「アバーッ!」呆けたようにラオモトの顔を見ていたガラシダが、突如、血を吐いて倒れた。内奥に宿るニンジャソウルが、悶えるように脈打っているのを感じる。「オゴーッ!」ラオモト・カンに宿る七つのニンジャソウルに気圧されたのか?否、そうではない。92
2015-05-20 20:51:11ガラシダに憑依したカジツ・ニンジャは、ガラシダの無念とレモンを搾る行為を結びつけ、復讐心や怒り、憎しみといった負の感情を吸い上げてきた。しかし今、ガラシダがレモンを搾ることを認められた為に魂の呪縛が断ち切られ、ニンジャソウルは根を切られた霊樹の如くわななき、悶えていた。93
2015-05-20 20:54:07(カジツ・ニンジャ=サン)薄れる意識の中、ガラシダは自分の半身ともいえる存在に呼びかける。あの日、会社の裏切りによってイケニエめいて死ぬはずだった自分の元に、このオバケめいた存在が現れ、そして命を繋ぎとめた。生きるチャンスを貰った。94
2015-05-20 20:57:17カラテを奮い、レモンを搾る。心臓が激しく拍動する。己がここに居るという確かな感触。血の味や匂い、痛みやイクサの恐怖、高揚、原始的な暴力の喜び。そこには、確かに生の充実があった。(どれもタテマエで塗り固められたサラリマン時代に味わった事のなかった感覚だった)95
2015-05-20 21:00:14レモンを搾るニンジャ、スクイーズとなったガラシダは復讐に燃えていたが、頭の中の醒めた部分ではとうに気付いていた。このヤバレカバレな戦いの果てにあるものが己の破滅でしかない事を。自分は途切れたに線路に向かい走る暴走列車なのだと。96
2015-05-20 21:03:20だが、復讐の終着駅には、自分の原初体験とも言えるレモンを受け入れる器の人物が待っていた。ラオモト・カン。数分前まで、ガラシダは自分の命などどうでもよいと考えていた。しかし、今は違う。自分が必要とされる喜びを知ってしまった今、それを無視して死を選ぶ事はできなかった。97
2015-05-20 21:06:27恨みが無いとは言えば嘘になる。しかし死ねば全てが終わりだ。ラオモトの言葉が、ガラシダに、新たな人生への欲を持たせたのだ。そしてその欲こそが、ソウカイニンジャたる第一の条件なのだ。(カジツ・ニンジャ=サン。これからも、私にはお前が必要だ)98
2015-05-20 21:09:11おお、ナムアミダブツ。何たる運命の皮肉であろう。ガラシダは、己を破滅へと追いやったソウカイ・シンジケートこそが、ニンジャとなった自分の唯一の居場所だと気付いたのだ。ブッダに見捨てられた自分が、ニンジャによって拾われたのだ。99
2015-05-20 21:12:12レモンを搾るしか芸の無い自分を受け入れてくれる器の持ち主。自分が仕えるべき新たな主の為に、ニンジャの力は必要なのだ。ガラシダがそれを自覚した時、胸の疼きは収まっていた。「ヨロシク、オネガイシマス」ガラシダは顔をあげ、言った。100
2015-05-20 21:15:09「存分に働け」ラオモトは尊大に頷くと、短く命じた。「ヨロコンデー」スクイーズは片腕で臣下の礼をとった。そしてガラシダは不意に悟った。これはトビコミだ、と。自分はアンノウ株式会社を退職し、ソウカイヤにリクルートしたのだ。101
2015-05-20 21:18:16薄れ行く意識の中、ガラシダは思った。(あのエンブレムに見合うスーツを仕立てなくてはな……、ネクタイも揃えよう) そしてガラシダは……気絶した。102
2015-05-20 21:20:09