヅナに幾らつかまされた?」「ゴッドハンドが好きだなんて、本当は思ってないんだろ」「嫌いって言えよ、ゴッドハンドが嫌いだって言え!」)だが少年は拳を握った! 26
2015-04-25 00:05:28「ゴッドハンド!ガンバレ!ゴッドハンド!ガンバレーッ!」ヤチタは叫んだ!観客のどよめきが、ヤチタの周囲から、さざなみのように広がった。店主は冷汗を流した。ヤチタは叫び続けた。「ゴッドハンド!ガンバレーッ!」「ゴ……ゴッドハンド!ガ、ガンバレーッ!」ゴウランガ!店主! 27
2015-04-25 00:08:08「な……何を黙って見ている!」マサカリファングがスモトリ軍団に命じた。「奴は招かれざる客。ドヒョーに上げるな、八つ裂きにしろ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」スモトリ軍団が手に手に武器を構え、ゴッドハンドのもとへ向かってゆく!「ドッソイオラー!」「スッゾオラー!」 28
2015-04-25 00:13:06「ヌウウウーッ……」一方ゴッドハンドはその場で身体をほとんどドゲザに近い低さまで下げ、背中を丸める。ミシミシと骨肉の軋む音が響いた。「ハッキヨホ!」「「「「グワーッ!」」」」ゴウランガ!ゴッドハンドの機関車じみた突進により、スモトリ軍団が左右に吹き飛ばされる!まるで魔法だ!29
2015-04-25 00:16:15「ヒダリモンジ=サン!ミギモンジ=サン!」ストロングホールドが手下のスモトリ戦士二人を促した。鎖を振り回しながら、ひときわ巨大なスモトリが向かう!何たるチャンコ072のオーバードーズか?極めて危険な状態である筈だ!「ドッソイ!」「ドッソイ!」鎖がゴッドハンドの両手に巻き付く!30
2015-04-25 00:20:49「ヌウウーッ……」ゴッドハンドの肉体が紅潮する。鎖の綱引きだ!「これはまずい、体重差は10倍以上あるぞ」店主が呻いた。「そしてあの鎖!確かにリキシ・リーグにおいても武器の使用はルールに含まれているとはいえ、二人がかりはさすがに卑怯」周囲の観客も同意するかのように眉を潜めた。31
2015-04-25 00:25:45「伝説など邪魔!」さらなるスモトリ戦士が吐き捨て、槍をしごいて襲い掛かる!「あのスモトリはゴズマだ!三対一?卑怯すぎる」店主は鼻白んだ。ゴッドハンドは鎖を徐々に引き寄せる!「ヌウウーッ!」「ガンバレ!ゴッドハンド!ガンバレ!」ヤチタは腕を振り回した。「ガンバレーッ!」 32
2015-04-25 00:30:46「ヌウウーッ……」ゴッドハンドは鎖を引き寄せる!襲い来る槍!ゴッドハンドの視線の先には、ドヒョー・リング!かつてその上で並ぶものなき最強のスモトリとして君臨し、堕落の果てにそれを捨て、目をそらして生きて来た、あの盛り土のリングは今、パイロの炎が無くとも熱く、眩しいのだ! 33
2015-04-25 00:34:16「ドッソイ!」ゴッドハンドは鎖を引ききった!「「グワーッ!」」引っ張られたヒダリモンジ、ミギモンジはクラッカーボールめいて頭を衝突させ、悶絶失神!槍をしごいたゴズマは目の前でうつ伏せに倒れた巨人二人に狼狽した。槍をすり抜け、ゴッドハンドのアイアンクローがゴズマの顎を掴んだ!34
2015-04-25 00:37:06「「「ワ……ワオオオーッ!」」」堰を切ったように観客の歓声が爆発した!「化け物……」ゴズマが哀願するように目を見開いた。ゴッドハンドはそのままゴズマを白砂に力いっぱい叩きつけた。「アバーッ!」一歩!二歩!ドヒョー・リングに近づく!「アアッ……」マクゴザンがゴッドハンドを見た。35
2015-04-25 00:41:24「ドッソイ!」ゴッドハンドはマクゴザンのマワシをやおら掴み、ドヒョー外へシタテダシナゲ!「グワーッ!」身体の埃を叩きながら、ヨコヅナはドヒョー・リングの上に上がり、ソンキョしたのである……!「「「「ワオオオーッ!」」」」大歓声!「挑戦だ!」「挑戦を受けなきゃ戦士じゃないぜ!」36
2015-04-25 00:43:22ヤチタは熱狂する観客達を驚いて見渡した。「「「「ワオオオーッ!」」」」彼らは叫び続けていた。ヤチタの顔が歪んだ。ヤチタは笑おうとしたが……大粒の涙がこぼれた。店主がヤチタの肩を叩いた。「わかるぜ。ヤチタ」「黙っててよ!」ヤチタは泣き笑いしながらその手を払いのけた。37
2015-04-25 00:48:56「おのれ……」マサカリファングは歯噛みした。理事長が磔台から請うた。「助けてくれ、ヨコヅナ。なんでも望み通りに……」「望み?そんなものはない」ゴッドハンドはソンキョしたまま、ぴしゃりと言った。ゴヨキキはそそくさと地獄の砂時計を片づけた。「かかって来い!」ゴッドハンドが言った!38
2015-04-25 00:52:17「グレートホーン=サン!かかれ!」マサカリファングが命じた。「俺に命令するのか?」もの言いたげにマサカリファングを見る。「ならば俺がリーグの理事長になるという確約を……」「シャラッシェー!」マサカリファングは怒声を上げた。「アイエッ!」グレートホーンは失禁しかかる! 39
2015-04-25 00:57:04ストロング・オックス・ボックスのヨコヅナであるグレートホーンは、対等関係であった筈のマサカリファングの怒声、その叫びがもたらした正体不明の恐怖を訝しんだ。しかしそれを深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような……そんな不吉な予感に襲われた。彼は目をそらし、進み出た。40
2015-04-25 01:00:39「ワ……ワシはどうすればいいのか」トリクミ・アングルをとるゴッドハンドとグレートホーンを見ながら、ドヒョー外のストロングホールドはおずおずとマサカリファングを見た。「シュー……」マサカリファングは瘴気めいた息を吐きながら睨み返した。「削れ」「え?」「削れ。捨て石となれ」 41
2015-04-25 01:03:44「始めて!」レフェリーの号令とともに、ゴッドハンドとグレートホーンは真っ向ぶつかり合った。体格差は三倍近い!この者もやはり相当なチャンコ072濫用者なのだ!「ヌウウーッ……」ゴッドハンドの眉間に今にも弾け飛びそうな血管が浮き上がる。グレートホーンは押され始めた! 42
2015-04-25 01:07:31「捨て石とは……?」「奴は所詮、非ニンジャの屑」マサカリファングは瞑想的に呟いた。「え?」「よくもここまで我が野望にケチをつけてくれた。いきがりおって……」「何を……?」「今や、俺にはオスモウを支配し、奴をも難なくくだす力がある。だが万全を期す必要がある……奴はヨコヅナだ」43
2015-04-25 01:10:21ストロングホールドはマサカリファングの言っている事の半分も呑み込めなかったが、深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような……そんな不吉な予感に襲われた。彼は目をそらした。「わかりました」彼は邪悪なスパイクすね当てを装着し始めた……! 44
2015-04-25 01:15:13「ドッソイ!」「アバーッ!」ナムサン!ウワテナゲ!グレートホーンは頭から逆さにドヒョー・リングに叩きつけられ、動かなくなった!「「「ワオオオオーッ!」」」観客が燃え上がる!「チィーッ……」マサカリファングは拳を握り込んだ。そしてストロングホールドを見た。「行けッ!」 45
2015-04-25 01:16:51「い……いただきィーッ!」アナヤ!いまだレフェリーが始めの合図をするを待たずのダーティー・アンブッシュ!ストロングホールドは褒章紙袋を儀礼的に受け取るべくソンキョしようとしたゴッドハンドにいきなり襲い掛かった!「ドッソイ!」ローキック!すね当てには邪悪なスパイク!アブナイ! 46
2015-04-25 01:20:02「「「「BOOOOO!」」」」今や観客が一丸となって卑劣行為にブーイングを行っている!しかしゴッドハンド!軸足をそのようなスパイクで抉られれば、次のトリクミは無残にも……「ドッソイ!」「なッ?」ストロングホールドは目を見張った。その足が虚しく宙を掻いた。近づけない!のど輪だ!47
2015-04-25 01:22:49「バカな……体格差が……」ストロングホールドが呻く。だがその時にはゴッドハンドの両手はストロングホールドのマワシを掴んでいたのだ!「き、決まったァー!」店主が膝を叩いた。「もはや絶対に逃れられないぞ!あの形がゴッドハンド現役時代最強の形なんだ!新幹線でも動かせん!」48
2015-04-25 01:26:22