不知火に落ち度はない 39(神通)

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不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お待たせしました」 「あ、ども」 「はい」 そこで、酒で止められる。 恩返し? えーと……恩って何だろうか。 不知火の面倒見とかだろうか? 神通教室の生徒の面倒見は、神通の着任前からしてたしな。 手に負えなくなって、招集かけたし。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:28:26
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「飲みませんか?」 「そうな」 口にする。 まずは酒精の味がして。 日本酒の味が広がり── 「え」 「あ」 すっげ。 すとん、と消えて無くなった。 正宗ってのも納得。 酒の切れ味が恐ろしくいいんでやんの。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:31:13
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「水みたいなキレだな」 「そうですね……」 つまみは相変わらず塩、そして……ん? 揚げた鶏皮? 随分脂っこいのもってきてんな。 「食べてみます?」 「おう」 口に運ぶと、まずはパリッとした食感。 そして、塩気と鳥の控えめな味。 チップスみてえ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:34:02
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「面白いですね、これ」 「おう。平べったくしてるのもいいな」 指でつまんで食べられる。 これ、普段から喰いたいな。 さて、くいっと一口。 「おわ」 「ええ」 酒の甘味が膨らんだ後。 すっぱりさっぱり、切れ味で洗い流された。 かあ、やっべこれ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:35:48
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「恐ろしく飲みやすいな」 「冷やしても燗酒でもいいと思います。味わいたいなら燗酒で」 「そうな。冷やすと切れ味が上がるんだろぜ」 「飲み慣れてない人も飲めそうです」 「酔わせたい相手が居るときもな」 く、と口に運んで軽口が出た。 神通は少し笑ってた。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:37:52
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「酔わせて見ますか?」 「いいかもな」 今の神通は普段の重荷を感じてない顔。 鬼軍曹殿の休み時間みたいな印象がある。 等身大の、しかしいつものテレもない神通だ。 貴重なモン見てる気がする。 「しかし、これ。こんだけ脂っこいのに合うんだろ?」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:39:50
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ええ……塩だけでもすっきりしますが」 「焼き鳥とか、味の濃い奴もいけんじゃねえか?」 「今度、作りますか?」 え。できんの? 「少しお時間頂きますけど……」 「いい、いい。喰いたい」 「わかりました。では、お時間あるときにお持ちします」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:42:42
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お仕事のないときで──お願いしていいですか?」 「非番のときな。ああ、じゃこっちで酒は用意しとく」 名前は覚えた。手に入ればこれを、ダメなら切れ味のいい奴を。 濃い食い物に合うほど、キレのいい酒はなかなかないけどな。 そうして酒を再び口へ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:46:11
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

しかし、あれだな。 神通、酒飲むと年齢がちょっと上がった気がするな。 普段伏し目がちなのが、酒で潤んだせいもあるのか。 そして着物姿なのもあるか。 大人の仕草と香りが心を踊らせてくる。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:50:22
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

着物姿なおかげでボディラインが見えないのもあり、逆にそこがそそるのかね。 あの服の下には──っていけね。 「何か?」 「なんでも」 「そうですか」 危うく思い出すとこだった。 大人の魅力たっぷりのあれそれを。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:51:55
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「次、何行く?」 「兵頭さんが気になるのを──いかがです?」 「じゃ。これ行ってみるか?」 指さす先にある酒。 管理のめんどくささがとびっきりで、あんまり置いていない酒。 「銀河鉄道?」 「おう。宮沢賢治」 ちょいとばっかり、名前がロマンチストだ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:57:01
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「宮沢賢治、読まれるんです?」 「ガキの頃に、だけどな。銀河鉄道の夜の方じゃなく、銀河鉄道999の方だと思って借りた」 間抜けな話である。 ガチガチの文学作品にそこで触れたとはな。 「いかがでした?」 「意外と即物的だった」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:09:19
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

銀河ステーションの一幕である。 『億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈しずめたというぐあい、 ダイアモンド会社で、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒まいたという風に』 宮沢賢治は腹減って金に困ってたと思ったぜ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:14:08
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「実は私もテレビ番組で知ったんです」 「え、そうなの?」 あんな手紙書いたからてっきりと、思ったが── 「娯楽がそれぐらいしかなかったもので」 「えーっと……」 神通の年齢なら、すでにネットぐらいありそうなもんだが。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:18:21
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「テレビが友達みたいな所でした。本は兵舎に入ってからだったんです」 「何見てたん?」 「NHKぐらいしか映りませんでしたから、いつもそれを」 「そりゃなかなか厳しいね」 ってことは山奥? 「でも、楽しかった時期でした。同世代の子も居ませんでしたし」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:22:05
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そっか」 離島か? ご近所さんに若者が居ないとこで暮らしてたのか? 詳しくは聞けない気がするな。 「そこで──」 神通は懐かしげに目を細め。 そして、その言葉をぽろり、漏らす。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:24:04
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「勇ましい海兵さんと、その中で宣誓するまだ年若い──兵頭さんを見ました」 え。今、俺を見た、つった? 宣誓って──それに海兵? それって俺の、海自時代の? しかもそれって、俺が海自で宣誓したのって。 「すごく、勇敢で堂々とした、壮行会でした」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:28:16
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

待て──待て。 壮行会? 俺が宣誓した? それってつまり。 あの地獄の──幕開けの。 『俺達が壊滅した作戦の決起集会宣誓』だったんじゃねのか。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:32:54
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お待たせしました」 「あ──」 「いただきましょう」 うわ、間を殺された。 今の話って、凄い大事なところだったんじゃないか? 神通の話だと、海自から俺を知ってたわけで。 じゃあ俺があの後どうなったか、知らないはずがない。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:36:18
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それでいて恋文? 三行半ならともかく。 俺はあの時の宣誓を守れなかった。 否、あそこに居た全員が、宣誓を守れなかった。 罵倒されることはあっても、惚れられる覚えねえぞ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:37:56
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

しかも神通は艦娘になってる。 その間に、ぽっかり開いた空白があって。 そこのなにがしかが、神通の身の振り方や、俺への感情を決めたのだろうが。 あの、神通。 誰かと俺を間違えてませんか? #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:40:44
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「兵頭さん──」 飲みましょう、と、神通が目で合図する。 「おう。わり、神通」 グラスの中にはシャーベット状になった、大吟醸の古酒がある。 それは銀河の星々を思わせるような輝きがある。 こいつを飲みたかったんだ、と言いたいが。 困ったな。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:46:08
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「いただきます」 「お、おう。どぞ」 神通は俺より先に、酒を堪能しだした。 ほう、と息を艶っぽく吐き。 そうしてまた一口酒を進める。 ダメだ。 神通、もしかしてすでに酔ってる? 「美味しいですよ?」 笑顔で言ってるけどさ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 01:52:39
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

今の心境でこの酒、味わえるモンなのか? ひとまず一口ちびり。 シャリシャリとした感触に、芯まで冷え切った酒の味が喉を通り過ぎる。 その後からふわりと、えも言えぬ吟醸香。 桃のような──そんな丸みを帯びた香りである。 しかも古酒独特の、角の取れた味。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 08:46:00
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

うまい。つくづくうまい。 冷や酒で、しかも古酒のためか微発泡しており、多分火入れしてないんじゃないかね。 生の味が、スーッと溶けて広がってくる。 大吟醸を凍らせて寝かすなんざ、誰が考えたのか。 魔法のような、液体である。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 08:49:22
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