鋼鉄の咆哮×艦隊これくしょんSS「超兵器の金剛5」

大艦巨砲主義
0
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

艦隊が島を半周ほどしたとき、最後尾で目視索敵をしていた叢雲が、水平線の彼方に何かを見つけた。 それが何かを確認しようと目を細めたとき、その影のあるところがいくつかの光を発した。 頭が理解する前に、口が動いていた。 「ほ、砲撃ッ! 散開してぇっ!」(25) #超兵器の金剛5

2015-06-03 01:41:23
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

彼女たちの反応は早かった。 その判断が自分の命を救ったのだと、数秒後に理解することになる。 着弾。 海面が爆ぜ、水の柱が高々と上る。 その大きさ、高さがその威力を物語っていた。 「敵艦見ゆ!」 彩雲と視覚を共有した隼鷹は、その姿を見るや叫んだ。(26) #超兵器の金剛5

2015-06-03 01:47:20
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「なんだよあのデカブツ……! 大和の比じゃない!」 「ま、まさか超兵器……!?」 「それだけわかれば十分よ! 撤退します!」 扶桑が主砲を旋回させる。 「せめて目くらましにでもなれば!」 35.6センチ砲の一斉射。 水平線の向こうへはもちろん届かない。(27) #超兵器の金剛5

2015-06-03 01:55:55
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「くっ、せめてみんなが安全な所へ行くまで……!」 「敵艦発砲!」 妙高の叫ぶのと扶桑が気づくのは同時だった。 扶桑は全速で後進をかけつつ、主砲を射撃を続ける。 だが、明らかにそこは相手の射程範囲内だった。 「扶桑ー!」(28 #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:00:50
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

砲弾の嵐が、扶桑を襲った。 服を裂き、艤装を砕き、一瞬にして大破相当の被害を与えた。 彼女の意識はすでに吹き飛んでおり、気を失ったまま海面へと叩きつけられる。 「妙高! 扶桑を!」 「わかってるわよ!」 「くそったれぇ!」 隼鷹が彗星を発艦させた。(29) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:05:12
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

その隙に重巡の二人が扶桑を担いで、全速で退避していく。 「頼むぜぇ。全力でたたいてやりなよっ!」 彗星は編隊を組み、敵艦へと向かった。 20機を超える大編隊による爆撃ならば、超兵器と言えど足止め程度はできるだろう。 だが、それは甘い考えだった。(30) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:11:14
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

空に、花が咲く。 いや、それは花ではない。 散弾だ。散弾が彗星隊の真上で炸裂し、全機を吹き飛ばしたのだ。 煙を吐いて、炎を吹いて、彗星は落ちていく。 そしてそれだは、ただの紙になった。 隼鷹はその散弾を知っていた。 だから、驚かずにはいられなかった。(31) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:13:34
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

<横須賀鎮守府> 「姉さま!」 扶桑が大破したとの知らせを受け、山城は寮を飛び出した。 彼女が港に着いたときにはすでに扶桑はドックに運ばれており、隼鷹他第二艦隊の面々が蒼い顔をして立っているだけだった。 「ねえ、何があったの!? 隼鷹!」(32) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:16:01
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

肩を掴んで問い詰めようとした山城は、隼鷹の体が震えているのに気付く。 隼鷹はその場に座り込んだ。 「化け物だ……あんなヤツ、勝てっこない……」 「どんなヤツだったノ?」 後ろからの声に振り替えると、山城の背後に金剛がいた。 隼鷹は蒼い顔のまま答える。(33) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:18:35
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「あ、あたしが見たのは、デッケェ戦艦だった……。大和よりも、数倍でかい……化け物みたいな戦艦だったッッ!」 「そうカ。ありがト……」 そういって、金剛は踵を返す。 「待ちなさいよ……」 その腕を山城が掴んだ。 「どこ行くつもりよ!」(34) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:23:53
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「超兵器を倒しに行くダケよ」 「超兵器、超兵器! もうたくさんよ! アンタが来てからこんなことばっかりだわ!」 激昂する山城の口は機関砲のように言葉を吐く。 「鎮守府の皆も、扶桑姉さまも…アンタにせいでこんな目に合ってるのよ! 全部アンタのせいだわ!」(35) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:27:26
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「超兵器とやらと戦いたいなら、アンタだけで行きなさいよ! みんなを巻き込まないで、私たちを巻き込まないで!」 「お、おい山城……」 止めようとする隼鷹の手を払いのけて、山城は続ける。 「アンタもあいつらと同じよ! 同じ超兵器よ!」(36) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:30:44
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

金剛の目が大きく見開かれ、そして顔をうつむかせる。 「……ごめん、なさい」 小さくつぶやいて、彼女は走り去ってしまった。 まだ上気したままの赤い顔で、山城はその後ろ姿が見えなくなるまでにらみ続けていた。(37) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:32:54
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

山城はそのあと、入渠を終えた扶桑に付き添って医務室にいた。 すでに夜も更けて消灯時間も近く、月あかりが窓から差し込んでいる。 「山城……私はもう大丈夫だから、部屋に戻りなさい」 「姉さま……でも私は心配なんです」 そう言って、山城は扶桑の手を握り続けた。(38) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:38:42
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

そこへ、どたどたと床を踏みしめて近づく足音。 扶桑がそちらに視線を向けると、戦艦長門が鬼のような形相で立っていた。 「な、長門さん? どうし……」 扶桑が尋ねる前に、長門は山城の胸ぐらをつかんで強引に立たせていた。 苦しさに山城の顔がゆがむ。(39) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:40:16
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「ちょ、いきなりなんなの……」 「何を言った」 「は、はあ?」 「金剛に何を言ったのかと、聞いている!!」 そのまま首を締め上げそうな勢いで長門は腕に力を込めていた。 「貴様、昼間に金剛を港で怒鳴りつけたらしいな」 「だからなんだって……」(40

2015-06-03 02:44:03
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

言い終わる前に山城は壁に叩きつけられていた。 扶桑は長門を止めようとしたが、睨みつけられて上半身を起こすにとどまった。 「いないんだよ。金剛がどこにもいないんだ! あいつの艤装もな!」 見上げるような視線で長門が睨みつける。(41) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:48:44
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「貴様にこの意味がわかるか? 金剛は一人で出撃したんだ! 超兵器と戦うためにな!」 キッと長門を睨み返して、山城が腕を振りほどく。 「だから何よ! 一人で行かせればいいのよあんなヤツ! 超兵器の仲間みたいなものでしょ? 一緒に沈んでしまえばいいんだわ!」(42) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:51:20
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「そう言ったんだな、金剛に。あいつに向かってそう言ったんだな!」 「言ったわよ? 悪い!? ほかの艦娘だって同じように思ってるヤツは大勢いるわ! あんたも何よ、最初はあいつのこと嫌ってたくせに!」 「そうさ、最初はな! でも今は違う!」(43) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:53:44
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「どうしてそんなに庇うの? 長門だってあいつのせいで轟沈するところだったじゃない!」 「馬鹿を言うなっ!」 長門は再び山城に掴みかかる。 「私が大破したのは私自身の失態だ! 誰のせいでもない、私自身のな!」 「ほかのみんなもそうだっていうの!?」(44) #超兵器の金剛5

2015-06-03 02:58:24
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「貴様は、戦闘で負傷したその結果を誰かのせいにするような根性なしだったのか!? 答えろ、戦艦山城!」 「うっ……っ!」 初めて、山城が言葉に詰まった。 「見損なったぞ、山城……」 長門は山城を突き飛ばし、それまでの激昂が嘘のように、静かに病室を出ていった。(45 #超兵器の金剛5

2015-06-03 03:03:26
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

山城の頭の中に、長門の言葉がいつまでも残る。 自分は悪くない。 そう言い聞かせているのに、罪悪感で胸が千切れそうだ。 見れば、着物にうっすらと血がついている。 長門がどれだけの力で掴みかかっていたのか、容易に想像できた。 『金剛は一人で出撃したんだ!』(46) #超兵器の金剛5

2015-06-03 03:09:16
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

港で見た後姿が、脳裏に浮かぶ。 金剛が見せた悲しそうな、そして痛みすら感じているような顔。 肩を落として去っていくその時に、彼女は何を思っていたのか。 「ねえ、山城?」 扶桑が、優しく語りかける。 「私は、大丈夫だから」 微笑んでいた。 (47) #超兵器の金剛5

2015-06-03 03:13:10
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「姉さま、私……行かなくちゃ」 「ええ……気を付けてね」 山城は大きく頷くと、病室から走り去って行った。 扶桑は、ベッドに体を横たえて、自分を照らす月を、じっと見つめていた。(48) #超兵器の金剛5

2015-06-03 03:15:44
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

<南西諸島海域、沖ノ島> 「……来たか」 播磨は待っていた。 巨大な艤装の上に立ち、刀を抜いて待っていた。 彼女が見下ろす視線の先には、一人の艦娘の姿がある。 金剛だった。 「仲間はどうした?」 金剛は少し笑って、 「私だけで十分ネ」 毅然と言い放った。(49) #超兵器の金剛5

2015-06-03 14:07:57