シンギング・イン・ザ・レイン ♯6

ニンジャスレイヤー二次創作まとめです
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ひたちえぼ @EVO_Hitachi

シンギング・イン・ザ・レイン ♯6

2015-05-10 22:59:32
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ウスイ・ヤマモモが見る曇ったヘルメット越しの景色は、フィルターがかかった映画のワンシーンめいていた。ジョルリじみて吊された中、雨が叩き付けてぼやけた視界には、ここで会うはずのない人が立っている。その大柄なボンズヘアーの男は、コートの下にニンジャ装束を纏い、メンポ姿で現れた。 1

2015-05-10 23:04:06
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

そして、スコールブリンガーのアイサツに、ネザークイーンと名乗った。彼はニンジャだったのだ。グレイリングリーの残骸を一瞥した彼は、決然とした足取りでこちらへ歩んでくる。「助けに来たと? 片腹痛い!」スコールブリンガーが再びアマゴイ・ジツを行使する。「イヤーッ!」 2

2015-05-10 23:08:09
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

再び、凶悪な雨が辺りを蹂躙する。先程見舞った雨の所為で、周囲のビル壁はドロドロに溶け、足元のコンクリートもまだらに穴が穿たれている。それらが更に削られる中でもネザークイーンは怯まぬ。ヒールで水溜まりを蹴散らし、一歩ずつ。スコールブリンガーは再びフィードバックを受け、よろけた。 3

2015-05-10 23:12:00
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ネザークイーン=サン! そなたもそこのクズ肉と同じさだめをたどるがいい!」スコールブリンガーは笑う。ネザークイーンのかぶっていたコートのフードが見る間に溶け、露わになった頭を酸の雨が侵す。ボンズヘアーがシュウシュウと煙を上げている。けれど、彼は歩みを止めなかった。 4

2015-05-10 23:17:04
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

溶けかかったコートを脱ぎ、再びスカーフじみて頭に巻く。それもすぐ雨に消える。フェティッシュニンジャ装束さえもショウジ紙じみてどろりと溶け始める。しかしネザークイーンの足は止まらぬ。まるでそれしか知らぬように。しかし、更に数フィート歩んだところでついに、足が止まった。 5

2015-05-10 23:22:21
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ヌゥーッ!」しかし、見よ、ネザークイーンのその光る体を。スコールブリンガーのジツをそのムテキで受け止めている。むろん、そのムテキは本来こうしたジツを吸収するには不向きだ。その証拠に、未だ彼の体からは防ぎきれぬ酸の雨により不穏な煙が上がっている。 6

2015-05-10 23:27:52
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「悪あがきを! イヤーッ!」スコールブリンガーが雨脚を強める。「ヌゥーッ!」膝を突くと地面の雨で膝から嫌な匂いと共に皮膚が灼ける。しかしその雨さえ吸収し、ネザークイーンは人ひとりが覆えるほどのエネルギースリケンを、生成した。「イヤーッ!」スリケンは彼の手を離れる。 7

2015-05-10 23:33:15
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

速度は殺傷するにはややゆるやかだ。その直線軌道に合わせ、ネザークイーンは疾走! ゴウランガ! エネルギースリケンを瞬間的な傘とした!「なにゆえ……なにゆえ貴様は死なぬ! ブザマを見せぬ!」母たちや、テンクサの者達や、グレイリングリーと、このニンジャは一体何が違うというのか。 8

2015-05-10 23:36:25
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

スコールブリンガーには分からずとも、ウスイには分かっていた。ザクロ=サンだからだ。ザクロ=サンは、こんな時きっと、逃げない。ぼんやりしたヘルメット越しの視界に、ザクロの拳が大写しになった。 9

2015-05-10 23:38:51
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ウスイ! この、バカ!」ネザークイーンの鉄拳!「ンアーッ!」スコールブリンガーはコマめいて回転しながらコンクリートに叩き付けられた!「アータの我慢はね、自己犠牲じゃなくてただの臆病だわよ! ちゃんとテメエと戦え!」 10

2015-05-10 23:43:35
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

殴り飛ばされ、脳天が揺れる。ウスイの無力感に沈み込んでいた意識が、首をもたげた。ザクロが倒れたスコールブリンガーをの襟首を掴み上げ、笠の薄布を払いのける。「良く聞きな! アータのお母さん生きてるの! 入院中! アータ、殺しちゃいないのよ!」稲妻めいて、それはウスイを打った。 11

2015-05-10 23:44:55
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「聞いてるんだろ! ウスイ!」「離せ! 妾はもうウスイではない!」スコールブリンガーがザクロを振り払い、壁を蹴ってザクロの後背へ回る。集中を切らしたため、酸の雨は止まってしまった。しかし、再びジツを使えば勝てる。「あの臆病者は妾の奥底でブザマに寝ておるわ!」否である。 12

2015-05-10 23:46:34
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ローカルコトダマ空間の中で、ウスイは潜水服ごと己を縛る頑丈な糸を引きちぎらんともがき始めた。黙って見ていたら、スコールブリンガーはきっと母を殺す。そして今、ザクロさえも手にかけようとしている。なんとかしなきゃ。でも、どうやって? 13

2015-05-10 23:48:49
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ウスイは潜水服のヘルメットに映った風景を見た。逆上するスコールブリンガー。そのジツにより体を溶かし、それでも自分を殴ったザクロ。ざあざあと聴覚にこだまする雨音に、ウスイは決断した。 14

2015-05-10 23:50:18
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

今のスコールブリンガーは、抑圧していたウスイの鬼火じみた心が、ニンジャソウルと手を繋いだものだ。その彼女が母やカブキチョを傷つけた。全部自分のやったことと同じだ。スコールブリンガーはウスイなのだから。ならば、やれるはず。ウスイは集中する。 15

2015-05-10 23:54:40
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

雨水のように、スコールブリンガーのニューロンへ浸透していくイメージ。体を取り返すのでも、彼女を押し込めるのでもない。彼女を自分と合一させるのだ。もう逃げない。ウスイの視界がクリアになった。自分の視界を取り戻した。 16

2015-05-10 23:56:02
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

体の感覚が戻ってくるが、抗うニンジャのざわめきが内にある。ニンジャソウルはウスイに制御しきれぬ力のかたまりだ。いずれ体は取り返されてしまうだろう。「ザクロ=サン。全部、ちゃんと届きました」ザクロが振り返る。「ウスイ=サンね」頷く。 17

2015-05-10 23:57:41
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ウスイは笠を剥ぎ取り、天を仰ぐ。鈍色の空。ウスイはあの雨の夜を懐かしんだ。あの夜は、あらゆる物が輝いていた。潜水服を抱え、常人の3倍はあろう脚力でオオヌギから自宅の側まで飛び渡ったとき見えた、ネオンの明かり。空から見下ろす紫陽花めいた傘の花々。美しかった。けれどまやかしだ。 18

2015-05-10 23:59:31
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

夢から覚める時間だ。ウスイは何かを受け取るような仕草で片手を雨空へ差し伸べ、呼んだ。この場で自分だけを傷つける、この街の雨を。『ウスイーッ!』スコールブリンガーが吼える。『貴様ァーッ!』「これでいいんだよ」意識が引きずり下ろされる。少しの抵抗は虚しく、体は奪われた。 19

2015-05-11 00:02:06
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

諾々と生きていたウスイが初めて翻した反旗は、数秒のあいだ、体をスコールブリンガーから取り返すので精一杯だった。しかし、それで充分だった。後は、己の呼んだ雨が全てを流すだろう。自分の弱さも、罪も、命諸共に。インガオホー。 20

2015-05-11 00:05:43
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ウスイ、アータ何したの」ザクロが少々のカラテ警戒と共に、こちらを案じている。しかし、恐慌状態に陥ったスコールブリンガーは彼の声が届かぬ。「アアアアアーッ!」憤怒の形相でスコールブリンガーが放つ闇雲なパンチをいなす体からは、先程と違い煙は上がっていない。ウスイは安堵した。 21

2015-05-11 00:09:12
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

スコールブリンガーが取り乱す理由が、その身にあらわれはじめた。まぶたが熱く、体じゅうが痒い。腕が赤くなり、呼吸が苦しい。はらわたの内側から刺すような痛み。こらえきれぬ掻痒感。まぶたの熱は顔全体に広がる。「ウスイ! 貴様! よくも!」彼女はもう一人の己に怨嗟の叫びを上げた。 22

2015-05-11 00:14:20
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ウスイが体を奪い返した数秒、彼女に降り注ぐ雨は、ネオサイタマの雨だった。この街にやって来た日に、無慈悲にウスイを打ち据えた雨だ。重金属酸性雨とその毒性、および即時型重篤アレルギー症状。ニンジャ治癒力を持ってしても追いつかぬ速度で、己の体が壊れていく。 23

2015-05-11 00:16:39