ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#7 (後半)

ニンジャが出て搾る!
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@nezumi_a

「グワーッ!?」裸眼となったビホルダーの目に、狙い過たずレモン果汁が命中したのだ!ワザマエ!「グワーッ!」ニンジャとて眼球にレモン果汁を掛けられればひとたまりも無い!目の眩んだビホルダーはのた打ち回る!もはやイーヴィル・アイは使用不能だ!67

2015-05-20 19:43:15
@nezumi_a

スクイーズは駆け出そうとタタミを踏みしめる。が、足が動かぬ!レモン果汁が命中する瞬間、ビホルダーの視線はスクイーズを射抜いていた。0コンマ01秒。たったそれだけの時間であったが、フドウカナシバリ・ジツはスクイーズの全身の神経を侵していたのだ!ナムアミダブツ!68

2015-05-20 19:45:22
@nezumi_a

「グワ……ッ」果汁スリケンを投擲した姿勢のままタタミ倒れこむ。全身が水揚げされたマグロめいて硬直し、呼吸すらままならない。五感を失ったに等しい状態のスクイーズだったが、和製サイドテーブルに片肘をつき、このイクサを見物しているラオモト・カンの存在を感じ取っていた。69

2015-05-20 19:47:30
@nezumi_a

(玉座まであと、タタミ二十枚……!)燃え盛るスクイーズの意思を断ち切るかのように、オブシディアン色のニンジャが必殺の構えで佇んでいた。禍々しいアトモスフィアを放つニンジャソードが、身動きの取れぬスクイーズをカイシャクせんと微弱な振動音を立てている。70

2015-05-20 19:50:05
@nezumi_a

更に背後からアースクエイクが迫る気配、そのまた背後に無数のニンジャ気配。主君ラオモトの危機を前に、体裁構わず襲い掛かろうとしているのだ。おお、スクイーズの、ガラシダ・ユスケの権力とタテマエに対する復讐の戦いはここで幕を降ろしてしまうのか? 否、断じて否!71

2015-05-20 19:52:21
@nezumi_a

前門のタイガー、後門のバッファローの大群というこの窮状にあって尚、スクイーズの霞む視線はラオモトに、その皿に、高性能ミサイル誘導UNIXシステムめいてロックオンされているのだ!(俺の中に宿るカジツ・ニンジャよ!力を貸してくれ!皿は目の前なのだ!)72

2015-05-20 19:54:16
@nezumi_a

ガラシダの魂の叫びに、内なるニンジャソウルが応えた。搾れ!と。その声は力強く拍動すると、全身を縛るジツを断ち切った!「搾る!」スクイーズは死力を振り絞り立ち上がった!最後の疾走開始!タタミを蹴ると同時、正面の黒曜石めいた甲冑のニンジャが……消えた。「「イヤーッ!」」73

2015-05-20 19:56:20
@nezumi_a

交錯!「グワーッ!」鮮血が迸り、スクイーズの左腕が宙を舞った。断ち切られた腕がくるくると回転し、タタミに落ちる。左腕から噴水めいて出血。片腕の重さを失った事と相乗し、スクイーズはバランスを崩した。だが、「イヤーッ!」一歩を強く踏み、持ちこたえた!74

2015-05-20 19:58:25
@nezumi_a

タタミ五枚の距離を焼き焦がし停止したダークニンジャが、ベッピンを振り抜いた姿勢で呟く。「キサマ、最初からそのつもりか」スクイーズは未見のヒサツ・ワザに対し、敢えて片腕を差し出すことで切り抜けた!そう、片腕があればレモンは搾れるのだ!走れ!スクイーズよ走れ!75

2015-05-20 20:00:11
@nezumi_a

「イヤーッ!」進む足は止まらない、それどころか、腕一本分軽くなった事で速度を増してすらいる!最後のタタミ十枚を駆け抜け、遂に、スクイーズはラオモト・カンの前に辿りついた。「ボス!」アースクエイクが叫ぶ。ラオモトはグンバイを掲げ、部下を制止した。76

2015-05-20 20:02:09
@nezumi_a

一般ニンジャのみならず、シックスゲイツやダークニンジャすらも動きを止めた。もはや、彼らは成り行きを見守るしかなかった。「ドーモ、スクイーズ=サン。なかなかの余興であったぞ」ラオモトはタタミ玉座に座したままアイサツをした。77

2015-05-20 20:05:19
@nezumi_a

「ドーモ、ラオモト=サン。……スクイーズです」彼はアイサツをした。目の前が暗くなり、ラオモトの顔がよく見えない。ソウカイヤの戦力に正面から挑んだ結果、片腕を失い、全身の傷から多量の出血。そして度重なるレモン生成。彼はとうに限界を超えて立っているのが不思議な状態だった。78

2015-05-20 20:08:20
@nezumi_a

「……レモン・シボリマスネ」搾る!その意思にソウルが応え、右手に金色の光が凝集していく。しかし、その光は夏の終わりのホタルめいて弱々しい。もはやカラテは尽き、レモン生成も覚束ないのだ。超自然のカラテ作用により、オーガニックレモンが生成された。79

2015-05-20 20:11:28
@nezumi_a

辛うじて生み出されたそれは一片のスライスレモン。スクイーズはそれを右手に握る。搾る!胸中に裏切りの夜の出来事が、ニンジャになってからの日々がファンタズマゴリアめいて高速再生されていく。今こそネオサイタマ暗黒経済の頂点であるこの男の皿に無慈悲にレモンを搾り、そして……!80

2015-05-20 20:14:19
@nezumi_a

「どうした、早くレモンを搾らぬか」暴君はアグラのままスクイーズを見上げ、言った。「な……」スクイーズは己の耳を疑った。ラオモトは今、何と言った?レモンを、搾れと?そう言ったのか。思わずラオモトを見る。暴君はスクイーズを見たまま言った。81

2015-05-20 20:17:08
@nezumi_a

「二度も言わせるな、タイムイズマネー」顎で示す先、ラオモトのチャブの上には美味そうなオーガニック・カキがある。あの日と同じ、カキが。レモンを握る手が震えた。スクイーズの右腕に縄のような筋肉が浮かび上がり、「イイイヤアーッ!」渾身のカラテシャウト!SPLAAAASH!82

2015-05-20 20:20:14
@nezumi_a

レモン果汁が迸り、象牙色に輝くカキを濡らした。その光景はまるでフジサンに春を告げる雪解けの清流。それを見ていたニンジャの一人があまりの美しさに涙した。ラオモトはスクイーズの仕事を見届けると、貝殻を手に取り、レモン果汁と共に最高級オーガニック・カキをツルリと丸呑みにした!83

2015-05-20 20:24:35
@nezumi_a

「ムッハハハハハ!」ラオモトが満足げに笑い、スクイーズは呆然とその様子を見ていた。「アバ……ッ」レモンを搾り終えたスクイーズはガクリと膝をついた。満身創痍の彼は、産卵の為に川を遡ったドサンコサーモンのように力尽きようとしていた。84

2015-05-20 20:27:08
@nezumi_a

やおらラオモトは立ち上がった。その手には名刀カロウシ。「イヤーッ!」電光石火の抜き打ち!白刃の行く先はクイーズの首元!ナムサン!スクイーズには躱すだけのカラテは残っておらず、迫るカロウシをただ見ていた。刃に映った己と目が合う。ハイクは要らぬ。レモンがハイクだ。85

2015-05-20 20:30:09
@nezumi_a

しかし終わりの瞬間は訪れなかった。「……?」カロウシの刃はスクイーズの首筋にピタリと止まっていた。いにしえの刀の神秘的な切れ味が、触れただけでスクイーズの首の皮を切り、赤い筋が生まれる。ラオモトは刃を当てたままスクイーズを見下ろし、告げた。86

2015-05-20 20:33:22
@nezumi_a

「スクイーズ=サンよ、ソウカイ・シンジケートに加われ」「ボス!」ヘルカイトが抗議の声を上げたが、ラオモトの鋭い眼光がヘルカイトを射抜く。哀れなヘルカイトは白目を剥いて倒れた。ラオモトに宿るコブラ・ニンジャクランの力だ。87

2015-05-20 20:36:41
@nezumi_a

スクイーズはラオモトの言葉を反芻する。ソウカイヤに?この俺が?「……正気か、私は何人ものソウカイニンジャを殺してきたのだぞ」「レモンを搾る片手間に殺されるようなニンジャなぞ、ソウカイヤに必要ない」主君の言葉に、固唾を飲んで事の成り行きを見守っていたニンジャ達が狼狽する。88

2015-05-20 20:39:15
@nezumi_a

「ワシは強いニンジャ、使える部下を好む。貴様はワシにレモンを搾るためだけにソウカイヤに牙を剥き、ここまで辿りついた。その腕を買うと言っておる」断れば即座に首が飛ぶだろう。もとより死ぬつもりだった。しかし、ガラシダは自分を求める言葉を無視できないでいた。89

2015-05-20 20:42:45
@nezumi_a

「私は……、レモンを搾るしか芸のないニンジャだ……」「つまり気配りができるという事よ」首元から刃が退いた。「スクイーズ=サン、オヌシはソウカイヤの宴会部長となるのだ!」「ソウカイヤの、宴会部長……!?」ラオモトの宣言に、ガラシダの総身が震えた。90

2015-05-20 20:45:08
@nezumi_a

己を認めなかった社会への怒り、会社の裏切りに対する復讐心、その先にある虚無感、そして……このイクサで死ぬ覚悟。その全てがラオモトの言葉で行き場を失った。「ブッダ・クレイジー……」自分の中で何かが崩れていくのを感じる。91

2015-05-20 20:48:16