不知火に落ち度はない　39（神通）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

艦娘では古参に入る神通が、とか。 あの事件は年齢から逆算して神通が小学校の時だぞ、とか。 酒はそこまで押し流して──は、くれなかったな、残念ながら。 旨い物は旨い。 ただ、いささか話が衝撃的すぎたのはある。 俺の招集に応じたのも、アレが原因か？ #不知火に落ち度はない

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ちなみにあの全滅後、戦線は後退し続け、沖縄・九州の海は一時的に麻痺した。 幸いながら橋は落とされなかったのと、何故かそこに対して攻撃は来なかったので、補給は何とかなったのだが。 しかし、船の交通は完全に遮断。 緊急避難せざるをえなかったエリアもあった。 #不知火に落ち度はない

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その後艦娘による大反攻作戦で、海を取り返したとはいえ。 そこに暮らしてた一部住民からは恨まれてる方が多いと思う。 また、古いライターからも、未だに揚げ足取りのネタにされるんだぜ。 あんな無謀な作戦に参加した奴らはみんなポンコツだと。 #不知火に落ち度はない

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ポンコツは否定しねえけどな。腹立つけど。 だが、そんなポンコツに恋文を渡してきた神通。 ほんと、そこがよくわからん。 赤らんだ顔で店の景観を見ながら、酒を飲んで。 ほう、と艶っぽい息を漏らし。 「夢……みたいです──」 ぽつり、彼女はそう呟いた。 #不知火に落ち度はない

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「だいぶ飲み過ぎたんじゃないか？」 「そうかも──知れませんね」 少し目を閉じて、神通は言う。 「ただ、こうなるとは……夢にも思っていませんでした」 それは何時の話だろう。 もしかすると、テレビを見た頃にさかのぼっておいでなのだろうか。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「俺も、まあ、こうなるとは夢にも思わなかったよ」 酒が悪い方に働いたか。 実際な。 こんな美人な部下とかつきますよ、とか。 可愛らしい部下が一杯できますよ、とか。 そいつらの面倒見で走り回りますよ、とか。 軍務つー、むさい職場にゃありえねえよ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

海自に入る直前の俺に教えてやったら、多分スパナ投げつけられるわ。 ンなクソ甘い夢見てんじゃねえおっさんが、とな。 海自は男の仕事だろが、とな。 つっても、お前さ。 その前にこっぴどく女にフラれてなかったっけ？ その後、美人に一目惚れするし決意弱くね？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ああ、そそ。あと、もいっこ教えてやりてえ。 腕っ節が自信だろうが、それ深海棲艦にゃ一切通じない。 その可愛くて美人な部下達に、全部任せて後方支援するハメになるってな。 ざっけんなクソが、って胸ぐらつかまれるだろなー。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「提督……」 「ん？」 提督呼びをした？ 反射的に脳のスイッチが、そっちに傾く。 「私……幸せです。貴方の部下に配属されて」 「そっか。俺もまあ、幸せだね。いい教官がついてくれて」 「その言葉……何よりの誉れです」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「恋では──なかったのかもしれませんね。私の片思い」 ぽつ、とつぶやき。 神通は再び酒を口にする。 「だって、私はこうして、貴方と肩を並べたかった」 く、と中身を飲みくだし。 「これは恋と、呼ぶのでしょうか」 ほう、と甘い酒の息を吐く。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「むつかしいね。文学作品の中の話だぜ？」 これを恋と呼ぶのでしょうか。 そう問われて理想の答えは多分こう。 『恋の形を教えてやろうか？』 あとは、顎を持って口づけでもしてやればいい。 だが、真摯な言葉に応えるには最悪じゃね？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

いや、したいっすけどね。 思うさましたいっすけどね。 恋の形から愛の手ほどきまで。 今の酔った神通は色っぽすぎて、布団で組み敷いていろいろしたくなる。 酒の上でも、双方合意の不埒はノーカンである、とも聞いた事がある。 モグリはそれやめとけと言ったが。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ただ恋慕はないにせよ、慕情ってのはある」 それに俺は、神通の感情をはいそれです、と決められるほど達観もしてない。 「それに、お前に背中を追って貰ったってのは誇りだよ」 「……そう、ですか。……ありがとう、ございます」 深く頷き、言葉を重ねる神通。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「だから、こっからどうしたい？」 「ここから──ですか？」 少しその言葉で目を見開き、考えて。 「おう。肩を並べて飲むことにゃなったけど」 「そう……ですね」 頷き、目を伏せ。 神通の憧れはここに完遂された。 あのニンジャの手管ではあったけどな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「まだ──わかりません」 神通の手元の酒はなくなった。 俺の手元にはすっかり溶けた酒があった。 く、と飲み干すと、先程とは違い溶けきった氷の中から強い吟醸香が香る。 こいつは飲むペースで味も変わるのか。 まるで──いや、そいつはやめとこう。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そっか。んじゃ、あれだ」 恋慕か、敬意か。 おそらく──俺が、団長に抱く感情に近い。 だったら、俺のかける言葉は一つである。 「今度は二人で、ここに連れてきてやる。また肩を並べて飲もうな、神通」 軽く、神通の持ったグラスに俺のグラスを合わせた。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

団長、これでいいんすかね？ 俺、アンタを見習ったわけですけどさ。 もち、神通には合わせたつもりですけど。 なんせあの人、褒め言葉一切なしに来いつって、酒飲みに連れてってさ。 「でかした。今日は好きなの飲め」 だったもんでさ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ありがとうございます。──いっそう、励みます」 互いに空になった杯を手に、笑みを交わす。 どうやら俺は正解を、引き当てることができたようであった。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして、その後は、特に言葉も無く。 貴醸酒の華鳩飲んだり、つまみ喰ったりしたわけだけどさ。 そこですっかり、すっぽり忘れてたことがあるんだわ。 それはなにか？ うん。あのニンジャのことである。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あいつ考えたら、席を外したっきり帰ってきてねえ。 流石に心配になって電話でもしようと思ったらさ。 メール、来てたんすよ。 30分ぐらい前に。 なんて書いてたと思う？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『基地で留守番してるから、あとはがんばってね ホテルはもう予約してて、服部で入れるから アドレスは別添付、歩いて5分ぐらいだから↓ 仲良し姉妹の写真送っとくねー、いえーい』 あいつ、あいつ。あいつ！ 車持って帰りやがった！！ 飲酒運転か！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

と、思ったんだが。不自然なことに気づいた。 あの酒、一気に飲んで何にも無かったとかあり得るのか？ 旨さでくらくらするってのにさ。 注文データを再度見返すと、あの時頼まれた酒は２つだけだったのである。 常連川内の仕込んだ罠だったってわけだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あいつ……」 「あの……どうしたん、ですか？」 『アホか、戻れ。 車なしにどうやって帰れつーんだよ』 『朝までは私が電話番しとくから大丈夫』 だめだ、いつも通り会話ができない。 川内の平常運転モードだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『神通と夜戦に励もう！』 『励むか！！！』 『着物の脱がし方教える？』 『お前で実演しちゃろうか』 『あはは、ぐるぐる回すやつだそれ。 ダメダメ、そういうのじゃなくてさ』 『いいから戻ってこい』 『ごゆっくりー』 だめだ、会話にならない。 #不知火に落ち度はない