不知火に落ち度はない 39(神通)

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不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

店の中はまさに「和」。 行灯風の間接照明。 テーブルではなく座敷があちこちに。 その間を屏風が塞ぐというあれで。 外人とか連れてきたらぜってえ喜ぶみたいな作りである。 「お、服部さんじゃないか。お友達?」 そう常連から声がかかった。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:13:22
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そうそう。職場の同僚」 「なるほど、変わり者だねえ」 川内:ロックファッション。 俺:アロハ 神通:着物。 そりゃ変わり者だわな!? つか服部って偽名をいけしゃあしゃあと使ってこいつは馴染んでるなあ。 「劇団かい?」 「近いねー」 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:14:40
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あれ、そっちの人見たことあるなあ…」 「はい。詮索なしなし。そゆルールでしょ?」 しーと、ポーズをとり、するすると俺らは席にご案内。 靴を脱いで座敷へ座る。 「ここの席、注文タッチパネルでいけるから」 「へえ」 「口下手な神通にぴったりでしょ?」 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:19:20
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして俺達は席に座る。 んむ。落ち着いた雰囲気はあるな。 「で、これがメニューで、あとは秘蔵品一杯ね」 なお、隣に堂々川内が座ったので、神通とは対面の形。 あれこれ注文システムなんかを俺に吹き込んでくる。 声はいつもより抑えめ。うるさいけど。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:24:34
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「じゃ、早速おすすめ頼んでおいたから」 「おい。選ばせろよ」 「いーじゃん。美味しいんだってここの」 いやそうではなく。 俺の分はソフトドリンクにしろと。 車置いて帰れってのか? だが強引な川内は届いた酒を、俺達に配る。 神通はもちろん困り顔だ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:28:17
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そんじゃかんばーい」 「かんぱーい」 「……かんぱーい」 ちん、とグラスを軽くふれあわせ。 川内はぐーっと一気にグラスの中身を飲み干し。 「あー、美味しいよねー。っと、あごめん。電話!」 急にポケットを押さえて立ち上がる。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:29:52
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

この場で電話しないっていうマナー精神はあったのか、あいつ。」 とりあえず、見送りつつ、神通に酒をどうぞと勧めてみる。 すると、向こうもどうぞ、と勧め返される。 「いや、俺が飲んだらまずかろうし」 「……いえ、ていと……兵頭さんが飲んでください」 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:31:29
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

うむ。なんかさっそく譲り合い精神が上手くかみ合ってない気がする。 じゃ、こうしよう。もう諦めた。 「運転代行使おう」 しっかり端っこに書いてあるしな。 いくらかはわからんが、これで大丈夫だろ。 「いいんですか……提督?」 「居ない間に酒楽しもうぜ」 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:33:44
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

うるさいのは今いない。 のんびり楽しめるのは今しかないと思えば、そこそこいけるはずである。 「では、頂きます」 「んじゃ俺も──」 早速一口。 ふわりとした吟醸香が口の中に広がり──て、おい。 口の中でこの酒、甘味と旨みがすげえ出るんですけど。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:36:30
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

やっべなにこれ、やっべ。 メロンみたいな透き通った甘味と、すごい鼻を抜けてく吟醸の香り。 明らかに段違い、いや格違いの味わいが喉を滑り降りてもまだ続いてる。 「……っ え…っ」 「お、おう……」 一口でこれである。 乾杯酒じゃねえぞこれ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:38:16
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あのばかちん。こんな酒を、一気飲みしたの? アホなの? 酒の味わかんねえアホなの? もったいねー! ガンジーが殴るレベルの飲み方しやがる。 「これ、大吟醸だよな。絶対」 「……はい、兵頭さん」 顔を見合わせにらめっこ。驚き顔の神通さんである。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:40:12
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「……もう一口、いってみようぜ」 「そう、ですね」 する、と再び口に入れると、再び広がる享楽の酒の味。 甘く透き通る味の向こうに、アルコールの感触がある。 喉を滑り折る瞬間、アルコール独特の香りが、甘味に混じって来る。 これ一気に飲めない。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:45:02
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「つまみ、いかね?」 「そうですね……ナッツがいいです?」 「いや。これは──」 と、思ったら、よく見ると。 手元にすでに置かれてるじゃないですか。 ドライフルーツの皿と塩の皿。 うわー、うわー。 絶対合うやつだー。 ソムリエの出すつまみだー。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:46:38
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「これ、どっちがいいと思います?」 「んー。ドライフルーツいってみようぜ」 ドライフルーツを一口。 その後、酒を一口。 うっわ、うっわ。 うっわー!? 「味、膨らみすぎ」 「は、はい……」 こくこく頷く神通。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:48:53
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あかん。 あかん。 目の前がくらくらするほど複雑な甘味の味わいだ。 しかもそっから一口酒やると、口の中でドライフルーツがよみがえる。 もう俺ここの子になって、これ飲み続けたい。 向こうを見れば神通も、頬を押さえつつ、味に翻弄されてる。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:50:50
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「なんつーか……すさまじい酒だな」 「お塩、どうです?」 「貰うわ」 収まるころに、手にさらさらと注いでもらって、舌でぺろり。 まずは塩気で甘味が断ち切られ、塩の味が包み。 くいっと一杯──うっわああ。 あかん。あかん。酒の甘味がシンプルに倍加する。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:56:45
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そこで、また塩をぺろりで今度は塩の旨みも出る。 そして酒がうまくなる。 罠だ──これ罠だ。 極上の酒を水みたいに飲んでは浸る罠過ぎる。 俺のグラスにもう酒なくなってるもん。 ドライフルーツはストッパーだったのか。 #不知火に落ち度はない

2015-05-25 23:58:56
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ふはー。酒に意識持ってかれるとこだった」 「相当お好きなんですね、兵頭さん」 「神通もだろ?」 その指摘に、少し頬を染めて、神通が頷く。 うむ。いい酒好きの態度である。 だってグラス空になってたし。 「今のはちっと上等すぎるな」 「どうします?」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:02:23
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ざっとメニューを見るが、どれがいいかは決められない。 「あの……私、決めていいです?」 「おう。なんかいいのあった?」 「この、山丹正宗を」 「聞いたことねえ酒だな。どんなの?」 指さすのを見て、驚愕。 辛口も辛口、日本酒度14って書いてる。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:06:03
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「名前も気に入りました。正宗ですって」 「神通らしいな」 「ええ……はい」 こくん、とうなずく。 辣、と書いてあるから相当自信あんだろな。 では早速注文。 酒がくるのを待つ間、気になったことを聞いてみる。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:08:00
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そいや、神通」 「……はい?」 「セブではほんと、ありがとな」 「……いえ。無事に済んで、何よりです」 目を細めていい、そしてぽつ、と。 ──なにより、思った通りの人でしたから。 おう? 思った通り? なんか思惑合ったのか? #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:10:46
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「……いえ、その」 「うん。どうぞ」 何か言い淀むのを、促してみる。 「結局全員、助けましたよね」 「ああ、あれな」 そうしないとやっぱ寝覚め悪いし。 「浜風がな。着任した頃からずっと、空見ててな」 まず、思い出すのはそれ。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:15:32
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「対空能力の高さがあるから、星見が趣味かと思ってたんだわ」 思い出す。初めての出会いである。 「だが、違った。ありゃ、同じ空の下の仲間見てたんだな」 「そう……だったんですか」 「だから、ほっとけねえってのは、あった」 もち、そんだけじゃないが。 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:18:42
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あとは事情が事情でな。明らかに色々まずかったからな」 「はい。アウターヘブンの方がいらっしゃってましたものね」 最後の最後で出会ったのを見て、全ての絵図を察したのだろう。 「申し訳ありません、察することができず──出しゃばった真似を」 「いんや」 #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:23:24
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「いてくんなきゃ、多分詰んでたよ」 セブについてからのことを全て思い出す。 不知火の行動。 神通の行動。 浜風と俺だけで行ってたら、今頃どうなってたやら。 「だから、重ねて。ありがとな」 「いえ──ご恩返しですから」 え? #不知火に落ち度はない

2015-05-26 00:25:10
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