「千の想いを」~最終章 クライマックス1『最強とは』~
- mamiya_AFS
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注意を逸らされたのはほんの一瞬であろう。 赤の瞳は確かに陸奥へと向いた。 そのほんの一刹那の間に、長門は既に拳を振り上げていた。 まるで。 まるで陸奥の攻撃のタイミングを予め測っていたかのように。
2015-03-28 22:38:27拳。 砲弾ではなく、火薬の恩恵も無い、ただの暴力。 その一撃のなんと重い事か。 が、圧倒される程に姫は弱い存在ではない。 長門の身体を掴もうと『掌』を伸ばす。 瞬間。長門は一瞬の躊躇も無く後ろへと下がる。空を切った歪な腕へと、陸奥の砲撃が炸裂する。
2015-03-28 22:44:17馬鹿な。 痛覚を伴わない衝撃を味わいながら、姫は生を受けてから初めて驚愕の感情を理解する。 黒い方の標的が、下がると何故白い方はわかった? 白い方がそこを撃つと、どうして黒い方は察せた? なんだ、なんだこいつらは。
2015-03-28 22:47:22アイコンタクト。 普通の人間でも行う事が可能な連携手段。 互いに次の行動を、言葉を主とする連絡を中継せずに目線だけで伝え合う技術。 だが。 だが長門と陸奥は『目線をただの一度も合わせてはいない』。
2015-03-28 22:50:59その互いの言葉すら、届く距離ではない。 衝撃。衝撃。また衝撃。 長門の拳が、陸奥の砲弾が、姫の身体を蹂躙する。 片方の攻撃に備えればもう片方が容赦無く追撃をし、反撃に転じれば予知されているかのように逃げられ、残りの片方が連撃を放ってくる。
2015-03-28 22:55:512人のどちらかでも一呼吸間違えれば、陸奥の砲撃は長門へと直撃するだろう。 予め全て綿密に打ち合わせし、万全の練習をこなした演舞や殺陣ですら、これ程完璧な連携が取れはしない。 言葉は不要。 目を合わせる事も必要ではない。
2015-03-28 22:58:56遠くから見守る艦娘達も呆然とする者が多くだ。 深海棲艦と較べ、生物としての地力に劣っている艦娘達にとっては連携こそが最大の武器であり、全員があらゆる研究や練習、実戦を越えてきている。 だからこそ、長門と陸奥の戦闘が理解できない。
2015-03-28 23:02:362人だけで戦え、という千代田の指示は確かに正しかった。 これでは、近距離だろうと遠距離だろうと、姉妹の邪魔にしかなり得ない。
2015-03-28 23:03:27夕立が静かに立ち上がり、マフラーで口元を覆う。 いつの間にか絶叫へと転じた姫の嗤い声に寄せられたのか、幾つかの敵影が彼女のソナーと直感へと触れていた。 千代田へと横目を向ける。 夕立の背後で、3人の仲間もそれぞれの武器を抜く。
2015-03-28 23:06:38青いツインテールの軽巡洋艦娘が機銃を肩に担ぎ、閉じていた瞼を薄く開く。 忍者刀を2本逆手に握った空母娘が雨雲を見上げて、小さく息を吐き出す。 巫女衣装の高速戦艦娘が肩にかかった長髪を左手で払い、可愛く微笑む。 マフラーの両端を風に靡かせ、駆逐艦娘が爪先で波を蹴飛ばす。
2015-03-28 23:11:514人は知っている。 長門と陸奥の強さを。 その上で4人は確信している。 長門と陸奥が本気で戦えるのは。 自分達がいるからこそだと。
2015-03-28 23:22:24微笑を浮かべ、前に出ようとする扶桑の眼前へと、夕立と榛名の得物が交差して停止を告げる。 不思議そうに2人を見比べる戦艦へと、楽しそうに、それでいて有無を言わせない何かを孕んだ笑顔が返される。 千代田の指示を待つつもりすらなかった。 この艦隊は長門と陸奥だけの艦隊ではないのだ。
2015-03-28 23:20:47@tiyodadayo ふふ、じゃあ長門艦隊の実力・・・とくと拝見(二人の想いを察し後退。しかしいざという時はすぐに動けるように感覚を研ぎ澄ませ
2015-03-28 23:26:59榛名の砲撃が合図だった。 夕立と瑞鶴が颯爽とその場からいなくなる。 呆然とする扶桑の肩に手を置き、無言で五十鈴が首を振り、逆の手の機銃を何もいない海面へと向けた。
2015-03-28 23:26:17たたたん、という小気味の良い三点射撃音を響かせて、五十鈴の銃撃が静かに接近していた潜水艦2体の前進を止める。 潜水艦に対しては気配すら感じ取れない扶桑は小さく驚きを見せ、榛名が自慢げに微笑み夕立の後へと続く。
2015-03-28 23:29:19