ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#6

ニンジャが出て搾る!
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@nezumi_a

(前回までのあらすじ:食事にレモンを無差別に搾る邪悪なニンジャ、スクイーズことサラリマンのガラシダ。ヘルカイトとのイクサで重傷を負った彼は、ZBRアドレナリンの作用により過去を見ていた)

2015-05-17 14:07:20
@nezumi_a

ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#6

2015-05-17 14:08:59
@nezumi_a

「ザッケンナコラー!」宴会場に雷鳴の如きヤクザスラングが轟いた。「テメッコラー!チャルワレッコラーッ!」憤怒の形相でヤクザスラングを吐く専務!コワイ!「ア、アイエエエエ……」ドゲザするガラシダ。接待は万全の態勢で臨んだはず!一体なにが起こったのか!?01

2015-05-17 14:11:21
@nezumi_a

インシデントは宴会が開始から三十分後に発生した。名刺交換やお決まりのアイサツ、乾杯といった儀式が済み、順番に料理が運ばれてきた。終始和やかなムード。舞い踊るオイラン。運ばれてくるオーガニック・カキ。ガラシダの読みは的中し、ナマガキを見た専務は満面の笑みを浮かべた。02

2015-05-17 14:14:34
@nezumi_a

手応えはあった。しかし、おお、ナムアミダブツ。ここでガラシダはしくじった。彼は専務のカキに無許可でレモンを搾ったのである!「今すぐセプクして詫びろ!」常務も激昂している。ナムサン。このままでは合併どころか、今後の取引すらなくなる勢いだ。それだけは避けなくてはならない!03

2015-05-17 14:17:10
@nezumi_a

ガラシダはドゲザ姿勢のまま顔面蒼白になり、脂汗を流しがなら決意した。今ここでセプクすれば、少なくとも会社は守れる、と。「……わ、わかりました、お詫びにセプクします……」悄然と項垂れるガラシダ。全て終わった。虚無感が押し寄せ、全身の力が抜けていく。04

2015-05-17 14:20:30
@nezumi_a

接待が始まる前は、順調なカチグミへの階段が見えていたはずなのに。ああ、ブッダよ!「さあ、ガラシダ=サン、準備が整いました……」エンダがウエスで巻かれたドスダガーを持ってきた。これでセプクするのだ。「アイエエエエ……」既にザシキにはカイシャク役も居た。05

2015-05-17 14:23:41
@nezumi_a

アトウが無表情でカタナを持っている。チタンの刃がボンボリの明かりにギラリと光る。ガラシダはセプクセレモニーに立ち会った事が一度だけあった。経費の使い込みがバレた経理がセプクを申し付けられたのだ。しかしガラシダは知っていた。06

2015-05-17 14:26:49
@nezumi_a

本当に経費を使い込んでいたのはシズヤマ部長であり、経理係はヌレギヌを着せられたのだ。名も覚えていない経理係が、泣きながら自分の腹にドスダガーを突き刺した姿を思い出す。少なくとも自分のセプクは、己のミスが原因だ。他者によって謀られたものではない……07

2015-05-17 14:30:20
@nezumi_a

ガラシダは背広を脱いでウエスの敷かれたキルゾーンに正座した。「ハイクを詠んでください。ご家族にも連絡しますので……」アトウはカタナを構えたまま、何かを堪えるように言った。ガラシダは置かれたドスダガーを手に伸ばす。その手は震えていた。08

2015-05-17 14:33:18
@nezumi_a

セプクの席でのブザマは会社の恥。ガラシダは息を止めてドスダガーを掴み、ハイクを詠んだ。「インガオホー/レモンを搾り/セプクします……イヤーッ!」勢いよくドスダガーを振り下ろす!「アバーッ!」腹部に灼熱が生まれ、今日の為に用意したカチグミ用ワイシャツが血に染まっていく!09

2015-05-17 14:36:35
@nezumi_a

ガラシダはセプク姿勢から蹲った。激痛に意識が混濁し始める。上座からは、笑い声が聞こえる。(どうやら機嫌は直ったようだ……)致命傷に脳がアドレナリンを分泌させ、痛みを感じなくなってきた。意識が闇に沈んでいく。ナムサン、あとはカイシャクで首を切り落とされるのを待つばかりだ。10

2015-05-17 14:39:22
@nezumi_a

サンズ・リバーの船頭を待つガラシダの聴覚に、何か聞こえる。それは笑い声だ。しかも大勢の。(笑い声……?複数の……?)「イヤーッ!」振り下ろされたカイシャクの刃がガラシダの首筋に触れた瞬間、その事実が、金色の閃光となって意識に弾けた。11

2015-05-17 14:42:20
@nezumi_a

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2015-05-17 14:45:10
@nezumi_a

ガラシダは見知らぬ場所に立っていた。周囲には何も無い、ただ灰色の薄闇が広がるだけだ。「ここは……?」停電だろうか。記憶は混濁し、直前の状況をよく思い出せない。「そうか、オヒガンか」自分は大事な接待の最中に失敗し、セプクをしたのだ。であるなら、この光景も納得がいく。13

2015-05-17 14:48:19
@nezumi_a

初めて見るオヒガンの光景も、ガラシダにはさほど感慨が沸かなかった。既に死んでいるのなら感情がないのだろうか。見下ろせば腹には横一文字の線。セプクの痕だろう。「否、此処はオヒガンにあらず」背後からガラシダに語りかける声があった。振り向くと人影。不思議な存在感がある。14

2015-05-17 14:51:59
@nezumi_a

顔形の判然としない人影は、両手を合わせてオジギをした。「ドーモ。カジツ・ニンジャです」「ドーモ、カジツ・ニンジャ=サン。ガラシダ・ユスケです」ガラシダも反射的にアイサツを返した。アイサツにはアイサツで応える、染み付いたビジネスマナーの基本がそうさせたのだ。「ニンジャ?」15

2015-05-17 14:54:26
@nezumi_a

「然り。我はニンジャ也」「やはりここはアノヨなんだな」無知で善良な市民であるガラシダにとって、ニンジャとは架空の存在だ。本物のニンジャを目の当たりにすれば、ニンジャへの根源的恐怖からNRSを引き起こしていたであろうが、己の死という状況に全ての事がどうでもよくなっていた。16

2015-05-17 14:57:55
@nezumi_a

「それで、カジツ・ニンジャ=サンが一体なんの用ですか」「オヌシは今、まさに死ぬ」「そうか、やはり死ぬんだな」取り返しのつかないミスをしたことは覚えている。会社の為に命を投げ打つのはサラリマンの本懐だが、家族を残してこの世を去ることになる、それだけが心残りだ。17

2015-05-17 15:00:17
@nezumi_a

「左様。だがその前に思い出すのだ。最後にオヌシが見た光景を」「最後に見た光景……?」ガラシダは言われるままに思い出そうとした。覚えているのは激痛と鉄の味、後悔と諦観。涙に歪む視界の中、上座に座ったイシルギの専務たち。そして、その横で一緒に笑いながらお酌しているのは……18

2015-05-17 15:03:15
@nezumi_a

「!」部下のエンダの姿だ!「思い出したか。コヤツらはオヌシの気遣いを余計なお世話と断じ、オヌシのハラキリを肴に酒を呑んでいたのだ」「グワッ……」愛社精神と、奉仕の心が踏みにじられたショックでガラシダの意識が呻き声を上げた。19

2015-05-17 15:06:41
@nezumi_a

「そうだ、オヌシはこれから死ぬ!」カジツ・ニンジャが言った。「オヌシのしたことは何一つ省みられる事無く、ムシケラめいて無惨に死ぬのだ!」「オノレー!」周囲の闇が燃え上がった、ガラシダの怒りと、絶望によって!「許さん!許さん!許さぬうううーッ!」20

2015-05-17 15:09:30
@nezumi_a

憤怒が渦巻き、腹の傷から血飛沫めいて01のノイズが噴き出た。「そうだ!怒れ!その怒りこそがオヌシを現世に繋ぎ止める!」カジツ・ニンジャの言葉にガラシダの記憶が高速再生されていく。死に瀕した者が見るというソーマト・リコール現象である。21

2015-05-17 15:12:14
@nezumi_a

スクール時代、結婚式、家族や会社のビジョンがぐるぐると回転していく。ガラシダはその中でひとつの光景を見た。「レモン」それは、ガラシダの新入社員歓迎会での記憶だった。ノミカイの作法も分からず、カラアゲにレモンを搾り、しかし部長から気の効く奴と褒められた記憶。22

2015-05-17 15:15:54
@nezumi_a

その経験はスリコミとなってガラシダのサラリマン人生に根を張っていた。「レモン?レモンとな!よかろう、力を貸してやる!」その記憶を覗き込んだカジツ・ニンジャは、判然としない顔で確かに笑うとガラシダの首を掴み、吊るし上げた!「アバッ」そしてガラシダを吊り上げたまま宣言した。23

2015-05-17 15:18:35