よそさまの審神者さんとか近侍とかで140文字書いてみるよ

140文字で余所様の近侍とか審神者のなんかふんわりしたものを書くよ まとめのタイトルがあまりにひどかったから変えたよ
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夜狐 @minori_1201

雨の中で濡れている女に、一期一振は風邪を召しますよ、と嗜める声をかけた。 「だって、いち」 彼女は笑う。 「春の雨だわ」 伸ばされた手を取る。刃ではなく肌に触れる雨は、確かに、柔らかく暖かい。彼女の様だ、という言葉は、胸中にそっと仕舞った。 @calmwind_dream

2015-05-28 21:15:42
夜狐 @minori_1201

例えば家に帰る道の、夕暮れの匂いだと言っても誰も分かりはしないだろう。鍋にチョコを一欠け入れながら彼女は思う。 「ただい…あ、カレー!」「かれーですね!」 でも、はしゃぐ彼らの声を聞けば。 (…あの子達にとっても、いつか懐かしい匂いになるんだろうか) @kore_ya_kono

2015-05-28 21:35:23
夜狐 @minori_1201

性分か、尽くされるよりも、尽くす方が彼女は性に合うのかもしれなかった。 「相変わらず『主』と呼ばれるのには不慣れなんだねぇ、主は」 金と赤の一対。主と呼びつつ、視線はどこか不遜だ。慣らすにはどれくらいかかるだろう、と。算段をしているようでもあった。 @akai_snow

2015-05-28 22:18:56
夜狐 @minori_1201

「主。落ち着き給えよ。全く」 典雅さに欠けるねぇと近侍は言う。落ち着いている積りだと答えようとした手が滑り、書類の保存に失敗したことを知らせるエラー音が響いた。 「出陣した部隊がそんなに心配かい」 否定が出来ず顔を覆った。 別れは、いつか来るのだとしても。 @168_sksk

2015-05-28 22:37:06
夜狐 @minori_1201

手を太陽に翳すと血の色が透けて見える。彼の掌も同じだと言うのがどこか不思議で、彼にも同じように手を翳すように強請ったことがある。 「面白いか、これ?」 「うん、不思議じゃない?」 別に? と返る答えが予想通りで、笑ってしまった。 @tkrb_rikumoon

2015-05-29 00:26:58
夜狐 @minori_1201

「…あなた、は」 触れる指先の上から落ちる言葉はしんしんと積もり行く。細い白い指の先に居るのは冬に備えて羽毛を膨らませた雀が一羽。人慣れているのか或いは、彼女の気配を人と判じていないのか。指先に微かに触れたそれは確かに暖かい。 「…触れても。良いのね」 @yuukage_nl

2015-05-29 00:36:55
夜狐 @minori_1201

記憶は既に遠い。幼い日、誰が彼女の耳を塞いだのであったか。あのお囃子に耳を澄ましてはならないと。 「…聞いちゃ駄目ですよ。向う側に連れて行かれます」 ただ、今は隣の人にそう警告できるのが、有難かった。曖昧な記憶の向うに、彼女はそっと、礼を告げた。 @yuukage_nl

2015-05-29 00:49:58
夜狐 @minori_1201

透かした水晶には針状の金色が混ざっている。贈り主は良い趣味だなぁ、と隣の刀がわざとらしく言うのは無視した。ただ、どういう意味、とだけ反駁すれば、彼は口元を押さえて笑って応じる。 「それはな、主。針水晶と言うのだよ。…主に似ていよう?」 @Leo_7D_u

2015-05-30 01:02:39

彼岸と此岸と渡り鳥

夜狐 @minori_1201

低い位置を鋭く切り裂く様に飛ぶ姿は美しい。軒下の小さな泥の塊は何れ巣になるだろう。短刀達が楽しげに見上げていたことも知っていたが、彼女はそれを慎重に撤去し、燕の捕獲を命じた。 「いいのか?」 問いに、苦笑する。 「だってここからじゃ、何処にも行けないだろう?」 @upasru

2015-05-31 19:57:29
夜狐 @minori_1201

心地よい夕暮れだった。遠く、鴉が何処こかへと飛び去って、黄昏の赤に溶けていく。一際強く吹いた風に、洗濯物を畳んでいた人が苦笑した。夜には雨が降るのかな。確かに風は微かな雨の匂いがする。それを深く吸い込むと自然、笑みが漏れた。 「――嗚呼。いい匂い」 @tkrb_crescent

2015-05-31 20:11:29
夜狐 @minori_1201

抱えた布団を畳の上に投げ込んで倒れ込むと胸いっぱいに、おひさまの匂いがする。 布団を引っ張る彼女を見かねて手伝ってくれた彼が、何してんだ、と笑いながら隣に座る。おひさまのにおい。呟くと、彼は目を瞬かせ、これがそうなのか、と感慨深げに、夕陽の方を仰いだ。 @6ca_10ken

2015-06-02 23:34:13
夜狐 @minori_1201

早朝、顔を洗ったらまずは鏡を覗く。取り出すファンデーションにチークは最小限、マスカラも控えめ、リップも自然に。鏡の中の女の子は今日も、ちゃんと、可愛い。口角をあげて笑顔もばっちり。 「よし、出陣!」 本日も女の子の武器は全てカンペキ。誰にも文句は言わせない。 @kai_tle

2015-06-02 23:41:08
夜狐 @minori_1201

揺れる紫煙を吐きだす。フィルターにリップが色移りをしていた。開いた窓の外には白い毛並の後姿。香りで察したか、後姿の侭で味が悪くなります、と面白くなさそうに一言。 「私の?」「ええ、ぬしさまの」 ならこの一本に留めようかと思ってしまうのは、狐の術中か。 @aoinozomi_37

2015-06-04 22:11:55
夜狐 @minori_1201

白銀の髪は硝子めいても見え、膚の透明さも相まって壊れやすい細工物の様。伸ばした手を思わず引いてしまう。 「どうしたの」 「いや」 彼は空を見遣った。細い月は中天で雲を被って朧だ。 「…主の髪色は雲と同じだな」 笑って言えば、不思議そうに赤い瞳が瞬いた。 @k_touken321

2015-06-05 00:07:18
夜狐 @minori_1201

息を切らせて走る。風を切る速度も、短い髪の毛が首筋を撫ぜる感触さえ心地よい。 足を止め見上げた先、空は縞模様に朝を迎え、夜の名残の星を湛える空は淡い水色だった。 荒い息を整え、汗を拭って身支度を急ぐ。 彼はもう、目覚めているだろうか。 @xmikinox

2015-06-05 00:53:12
夜狐 @minori_1201

黒髪を骨ばった指が梳る感触に目を覚ましている。瞼は開かなかった。剥き出しの肩に触れる空気は朝の冴えたそれで、瞼の裏の闇は白んで明るい。もう朝だ。黒髪をシーツへ零しながら、耳元で、ゆき、と呼ぶ声。 ああ、幸福だ。 強く閉じた瞼の裏で不思議と涙が滲んだ。 @elef_lethe

2015-06-07 00:24:29
夜狐 @minori_1201

真新しい畳の青い匂いが掠めて目を覚ます。思わず頬に手を当てれば案の定。誰かに見られてはいないかと手を頬に当てたままで辺りを窺えば、横には見慣れた臙脂の着物と長い黒髪。俯せて眠っている。 「…跡がつきますよ」 「あんたもな」 ――目があった。 @yukikagenohana

2015-05-31 21:47:02
夜狐 @minori_1201

身体を覆う柔らかな疲労は、いつぞやの一件を思い出させた。知らず唇に指を触れさせ嘆息する。あの狐め。思った以上にこちらを化かすのが上手いと見える。化かされてばかりも面白くはないが、さて。 身体を解すように伸ばす。狐はどこへ行っただろうか。 @cattoulove

2015-06-07 00:49:28
夜狐 @minori_1201

主の名と同じ柔い雨の中で花は甘く薫る。濡れる、という煩わしさを厭うべきなのかは分からない。けれど今、庭の端では彼の主が紺青の傘を手に彼を待っている。濡れるよ、と傘を差しだされ、主が濡れますよ、とその手を押し留めた。彼女は傘の下、苦笑したようだった。 @humizuki_yume

2015-06-07 02:26:08
夜狐 @minori_1201

人肌で温い布団の中が安心できる小さな世界だった。液晶の薄明かりがあれば言うことは無い。モニタ表示の時刻は深夜。朝食の時間に起きなければ口煩い説教は必至だが、目を閉じるには物憂く、枕に顔を伏せても眠りは遠い。 人肌に温い布団の中だけは、安堵できる世界だった。 @mtrr_ym

2015-06-07 22:56:13
夜狐 @minori_1201

小さなプラスチックのフィールドが案外に広いと言うことを彼は知るまい。緑のシリコンカップを並べ、端っこの隙間はトマトで埋めれば鮮やかだ。最後に少し思案し、悪戯心も働いて、ご飯の上に桜色を散らす。ハート型。 遠征から戻った彼は、何とコメントしてくれるだろう。 @sagarayume

2015-06-09 00:48:14

ここまで

夜狐 @minori_1201

永い。長い。賑やかな祭りの喧騒も、長閑な境内に降り注ぐ日差しの色も、頭上を過ぎ往くばかりのものだった。ただ一点、真っ直ぐに彼を見て、見るなり満面の笑みで駆け寄ってくる彼女と逢うまでの話ではある。 日差しも祭りの喧騒も、彼女がそこに在るだけで意味を帯びる。 @stone5972

2015-06-10 23:03:56
夜狐 @minori_1201

目端に緩い影が映る。今日は新月だ。星明りに淡く障子を揺れる影は誰のものだろう。近侍のそれだろうか。重たく纏わりつく眠気の中でただただ影を目で追う。 淡い稜線の向うで、障子の向うで、何が起きているのか、知っているような、そんな気がしたけれど、強く目を閉じた。 @wanisa823

2015-06-10 23:30:40