不知火に落ち度はない　38（川内）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

垂れ幕持って立ってる人が5人。 チラシもってきてるご婦人が2人。 ふむ。 「比較的真面目そうな団体だな」 「そうね。ただご近所さんじゃないねえ」 「路駐してる？」 「してない」 「ホントに生真面目な団体なんだな」 レッカー呼ぶ理由がなくなるたあ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あのニュース、何時流れた？」 「ネットじゃ昨日とっくに出てるねえ。昼前」 「あの肌の焼けじゃあ、南からも来てねえ？」 「来てるだろねえ。照会かけとく？」 「『艦娘の未来を考える組合』ねえ。ちょい検索っと」 たかたかたかっと。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

おお、出た出た。 「ネットコミュニティ団体みたいだな、北上」 「フットワーク軽そうだね。撮影用カメラないみたいだよ」 「スマホがありゃ、アップロードできるだろ」 さて、さて。 人数は合計で10人程度だが、この手のが怖いのはネットで仲間呼ぶことだな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「一応トップ照会かけたけど、基本逮捕歴なし、チラシ配りメインだね」 「大人しい団体さんで安心したね」 どうして集まってきたんだか。 「親戚に艦娘になった子いるらしいよ」 「あー……」 そりゃ、ほんとにまともな理由だ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「相手してくるわ。画像で照会ガンガンかけといて」 「はいよー」 シーバーを持ち、煙草一本くわえておんもへ。 上手く行くといいなあ。 いやほんとね。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ご協力をお願いしまーす」 「昨日艦娘の負傷がありました。このまま運用を続ければまた──」 「チラシです。これで現状を見てください」 目の前で活動が繰り広げられ、基地にやってきてる業者の人が運悪く捕まってる。 あーあーあ。その人達仕事で来てるんだぜ？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「どもー。基地司令の兵頭です。皆さんお疲れ様です」 ぎょっと、こちらを見る顔ぶれども。 おうおう驚いておるねえ。 そりゃ裏から出て行って回り込まれちゃこんな反応するわ。 その隙に業者の人は中へと入っていく。 おっけー、フェイズ１終了。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「こんな暑い中で喉渇いたでしょ。スポドリと、缶コーヒーよかったらどうです？」 「え、いえ！？」 「まあまあ、そう言わずに」 ぽんぽんと押しつけていきます俺。 こーいうの超得意。 コツは田舎のおばちゃんムーブ。 拒否った手に無理矢理押しつけるのな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あ、あの、貴方が基地司令と言うなら──昨日の事件については」 「ああ、チラシ貰えます？」 え、という顔をしたんで、さっとその手からひったくる。 ふむふむ、なるほど。 一応調べてあるけど民間向け情報ぐらいだな。 これじゃ、あんま届かないだろ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ああ。別に録画いっすよ。寧ろ流して貰って大いに結構」 視線を向けず、スマホで取ってる奴を確認。 だってこっちも撮ってるんだしな。 いわゆる防犯用カメラに加え、定点カメラで全員の身元割り出し中だ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お宅らは、切り貼りした動画を流して恣意的にねじ曲げる手を使わない。至極真っ当な団体のようだ」 トップへと声をかけて制圧。 『カメラもってんのは、神奈川のアルバイター。リーダーは名古屋の自営業だね。スーパーやってる人』 北上さま情報ありがてえ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『でもって、要注意は垂れ幕持ってる奴の一人。いわゆるフリーライターだよ』 なるほど。ここで報道の正義がなんたるか、とか教えたい奴だ。 「貴方は基地司令としてどう思ってるのですか」 「作戦によって負傷者を出してしまったことは誠に遺憾です」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そりゃ本音。俺らは基本無傷でやんなきゃいけないからな。 「でしたら、艦娘という人を──少女を用い『兵器』と呼ぶことに疑問はないのですか？」 「疑問はあります。彼女らは生きてますから」 「でしたら艦娘を必要とするのはおかしいのでは」 うん、そうなるね。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「残念ながら、そこは必要なんです。それに傷つくのももちろん認めたくはありませんが、起こりえます。戦争ですので」 「戦争、というだけで済ませる気ですか」 「はい。遺憾ながら彼女達なしでは勝ち得んのですよ」 「それがおかしいと言ってるんです！」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「何故、年端もいかぬ少女が最前線に──」 「でしたら立ちますか？ 貴方が」 差し挟んでみる。 すると、言葉の勢いをそぐ様に。 言葉に詰まる。 そりゃそうだ、誰だってそんなもん嫌だわな。 「それは軍人のアンタの仕事じゃないか！」 横やりが入った。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そう、そのご意見はごもっとも。ですので立ってますよ」 「アンタがか？」 「ええ。必要なとき、前線へ参加しています。ええっと、そこの貴方」 「え？」 俺、という顔をするのは、北上さま情報によると熊本県から起こしの、観光案内の人。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「確か、熊本の観光会社の方ですよね。道案内をしてもらってますよ、ウチの連中が」 「え。そ、そうなのか？」 「はい。艦娘ではなく、整備班とか男むさい連中ですが」 わりとこの辺はマジである。 現地チューンしないとダメなことあるし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「カメラ持ってる君は、神奈川のコンビニの人じゃない？」 「え。は、はい。そうですけど」 「だろうね。覚えてないだろうけど、俺そこで食事買って行ったんだわ。おにぎりとウーロン茶だけど」 これは適当。注文内容は覚えてませんし、行ったかどうか不明です。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

北上さま情報は案外正確。 だいたいの職業当ては行ける。 「と、まあ。こんな具合に。彼女たちの輸送や、整備、護衛は俺らが担当してます」 「でも戦うのは艦娘だろう！」 「主として戦うのは艦娘です。彼女らはウルトラマンみたいなもんです」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

この例え、結構わかりやすいんだよなあ。 次第に反発より、話を聞く姿勢になっている。 「そして俺達は地球防衛軍。ろくに効かない武器を振り回して、ウルトラマンが来る前に怪獣の足止めと時間稼ぎをします」 「本当に、効かないのか？ 悩ましい話だ。 #不知火に落ち度はない」

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「最新式のミサイル一発当たっても、当たり所が悪いと相手は倒れません」 「それじゃあ、つまり効くんだろう？」 「ろくに効かない、と申し上げたじゃありませんか。その為に何十発のミサイルをブチ込んで、やっと一匹ぐらいなんです」 「……」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「さらに言うなら相手も反撃してきます。護衛艦一つ動かすのに必要な人数はご存じで？」 「い、一応。調べたし」 「砲弾が不味いところにあたればその人数の何割かは死にます」 息を飲む音が聞こえた。 「でもそれは」 「ええ。国防のために必要な犠牲ですね」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「その覚悟ぐらい、とっくにやってるのが軍人です。遺書だって書いてる。だが我々も木の股から生まれたわけじゃない」 ──家族は居るんです。 そう言うとすっかり黙り込んでしまわれた。 「情けない話ですがね。もう一度言うと、我々じゃまともな戦いにならない」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「もっと、他に。もっと他になにかいい兵器は」 「あったらとっくに使ってます。我々の方が戦う立場にあり、その為の知識を得て、その為に鍛錬してる」 ここ本音。 「ですが、艦娘以上に有効な手段は現状ありません」 #不知火に落ち度はない