HS式無熱高周波療法の裁判:最高裁差し戻しまで。

医療系国家資格を持たず、HS式無熱高周波療法を業としていた者があん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法第12条違反(医業類似行為の禁止)に問われた裁判。 最高裁はこの事件で医業類似行為の禁止処罰を「人の健康に害を及ぼす虞のある行為」に限局する旨を判示。 そのため整体師やカイロプラクターなど、医療系国家資格を持たない者が業務を行う上で、自らの合法性の根拠とする判例である。 続きを読む
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まとめ なぜ整体やカイロ、無免許マッサージは放置されているか。 国家資格を持たない施術者による独自マッサージにより乳児が2人死亡。 なぜこのような業者が野放しになっているのか、また一般の方ができる自衛策などをつらつらと。 タグの編集は禁止しておりますのでいいタグがあれば@願います。 2014/09/10 モトケンさんとのやりとりを追加 新潟の事件は新潟地検が不起訴処分にしたことが報道される。 2015/3/4追加 大阪府警は4日、施術を行った新潟県上越市のNPO法人理事長・姫川尚美容疑者(57)を業務上過失致死容疑で逮捕した。 2015/06/08 新潟での死亡事件に関し、3月5日、新潟地方検察審査会は「起訴相当」の議決を行った。 2015/06/09 大阪地裁での2回めの公判で起訴内容を認める。 2015/08/04 大阪地裁で有罪判決 禁錮1年執行猶予.. 192995 pv 2004 349 users 2899

この裁判は上記のまとめで述べているように、ズンズン運動のような無免許マッサージ、整体やカイロといった無免許施術などが実際の被害が出るまで放置される原因を作った裁判です。

一般の方であれば

  • 鍼灸マッサージ師や柔道整復師といった国家資格があること
  • 整体師やカイロプラクターというのは誰でも名乗れ、施術の安全性に問題があること。
  • 手技療法による健康被害が多数あり、国民生活センターが報告していること。
  • 国家資格(免許)の有無の見分け方
  • 無免許施術は受けない。

といった事柄をご理解いただければ問題ありません。

このまとめの対象読者としては

  • 整体師やカイロプラクター、○○セラピストなど、無免許施術を行っている方々
  • この業界に入ろうと検討している方々
  • 無免許施術を違法と言い切ってしまってよいか、迷われている方(特に社会の改善を目指される方)。

が対象となります。


びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

HS式無熱高周波療法の裁判の流れ。 このうち裁判所のサイトに判決文があるのは最高裁の判決のみで、事実関係を審議している仙台高裁の判決文が無い。 最後の最高裁の棄却決定文を読んでもどういう判断で有罪にしたかがわからない。 pic.twitter.com/WLxYmdUkWK

2015-06-16 00:00:58
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びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

しかし例の医業類似行為の判例で、仙台高裁の原判決や差し戻し審の判決が裁判所のサイトで載ってなかったので地元の県立図書館に判例の掲載誌を求めて行ってみたら、図書館で判例データベースの契約をしてるではないか。

2015-06-15 20:00:01
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

そんなわけで週末は図書館で判例検索をしてたわけです。さすがに図書館の端末でUSBメモリとか使えないから印刷してくるしかないわけだが。

2015-06-15 20:01:24
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

商用の判例データベースだと関連する判例も提示してくれるので、裁判所のサイトに乗っている判例でも初めて気づく場合もある。

2015-06-15 20:26:36
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

では平簡裁の判決文から。 なお平簡裁は今のいわき簡裁である。 ネット上で「福岡県平簡裁」という表記を見かけるが、福島県の間違いである。

2015-06-16 00:11:05

平簡易裁判所
昭和28年4月16日

主文
被告人を罰金1000円に処する
被告人に対し、本裁判確定の日から3年間右刑の執行を猶予する
右の罰金を完納することが出来ないときは金200円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する
訴訟費用は被告人の負担とする

理由

(事実)
 被告人は法定の除外事由がないのに拘らず昭和26年9月1日から同月4日迄の間前後四回に亘り肩書住居等に於てA外2名に対しH・S式無熱高周波療法と称する療法を1回100円の料金を徴して施し以て医業類似行為を業としたものである。

(証拠)(省略)

 弁護人はH・S式無熱高周波療法を業とすることは憲法第22条に保障されている自由な職業であり且この療法は全然無害で何等公共の福祉に反しない、従って被告人の行為は処罰の対象とならない旨主張する、
あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法第12条によれば同法第1条に掲げるものを除いては何人も医業類似行為を業とすることを禁じ同法第14条第2項は同法第12条の規定に違反した者に対する処罰を規定している、
ただ同法第19条所定の者については一定期間に限り一定の医業類似行為をすることができることを認めている、
これ等の規定の趣旨とするところは医業類似行為が人体に及ぼす影響並びに効果に照して一定の学識経験を有する者に対してのみかかる行為を業とすることを認めそれ以外の者については之を禁ずることを以て公衆の保健衛生の向上に合致する所以であるとなした事は明らかであって、斯る制限を設けることは公共の福祉を維持する為必要であると謂わなければならない。

 従って前記の諸規定は憲法第22条の職業選択の自由に対する制限であるが何等同条に違反するものとは謂い得ない、而してH・S式無熱高周波療法が医業類似行為に該当することは前認定の通りであるのでかかる療法を業とすることの制限を以って憲法第22条に違反するとなす主張は採用し得ない。

 なお弁護人は被告人が本件行為をなしたのはH・S式無熱高周波療法は医業行為としては勿論医業類似行為としても取締の対象となるべきものでないと信じた為であり、被告人に医業類似行為を業とすることについての犯意を認め得ないと主張するが被告人が斯く信じたことを以て犯意なしとなし得ないことは刑法第38条第3項に照し明らかであるのでこの点に関する弁護人の主張も採用し得ない。


びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

"被告人は法定の除外事由がないのに拘らず昭和26年9月1日から同月4日迄の間前後四回に亘り肩書住居等に於てA外2名に対しH・S式無熱高周波療法と称する療法を1回100円の料金を徴して施し以て医業類似行為を業としたものである。"

2015-06-16 00:11:36
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

とりあえず違法施術を罪に問う場合、いつ、誰に対して施術したかを特定しなければいけないことは覚えておこう。 無免許で整体やカイロを業としている、というだけで警察に行っても令状取れません。 だから違法施術を受けた人が名乗りでてくれないとどうしようもないのよ。

2015-06-16 00:13:51
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

最初から憲法第22条との関係を問題にしてたわけですな。 "弁護人はH・S式無熱高周波療法を業とすることは憲法第22条に保障されている自由な職業であり且この療法は全然無害で何等公共の福祉に反しない、従って被告人の行為は処罰の対象とならない旨主張する、"

2015-06-16 00:15:43
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

この判決、執行猶予だからわざわざ争うよりも罪を認めて罰金を納めれば済む話だったんですがね。 "被告人を罰金1000円に処する 被告人に対し、本裁判確定の日から3年間右刑の執行を猶予する"

2015-06-16 00:18:06
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

というか罰金刑の執行猶予? 今、ビックリした。

2015-06-16 00:18:45
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

"なお弁護人は被告人が本件行為をなしたのはH・S式無熱高周波療法は医業行為としては勿論医業類似行為としても取締の対象となるべきものでないと信じた為であり、被告人に医業類似行為を業とすることについての犯意を認め得ないと主張するが"

2015-06-16 00:20:20
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

"被告人が斯く信じたことを以て犯意なしとなし得ないことは刑法第38条第3項に照し明らかであるのでこの点に関する弁護人の主張も採用し得ない。"

2015-06-16 00:21:17
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

刑法第38条第3項 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

2015-06-16 00:21:51

で仙台高裁へ控訴


びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

で、被告人は仙台高裁に控訴。 左から2番目、2回めの裁判である。 昭和29年6月29日判決、昭和28年(う)375号 pic.twitter.com/niR5j8MIEP

2015-06-16 00:26:25
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びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

この控訴審で医業類似行為の定義を示しているのでその部分だけはネットでも見かける。 例えば国民生活センターの例の報告書でも。 kokusen.go.jp/pdf/n-20120802…

2015-06-16 00:31:44
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

「換言すれば」という表現があるのでネットで見かけると著者が言い換えたか、そのコピペ、って思ったりもするが実はこの表現、控訴審判決文中にある。 仙台高裁自体が医業類似行為の定義を「A換言すればB」とA,B両方の表現で示しているのである。

2015-06-16 00:35:11
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

Aが 『疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって他の法令において認められた資格を 有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの、』

2015-06-16 00:36:23
びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

Bが 『疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの

2015-06-16 00:37:10

この時代なので「。」を用いず、「、」にしてるのかと。
改行はびんぼっちゃまによる。


昭和28年(う)375号
昭和29年6月29日

[抄録]
[前略]
原判決挙示の証拠によれば、被告人が昭和26年9月1日から同月4日までの間、前後4回に亘り、肩書住居等において、反復累行の意思を以てA外2名に対し、HS式高周波器なる器具を用い、HS式無熱高周波療法と称する療法を1回100円の料金を徴して施したこと、即ち右施術を業として行った事実は明らかである。

 而して諭旨は右被告人の行った療法はあん摩師、はり師、きゅう師柔道整復師法にいうところの医業類似行為ではないと主張するので之を按ずるに

右法律第12条にいうところの医業類似行為とは
「疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの、」

換言すれば

「疾病の治療又は保健の目的でする行為であって医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの」

ということになるのである。

而して右法律が之を業とすることを禁止している趣旨は、かかる行為は時に人体に危害を生ぜしめる場合もあり、たとえ積極的にそのような危害を生ぜしめないまでも、人をして正当な医療を受ける機会を失わせ、ひいて疾病の治療恢復の時期を遅らせるが如き虞あり、之を自由に放任することは正常な医療の普及徹底並に公共の保健衛生の改善向上の為望ましくないので、国民の正当な医療を享受する機会を与え、わが国の保険衛生状態の改善向上をはかることを目的とするに在ると解される、

本件について之を見るに被告人の司法警察員に対する供述調書、原審証人Dの証言(原審第三回公判)及び当審証人Eの証言を総合すれば、本件HS式無熱高周波療法は電気理論を応用して疾病を治癒する目的を以て製造販売使用せられているHS式高周波器なる器具を使用し、疾病治癒の目的を以て行われる施術で少くとも之を使用している者の間では疾病治療に著大の効果ありと信ぜられているものであるから、之を所定の資格を有する者が行った場合以外医業類似行為というべきことは疑いなく、
しかして被告人は医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等法令で正式にその資格を認められたものでないのに右施術を業として行ったものであるから被告人の前記本件行為が医業類似行為を業としたものとして前記法律第12条の規定に触れることは疑がない。