夢幻宿せし真珠の調 ○☆ 三日目 現世 →◎

『夢を揺蕩う刻に人はもう戻れない。  往くと好い、きみたちの望む侭に』 ☆────────────────────☆ †匿名twitter創作企画†『夢幻宿せし真珠の調』 【概要:http://privatter.net/p/757197
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リコルドライト @recauldlight

瞬時に移動したのか。あるいは最初からそこに居たのか。黒の心臓の上に立つ、悪魔の叫び。音としては微細な振動に過ぎない。しかし、それは単なる音ではなかった。それは破滅をもたらす音塊。衝撃を見舞う。破壊を見舞う。強烈無比な音響攻撃ともなった絶叫ひとつが、黒の心臓に無慈悲な一撃を加えた。

2015-07-04 20:36:18
リコルドライト @recauldlight

そんな中で口早に並べられていく、悪魔の言葉。鉄の心臓は聞いていない。届いていない。ただただ、自らに起きた想定外の情報を認識するため、内部処理を行うだけが精々で。永久に続くはずだった真実(こたえ)が破られ、中断させられたことで。機械は戸惑うのみ。

2015-07-04 20:36:47
リコルドライト @recauldlight

けれど、鉄に向けられた怒号を耳にする者が居た。諦めかけていた光の乙女だ。力無く両膝をついて、黒の床に座り込んで。下半身が沼に浸るみたいに沈みかけていた乙女、伏せていた顔を上げた。ゆっくりと。弱々しく

2015-07-04 20:36:52
リコルドライト @recauldlight

違う。自ら上げたわけではなかった。気が付けば、悪魔の少女。己の目前に。伏せていた顔に両手を添えて、持ち上げてくれていたのだ。

2015-07-04 20:36:58
リコルドライト @recauldlight

黒の心臓が脈絡も無しに、ひとりでに潰れて、砕けていく。その光景を背負う悪魔の姿、光の乙女は仰ぎ見る。悪魔の、決意に満ちた眼差し。真っ直ぐに受け止める。見つめ返す。

2015-07-04 20:37:47
リコルドライト @recauldlight

「……そうなんだ」青ざめていた唇から、ぽつりと洩れた言葉。枯れたような声音。「そうなんですね、ルー」でも、その呟きは確信の光に満ちていた。虚ろだった瞳に、目つきに、表情に。光が宿る。

2015-07-04 20:38:09
リコルドライト @recauldlight

「果てが在って、終わりが在る命。いつか終わって消えていく命。その無情さと儚さに、私は押し潰されていました。哀れに始まり哀れに終わり、そしてまた哀れな旅を繰り返していくだけの、私の道に」

2015-07-04 20:46:43
リコルドライト @recauldlight

「でも。でも。そうなんですね、ルー。私たちヒトの命が、生が、そうしていつか終わりを迎える、一度きりの儚いものだったとしても……」光の乙女、立ち上がる。差し伸べてくれた悪魔の手、きゅっと握り返して。下半身にまとわりつく粘着質な黒が、力無く剥がれ落ちていく。

2015-07-04 20:46:52
リコルドライト @recauldlight

「消え逝くまでに意味があるんだって。価値があるんだって。そう考えているんですね。そう言ってくれるんですね。ルー、あなたは」それは悪魔。それは対の銀。けれどその姿は、以前の姿より大人びて見える。少女から乙女へと成ったように見える。――自分と、同じように。

2015-07-04 20:46:59
リコルドライト @recauldlight

「ふふふ。よく似合っていますよ、ルー。素敵だわ」悪魔の姿形が、変貌しているのを目の当たりにした。気まぐれに姿を現すこの愛らしい悪魔は、その外見でさえも気まぐれなようだ。乙女は思わずひとつ、くすりと小さな笑いを洩らす。木漏れ日のような。

2015-07-04 20:47:29
リコルドライト @recauldlight

「それに……ああ、それに」光の乙女、少しだけ顔を伏せる。それは恐怖や悲しみからではない。思い出を懐かしみ、慈しむためだ。脳裏に描くのは、夢での出逢い。自らとたくさんの同じを抱えた、幼き少女の姿と言葉。

2015-07-04 20:47:36
リコルドライト @recauldlight

「うみ。ひろいうみ。ほしのうみ。あぁ……仔(うみ)のこえ(産声)がします。聞こえる。感じる。響いて、届いています。私の胸に。違う世界から。違う現から」あぁ、時間も空間も越えて。太陽の中に、星が瞬く。

2015-07-04 20:47:48
リコルドライト @recauldlight

「そう。うみが、海で居てくれる。だから私……こうして繰り返すだけの処で、迷ってなんて……いられないですよね」双眸、眠るように閉じて。しかし次の瞬間には、弾むように顔を上げた。今度は悪魔の支えなく、自らの意志で。

2015-07-04 20:48:02
リコルドライト @recauldlight

太陽の乙女、真っ直ぐに見据える。握った拳を胸元に添えて。黄金に輝く長髪をなびかせながら。瞳に熱い輝き、口許に頑なさを湛えて。月光を、ルーフェを見返す。「私も、決めました」柔らかい声音で紡ぐ。

2015-07-04 20:48:12
ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

きっと、聡い彼女は気付いてる。 ルーフェは明快なようでありながら、その言葉を濁していると。 わかりやすい言葉に、含意が染み込んでいる事に。 事実。ここに至るまで、至ってなお、ルーフェが真に伝えていないものがある。 ―――願いの対価。 抱く希みの代わりに、彼方が差し出すモノを。

2015-07-04 21:22:49
ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

きっと、聡い彼女は気付いてる。 さっき叫んだ言葉こそ、その真の表面だ。ヒトの生を全うさせる。魂の輝きを愛でる。それをこそ愛し、求める。そのためにこの権能を用いんと。 嗚呼確かに、それは良い思想であり在り方だろう。 だが、少女は悪魔だ。

2015-07-04 21:27:05
ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

きっと、聡い彼女は気付いてる。 その裏。《核》と同じく、《殻》にも願いがあるのならば。 ルーフェの願い。それはヒトの生を尊び、魂の輝きを愛で―――「その魂の輝きを永遠に留めて己が物とする」事。 そのために、少女は何でもするだろう。 苦ともせず、労ともせず、彼女へ尽くすだろう。

2015-07-04 21:31:56
ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

――――――そして、きっと彼女はそれまで分かって、選んだのだ。 怪しき妖精との、契約を。 魂に朱い糸を結ぶ、繋がりを。 「えへー」 故に、彼女は全てを語らない。その問いかけに、笑みという肯定のみを示して。

2015-07-04 21:35:41
ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

「じゃあ、行こっか。リコちゃん」 立ち上がったその手を、もう一度強く握る。 繋ぎ止めるように。離さぬように。 揺籃(ゆめのそら)が見えた。潮騒(うみのこえ)が聞こえた。近くではない、けれど、遠くでもない。いずれ必ず、辿りつける地平の果てに。

2015-07-04 21:41:12
ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

もう、黒は終わりだ。 他の色が、外には広がっている。金も、銀も、黒も、藍も、虹のように硝子のように、光彩(プリズム)めいて照らしているのだから。 「リコちゃんの道。リコちゃんが歩く道は、どこにあるの?」 第一(いま)でも 第二(みらい)でも 第三(かこ)でもない 己の一歩を。

2015-07-04 21:44:39
リコルドライト @recauldlight

「私の命ひとつ。儚く終わり、消え失せることも承知の上で……私はそれまでを、輝いていきましょう。だから、諦めません。だから、終われません」その強い意志に呼応して、金髪が風も無しにはためき揺らぐ。炎のように荒ぶる魂の揺らぎを、髪に宿したかのように。黄金の長髪が、凛々しくなびく。

2015-07-04 22:32:28
リコルドライト @recauldlight

光の乙女、心臓へと向き直る。赤の電光と火花を散らせながら、壊れた玩具のように蠢いている、その機械仕掛けの巨躯へ。乙女は語り掛ける。痛切に。願い乞うように。

2015-07-04 22:32:37
リコルドライト @recauldlight

「私は……帰りません。光へと、還りません。私は変える……私の意味を。私は孵える。あるべき光のかたちから、変わって……私は、私の光を往きます」【……】

2015-07-04 22:32:46
リコルドライト @recauldlight

黒の心臓。目のすべてを悪魔に潰されて、赤い血を滴らせながら。まるで聖人の墓標のように、静謐に佇んで。それが――ぐらり、と揺れ動いた。

2015-07-04 22:32:51
リコルドライト @recauldlight

心臓の表面に、大きな大きなひとつ目が湧き出してくる。血走った眼。その奥に秘められているのは、時計だ。糸のように細い秒針が、時を刻んでいる。ちくたく、チクタク。目まぐるしく、乱雑に。かっちこっち、カッチコッチ。荒々しく、狂気を帯びて。Tick-Tack。祈りの中で。

2015-07-04 22:33:26
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