「千の想いを」~最終章 クライマックス1『最強とは』~
- mamiya_AFS
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【『千の想いを』『天に願いを』クライマックスフェイズ1『最強とは』 開始】 【介入制限:長門艦隊・扶桑艦隊・第十五支援艦隊メンバー、間宮のみ】
2015-03-28 21:32:10激しい砲撃戦が急に落ち着いた事で、姫はぐりん、と首を傾げる。数発の砲弾は飛んでくるものの、狙いもろくについていない牽制のものでしかない。 逃げていく。 闇の中煌々と赤に輝く瞳が、雷雨の向こう離れていく艦娘達を眺める。 逃ガサナイ。 そう『呟いた』化物の動きがぴくり、と止まる。
2015-03-28 21:41:22ばさり、と頭部の両側で縛った白き長髪を翻し、姫が近寄ってくる敵意の方向へと全身ごと向き直る。 口は弧形に、愉悦と歓喜で歪む。 こちらの殺気を受け止めながらも雄雄しく立つたった1機の獲物を黙って見詰める。 既に他の獲物への興味は失っていた。 これは。 こいつなら愉しめそうだ。
2015-03-28 21:47:56対比のように、この海域を常に覆う夜闇より尚暗い髪が相手の輪郭をぼやかす。 言葉は聞こえた。聴力は人間の常識外である。 言葉は理解できた。思考はもはや人間のそれを凌駕した。 意味は不明だった。戦力は人間から見れば脅威でしかないはずだ。 姫は嗤い、両腕と一体化した砲を振り上げる。
2015-03-28 21:52:22海中に没した金属や火薬を体内に取り込み生成した弾丸は、歪な形ながら確実に無慈悲な破壊を生み出すもの。 滅びしか招かない力は意思も志向も目的も無く、終わりを告げるだけのもの。 深海棲艦の姫たる彼女には最高に最悪に、これ以上無く相応しいたるもの。 あれが、向かい合う資格があるかを。
2015-03-28 21:56:33姫の御前に立つ資格があるのかを試すかのように、無数の凶弾が雨と風を引き裂き、太陽や稲妻よりも眩く、長門を目掛け飛散する。
2015-03-28 21:59:10小さな島ならば、形を変えるどころか地図上から消しかねない砲撃が、自分達のリーダーへと向けられたというのに、駆逐艦娘と戦艦娘は微笑むだけだった。 彼女らは知っている。 長門という存在を。 彼女らは知っている。 長門の強さを。
2015-03-28 22:05:16長門が小さく顎を上げ、放物線を描いて迫る純粋な破壊を見上げる。 その両の瞳は遠くを見つめるかのように儚げではあるが、生涯の終わりを嘆く悲哀は欠片も無い。恐怖も憤怒も喜悦でもなく、悠然と。
2015-03-28 22:10:40溜め息の如く小さく呟くと、腰の後ろにある装備を全て力づくで引き千切る。 常人を遥かに凌ぐ腕力を持つ艦娘であっても抱え切れないような重量であるそれを、片手でぶん投げてみせた。 爆発。 敵と自前の尋常な量ではない火薬が融合し、とんでもない大爆発が起きる。
2015-03-28 22:14:06轟音と共に大きく波が荒げ、最大船速で離れていった扶桑艦隊の面々や、既に大きく距離を取っていた艦が激しく上下に揺られる。 おや、と姫は思う。 もう終わったのかと。
2015-03-28 22:15:52生じた疑問はすぐに解ける事となる。 爆炎の橙の渦の中から、獲物が黒煙を纏って姫の前へと姿を現す。 あの衝撃の中を突っ切って来たというのに、ダメージがほとんど無い事にも姫はたいして驚きはしない。 そうでなくては。 振るわれる重い拳を『掌』で受け止める。
2015-03-28 22:18:50善い。 非常に善い。 姫は嗤う。 生存の為に武器を利用したか。その発想は見事。 が、主砲を失った艦娘に何ができるというのか。 せいぜい弄んであげよう。 姫は無邪気に嗤う。
2015-03-28 22:20:34『掌』の中の獲物の拳が、肥大するような感覚を覚え、姫の笑みが初めて凍る。 勢いはおろか、振りかぶる事すらせずに、振り切った姿勢のまま、長門がただ一歩『踏み込む』。
2015-03-28 22:23:22砲口ごと右腕を弾き飛ばされ、片腕で万歳させられた形の姫の両目が見開き、目の前で自分を睨みつけている獲物を静止した時間の中で凝視する。 この瞬間、1機きりの『獲物』は『標的』へと昇格した。
2015-03-28 22:27:04「アハ…アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」 狂ったように嗤い、姫が『遊び』ではなく『戦おう』と両腕を広げる。 殴り合いなどはした事が無い。 触れればどんな物でも崩れるのだから。 殺し合いなどはした事が無い。 ただ相手が沈むだけだったのだから。
2015-03-28 22:29:30真っ向に戦える。この渇きを癒してくれる。 それだけがただ嬉しくて、姫が猛然と距離を詰め―― 頭部へと横から激しく衝撃が走り、吹き飛ばされる。
2015-03-28 22:31:09冷たい雨に晒されているというのに、1発の砲撃で高熱を発して水蒸気を上げる砲塔からドラム缶のようなサイズの薬莢を飛ばし、陸奥が告げる。 腰だめに構えたひたすら長く巨大な砲身は、最早武器ではなく兵器にカテゴリされるであろう。 ぎょろり、と動く姫の目線に怯える事無く、妹は息を吐く。
2015-03-28 22:35:42