琥珀お蔵出しエピソード

よろしくお頼み申し上げます!
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浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

14.そう俯き加減で淡々と語る少年の目は昏く、どこか別の場所を見ているようで――ふと、空気がピリリとはじけました。 「――餓鬼が 命を語るな」 顔を上げる少年。見ると、青年は相変わらず下を向いていましたが、その髪に隠れた瞳はしかとこちらを見つめていました。#lovfan

2015-05-28 00:35:26
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

15「家の為…役目の為… 命は そんなものの為にあるんじゃない」 少年はキョトンとしていましたが、すぐに愛らしい笑顔を浮かべました。 「やっと 口をきいてくれましたね」 その後、少年は熱心に語り続けましたが、結局その日は、それ以上青年が口を開く事はありませんでした。#lovfan

2015-05-28 00:36:10
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

16.日が暮れ、迎えの牢番が来ると、少年は格子越しに食事を差し出しました。 「あなたは…優しい方なのですね 今日はこれにて下がります できればお食事をお取りください お体に障りますから」 そう言って去る少年の背中は、なんだか少しだけはずんで見えました。#lovfan

2015-05-28 00:36:42
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

17.翌日、食事がひと齧りだけ減っていました。それを見た少年は喜び、更に様々なことを青年に語りました。厳しい父のこと、優しい母のこと、自分の好きなとっておきの風景のこと――青年が時折、微かに見せる小さな反応を楽しみつつ、自分の思い出を確かめ、噛みしめるかのように――#lovfan

2015-05-28 00:37:19
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

18少年が話し青年が聞く、そこに会話はありませんでしたが、不思議とそれが自然な事である様な、そんな時間が過ぎていきました。そんな二人のやり取りは、翌日も、その次の日も続きましたが、最後には決まって夢から覚めた様に少年の目に昏い影が落ち、俯いて岩牢を後にするのでした。#lovfan

2015-05-28 00:37:59
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

19.六日目、少年はいつものように語り続けていましたが、その熱を持った言葉の裏には、焦りのようなものが見え隠れしていました。 突然、そんな少年の言葉を、青年が制します。 「…もういい お前の言葉は全てまやかしだ――言え お前はどうしたい」#lovfan

2015-05-28 00:39:18
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

20.虚をつかれた少年は、目を見開き、下をむいて黙しました。 そのまま、どれ程経ったか――長い沈黙の後、少年は拳を強く握りしめて言いました。 「あなたの――お命を頂きたい」#lovfan

2015-05-28 00:40:05
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

21「…申し訳ございません 私は父より あなたから情報を引出した後 私の手で…切り捨てるよう命を受けております」 黙して少年を見つめる青年。 「私の家は刑部と共に 国敵を闇に葬る暗部でもあるのです これは私への罰であり 私に人を殺められるのかを試す 最後の試験…」#lovfan

2015-05-28 00:41:01
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

22.鋭く刺さる青年の視線。震える少年の拳。 「先月――母が自害いたしました」 少年の封じられていない方の瞳におちる昏い影――。 「きっと いつまでたっても お家の役に立つことのできない私に絶望されたのでしょうね… そして あなたが現れた」#lovfan

2015-05-28 00:41:51
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

23「母の事で 落胆と共に お怒りになられていた父上は 私にこれ以上生きる価値があるか 試すことを思いつかれたのです――期限は七日…その間にあなたの命を奪えなければ――私の命が絶たれることとなっております」#lovfan

2015-05-28 00:42:51
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

24「月如は主家を護る為にあり――人を殺める覚悟を持たぬ者に…使命を果たせぬ者に この家で生きる価値はありません 父は厳しい方です…このお役目を終えても私がお許し頂けるかはわかりませんが 母の無念を晴らすためにも 私はこのお役目を全うしたいと思っておりました…」#lovfan

2015-05-28 00:43:33
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

25.少年はにっこりと笑いました。 「しかし 困りました やはり私はあなたの命を奪いたくないのです あなたは…きっと優しい方です 私のようなでくのぼうが生きるため あなたが命を落とす そんなことが――」 「――くだらんな」 青年の冷たい瞳が少年を刺し貫きました。#lovfan

2015-05-28 00:44:30
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

26.「前にも言った 家の為 役目の為――そんなものは本当の“使命”ではない」 「しかし…」 「…昔 お前のように家に命を捧げた者がいた だが その命が散っても何も残りはしなかった――格好などどうでもいい 何の為でもない 自分の命の使い道は自分で決めろ」#lovfnan

2015-05-28 00:45:34
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

27「――もう一度聞く お前はどうしたい」 目を見開き地面を見つめる少年。少年を射る青年の瞳。少年は両の拳を地面に叩きつけ、顔をくしゃくしゃに歪ませて叫びました 「私は――私は 生きたいです…! でくのぼうのまま 終わりたくない…!!」 岩牢に響き渡る少年の嗚咽…#lovfnan

2015-05-28 00:46:30
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

28.その日の刻限、牢番に連れられて去る少年に、青年が告げました。 「明日の刻限 それまでに心を決めろ …俺も このまま死ぬつもりはないがな」 そう話す青年の眼は穏やかでした。そして、振り向いた少年は、赤く腫らした目を真っ直ぐ青年に向け、コクリとうなずきました。#lovfnan

2015-05-28 00:47:46
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

29.闇に灯る狐火。 ――ホホホ、いよいよじゃな。どうじゃ?心は決まったか? 「あぁ… 一撃を穿つ力は残してある」#lovfnan

2015-05-28 00:49:44
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

30.最後の日、少年と青年は一言も口をきかぬまま過ごしました。 そして刻限近く、青年が口を開きます 「…決めたのか」 「はい」 青年を真っ直ぐ見つめる少年。#lovfnan

2015-05-28 00:50:55
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

31「私は 生きることにしました」 そう言って、牢番を呼びつけた少年は、牢を開け――青年の枷に、手をかけました。 「しかし あなたにも生きていただくことにしました 私は未熟者故 これが正しいことなのかは分かりませんが あなたの言葉を聞いて思ったのです…」#lovfnan

2015-05-28 00:51:59
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

32「どうせ命を懸けるなら 父上にあなたの酌量を掛け合ってみようと――最後に お名前をお聞かせ下さいませんか?」 「…俺の名は 死ぬ者と 主となる者にしか教えられん」 そうですか――そう言って、少年は少し寂しそうに笑いました。 「牢番 枷の鍵を」#lovfnan

2015-05-28 00:52:43
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

33.少年の呼びかけに応え格子を潜る牢番。しかし、その手に握られていたものは鍵でなく、薄ら光る白刃―― 「若様…残念でございます それはお館様がお望みの道ではございません 全ては月如の為 お恨みなさいますな」 少年に振り下ろされる斬刃。鈍い残響。飛び散る赤沫。#lovfnan

2015-05-28 00:54:33
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

34「やっとか――いい加減 その小汚い殺気には嫌気が差していたところだ」 刃を受けたのは青年の枷――しかしその凶刃は、枷を砕き、袈裟切りに青年の胴を切り裂いていました。絶句する少年。 「心配するな 呪いで動かん体だが 一撃を穿つ力は残しておいた」#lovfnan

2015-05-28 00:55:23
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

35言葉と共に巻き起こる一陣の風。一体何が…理解する事もなく静かに落ちる牢番の首。ドゥッと倒れこむ青年――その手には、いつの間に奪い取ったのか、牢番の刀。青年に駆け寄る少年「なぜ…!?」 「前に話した者…お前はあいつを思い出させる あの日 初めてお前を見た時も―」#lovfnan

2015-05-28 00:56:02
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

36「お前は自分の意志で生きたいと言った だから 俺はお前を助けた あいつは…助けてやれなかったからな…」冷たくなっていく青年 「…お前は“本物の使命”を選んだ 俺は…そう思う」 岩牢の異変を察し集まる武士達。しかし少年は目もくれず、涙を浮かべ青年に語りかけます。#lovfnan

2015-05-28 00:57:08
浅尾祥正@主にLoVなアカ @10sbear

37「私に…命の使い方を説いたあなたが ここで死ぬというのですか…?」 青年の口元が、微かに笑ったように見えました。 「…言ったはずだ 死ぬつもりはない…俺には果たさなければならない事がある だから 俺の命を…ここで使うことにした――少し遠い 耳をかせ…」#lovfnan

2015-05-28 00:57:55