ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ #5
遠ざかる。サイバネ・アイ視界をズーム。ズーム。シャドウウィーヴは走り、縫い止めた獲物へ飛び掛かる。急所を狙いクナイを投ずる。だが重モーターサイクルの放つ強烈な光が、縫われた影を打ち消した。カタフラクトが立ち上がり投擲クナイを弾いた。皇女が叫び、遠ざかる影に命じる。死ぬなと。 18
2015-06-20 00:03:25ユンコは橋を渡り切り、隣接ディストリクトへ消え行こうとする。カタフラクトは己の乗騎に飛び乗ろうとした。追跡するために。だがシャドウウィーヴがカラテを挑みかかり、それを阻止した。重モーターサイクルは再び無人のまま、二人の横を走り抜けた。カタフラクトは拳を鉄槌めいて振り下ろした。19
2015-06-20 00:13:06シャドウウィーヴは両腕を盾めいて掲げ、防いだ。叩きつける重いカラテ。衝撃。激痛。腕と膝がみしみしと軋む。体格差は歴然。もはや身を守る鱗はない。次の一撃が来る。シャドウウィーヴは反撃を繰り出そうとしたが、初撃の圧が彼を束縛し、逃がさぬ。真正面から、全体重を乗せた前蹴りが来た。 20
2015-06-20 00:20:45辛うじて前方にカラテ防御を固め、両足でアスファルトを踏みしめた。カタフラクトの足を覆う重厚なバイカーブーツの底が命中した。歯を食いしばって受け止めるも、余りの衝撃にシャドウウィーヴは呻き、上体を乱して後方に蹌踉めいた。止めを刺すべく、カタフラクトはセイケンヅキを繰り出した。 21
2015-06-20 00:27:52シャドウウィーヴは上体を沈ませ、紙一重で回避。ワザマエ。そのまま敵の顔面に肘打を叩き込む。だが浅い。直後、カタフラクトの強引な膝蹴りが彼を斜め上方へと蹴り上げた。上空を輸送ヘリ編隊が飛んでゆくのが見えた。シャドウウィーヴは空中で身を捻り、下にクナイを投擲した。全て弾かれた。 22
2015-06-20 00:33:47シャドウウィーヴは限界まで敵を足留めし続けた。支援の銃弾が周囲を舐め始めた。定石通りアクシスとシデムシが橋の両側に降下し、橋の中央で抵抗を続ける彼を挟み込んだ。ユンコには別の触手が伸びている。カタフラクトは三度目でようやくモーターサイクルに飛び乗り、アクセルを吹かした。 23
2015-06-20 00:41:20橋の中央でレイジは立ち上がった。息が乱れ、腕が上がらず、カラテすら構えていない。皇女は遥か後方。前方から迫るカタフラクト。冷徹なバイカーゴーグルとアルゴスの眼が睨めつける。アクシスは連携する。ドロイドの追跡を空に任せ、システムの重騎兵は、裏切者を確実に踏みしだかんと迫る。 24
2015-06-20 00:48:46「俺は呪われているんだ」レイジは観念したように笑い、前方から迫り来る死の抱擁を受け入れるように両腕を力無く広げた。秩序のサーチライトと重騎兵のヘッドライトが、凄まじい光量で前方から浴びせられた。眩暈と吐気を催すほどの光の暴力。影はなお濃く、深く、彼の背後へと刻み付けられた。 25
2015-06-20 00:57:33死の車輪が迫った。だがセプクする気は無かった。呪いこそは我が力なり。光を限界まで引きつけ、後方へ倒れ込んだ。システムの重騎兵が駆け抜けた。通過した。レイジの姿はどこにも無かった!汝、死ぬなかれと皇女は命じた。そしてその通りになった。彼は旧きジツを使い、己の影の中に消えていた。26
2015-06-20 01:13:22重騎兵は鋭角のブレーキ痕を刻みながら、後方を振り返った。ニンジャは忽然と姿を消していた。無力なるモータルにも、ジツ持たぬサンシタにも、また蟲めいて蠢く監視カメラ群にも阻むこと能わず。見よ、見よ、影は息を止めて闇に潜み、這い進み、不可視の水銀が跳躍するように渡り、橋を越えた! 27
2015-06-20 01:31:54ワルツを踊るような後方へのごく短いステップ。ほんのワン・インチの違いで、剣先は危険域から外れる。「イヤーッ!」同時に、スワッシュバックラーの剣先が精密マニピュレータめいて回転し、レッドハッグの荒々しい踏みこみ斬撃を再びいなした。そのまま刺突剣は彼女の心臓を貫かんとする! 29
2015-06-21 13:45:48だがレッドハッグはカタナを捨てていた。カタナが両者の間を舞う。刺突剣に腕を切り裂かれながら、荒々しく一回転するレッドハッグ。敵が罠を察し、引く。だが追う。懐へ潜りこむ。彼女の拳には、卑劣武器ナックルダスター。全体重を拳に乗せ、力任せに殴りつける!「イヤーッ!」「グワーッ!」 30
2015-06-21 13:52:55ワイヤーアクションめいて弾き飛ばされるスワッシュバックラー。咄嗟に防御に用いた片腕が悲鳴を上げていた。「これはつまらん、興醒めだ!」空中でひらりと一回転し着地する。レッドハッグは逃がさない。着地点へと荒々しくガレキ片を蹴り込んでから飛び掛かり、近距離の打ち合いに引きずり込む。31
2015-06-21 14:01:30「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」鉄拳と刺突剣の護拳が、目にも止まらぬ速度で火花!「流れが変わったかい!?」レッドハッグが笑う。上空のヘリ編隊は既に南へ。システムはスワッシュバックラーにも移動命令を下している。この女アサシンは無価値。留まる事はリソースの浪費そのもの! 32
2015-06-21 14:11:33レッドハッグの一打一打は速く重い。だが荒い。まるでヨタモノの喧嘩だ。噛み合わない。スワッシュバックラーは不快そうに舌打ちすると、剣柄頭で強引に顔面を殴りつけ、割りこんだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」彼女はなおも間合を維持し、前へ前へと打ち込んだ!「まだ付き合ってもらうよ!」 33
2015-06-21 14:23:57敵は戦闘から離脱せんとする。だが彼女はそれを許さない。移動し、戦って足留めし、また移動する。既にモノバイクは放置され、彼女は囮の役目を放棄している。敵はとうの昔に陽動を見抜いている。あのオイランドロイドは逃げ果せたに違いない。仕事は終わり。あとは好きなようにやるだけだった。 34
2015-06-21 14:39:07ユンコはレインコートを“調達”し、無表情な雑踏に紛れ灰色のメガロシティを逃げた。彼女は取るに足らぬサイバーゴス。大量生産された都市の部品。いきがった不良娘。誰も取り合わない。胸に秘めたデータの重大さを知らない。肩がぶつかりジョックスが口汚く罵る。反応も返さず機械めいて進む。 36
2015-06-21 14:53:56彼女は秘密のアジトに向かって逃げる。粒子が拡散するように、アルゴスの監視気配が散ってゆく。しばしばニンジャソウルを検知する。彼女は都市に溶け込み、逃げる。大交差点に掲げられたプラズマ時計は10101600。時間感覚がおかしい。直結が彼女の時間を圧縮し、また引き延ばしたのだ。 37
2015-06-21 15:00:22機密データの展開が終わっていた。それはグリモアめいて厖大に過ぎ、どこを開けば良いのかも解らない。動き続けながらナンシーのIRCログを参照し、読み解こうとする。だが手に負えぬ。一刻も早くデータを複製し、安全な場所に保存したい。IRC転送はできない。全てアルゴスの監視下にある。 38
2015-06-21 15:11:35ユンコはショウウインドウに映る己の姿を一瞥した。逃走時に銃弾を受けたか、左の唇から顎にかけ、オモチシリコンが醜い傷。コートの襟をさらに高く上げ、俯き気味に顎を引いた。そして強い表情で進む。地下鉄へ。そしてアジトへ向かおう。無線通信。弾薬の補給。データの保存。ナンシーは。影は。39
2015-06-21 15:19:04列車が走り出す。区の境界をまたひとつ超える。機密データを斜め読みしログをさらに遡った。洋上艦隊。トリイの島。月面。電子は再び洋上へ。ハーフプライス、エシオ、見知らぬ者たちが各々の理由で戦っていた。ネコチャンの文字列にユンコは目を見開いた。彼女のログアウト痕跡は見えなかった。 40
2015-06-21 15:33:23