クリス・マッカンドレスと行くアメリカの旅 ― 『イントゥ・ザ・ワイルド』の道のりと風土

多摩美術大学での授業「芸術学英語5」(2015年)に関するツイートのまとめです。Sean Penn監督の映画Into the WildとJon Krakauerによる原作ノンフィクションを軸に、劇中に挿入される歌や関連する文学作品を合わせて扱い、アメリカの文化や歴史について考察しています。
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第1回~第3回

映画Into the Wild本編とメイキング映像を上映し、主な関連資料を配布しました。

第4回

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Into the Wildの授業。 Lord ByronのChilde Harold's Pilgrimage (Canto IV)と、Eddie VedderによるサントラのLong Nightsを鑑賞、考察。 本格始動初回としては意外なくらい学生が積極的で議論が深まった。

2015-05-13 18:29:27

Lord Byron, Childe Harold's Pilgrimage, Canto IV, Stanza 178
映画の冒頭で題辞として引用されている詩。なおバイロンの詩の引用はクラカワーの原作には見当たらず、クリスとの直接の関係性も不明。

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Lord ByronとChris McCandlessの重ね合わせメモ。 Childe Harold's Pilgrimage Canto IVでByronは主人公を自分とは別のペルソナとして扱い続けることを放棄。 ChrisがAlexを名乗り旅行記を綴ったこととの比較など。

2015-05-13 10:58:53
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Byronの詩句を件の映画の題辞とすることの適切さについて、以前は余り肯定的に思っていなかった。 けれど今回、映画で使われているより前の連を指してコメントしてくれた学生が居て、考えが少し変わった。 自らに宿(り得)る霊性と超越的存在との関係はLong Nightsにも通じる。

2015-05-13 18:41:40
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Long Nightsの"ground"について、それが不確定のものである、との認識が出てきたのも大きな収穫だと思う。 この曲では「堕落」のニュアンスを伴う"falling"という語が、不安感を匂わせながらも良きものとして再定義される。 長き夜の中で本当の探求か始まるわけだ。

2015-05-13 19:00:59
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曲中の話者(≒Chris)にとって"falling"は"better"になることを意味するが、それを"show"するとはどういうことなのか。 何らかの超越的な存在に示すのではないか、と考えた学生も居たし、自分自身に対してではないか、との意見もあった。 いずれも妥当。面白いね。

2015-05-13 19:13:07
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"ground"に到達できた時、話者は新しい光に出逢うのだろうか。 Chrisにとってそれは両親(特に父)との和解の時でもあるだろうし、その光は映画でRon Franz老人が語った"God's light"であるかも知れない。 思考が幾重にも錯綜する刺激的なセッションだった。

2015-05-13 19:30:51

第5回

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Into the Wildの授業、今日はChris McCandlessに大きな影響を与えたTolstoy、Thoreau、Jack Londonの話から開始。 中でもChrisに"North"を強く意識させたのは、彼が幼少期から親しんだとされるLondonの作品だったろう。

2015-05-20 16:26:30
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だが作家はCall of the Wildの出版(1903年)前から、北方ネタをやめようと考えていたらしい。 アメリカ性の維持のフロンティアとして、また自然回帰運動の高まりの中で、アラスカは一種の「流行りの場所」となっていたとか。 参考: 光文社2007年『野生の呼び声』解説

2015-05-20 16:43:07
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Call of the WildはLondonの最初のヒット作となったが、当人の関心は既に北方から離れ(かけ)ていた。 そんな性質の物語が、Chrisの"North"への執着や"Jack London is King"という言葉(および思念)の基盤だったのだ。皮肉なことである。

2015-05-20 17:21:35
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ノンフィクションInto the Wildにおいて、筆者のKrakauerはChrisのLondon崇拝を肯定していない。作家の実生活の荒廃に言及し、尊敬に値せぬ存在という扱い方をしている。 面白いのは、アラスカのNick Jans氏(故星野道夫氏の友人)によるChris批判。

2015-05-20 19:21:24
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Jans氏はKrakauer宛てに書いたメッセージの中で、Londonの小説に出てくるような無謀な行為だ、とChrisの冒険を非難している。 先述したLondonの「北方もの」の背景を考えれば、この非難は余り適切とは言えない。 Londonの影響の広さが伺える擦れ違いの一例。

2015-05-20 19:41:24
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Nick Jans氏のノンフィクション、A Wolf Called Romeo(2014年) nickjans.com/#!product/prd1… アマゾン amazon.co.jp/Wolf-Called-Ro… 日本語訳『ロミオと呼ばれたオオカミ』amazon.co.jp/gp/aw/d/476781…

2015-05-20 19:53:17

第6回

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今日のInto the Wildの授業はWallace Stegnerの講演集The American West as Living Spaceを軸に。 映画で使われているのは、「身軽さ」の喜び、様々な社会的制約からの逃避と究極の自由、の箇所。 その歴史的背景と影の面も大事。

2015-05-27 16:34:38
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Moby Dickの語り手"Ishmael"は、アブラハムが妻の侍女に手を出して産まれ、母親と共に追放された子供の名(創世記16:11)。 Stegnerはアメリカ的キャラクターはいずれもIshmaelを名乗り得る、と語る。 Chrisもまた、父親の不倫により産まれた子供だ。

2015-05-27 16:45:18
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ChrisMcCandlessは偽りに固められた家庭に気付き、自らを追放したとも言える。 孤児であり放浪者、というアメリカ人の典型を決定付けた西部フロンティアは(前に述べたように)19世紀末になると実質的飽和を迎え、それを引き継ぐ形でアラスカのような「北方」が強い関心を集める。

2015-05-27 16:58:08
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映画におけるChrisの旅路は、つまりアメリカ史と「アメリカ人」形成の歴史を圧縮したようなものになっている。 ヨーロッパ的な「場所 place」が移植された東部から、「空間 space」の過剰が人間を圧倒する西へ、それから北へ。 彼が自らの名前も新しく決めているのは象徴的だ。

2015-05-27 18:48:50
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なおJon Krakauerの本からは、現実のChris McCandlessがStegnerの講演集を読んでいたかどうかは分からない。 映画での引用は演出のために選ばれたものではないだろうか。 その場面で流れているのは、E. Vedderが歌う"Hard Sun"という曲。

2015-05-27 19:04:16
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"Hard Sun"はカナダのIndioというアーティスト名義で発表されていた曲のカヴァー。 Eddie Vedderは歌詞に少し手を入れている(そのことで告訴もされた)ので、文脈は映画に引き寄せられていると考えて良いと思われる。 映画の終幕で流れるのも、この曲のハミング版。

2015-05-27 23:15:11
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許しと愛(家族、社会、世界に対する)と(超越的な)光、という構図は映画Into the Wildの重要な骨組みを成すもの。そこに"Hard Sun"は浅からぬ関わりを持っている。 歌詞中の聖書への言及("forty days and forty nights"等)も見逃せない。

2015-05-27 23:20:22
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