夢幻宿せし真珠の調　○☆　三日目　現世　→◎

リコルドライト @recauldlight

「――」そして乙女は両脚から崩れ落ちるようにして、へたり込んでしまって。闇の床に座り込んでしまって。虚ろな視線は、もうどこも見てはいない。「意味……ない……すべて……私……あたし……あたち……さいしょから……きまって……」渇き、ひび割れた声音が。力無く洩れて。

リコルドライト @recauldlight

瞳の群れ。もう乙女には興味を失ったように、視線を外して。代わりに目を向けるのは、乙女の鏡。月の悪魔。銀色の客人。くだらなそうに、すべての目が細まる。

リコルドライト @recauldlight

【我が光の思考変異たる要因】【最初の観測情報とは異なるが、些細な違いである】【夢の主が、気まぐれに我が光を盗み出し、真珠の集いに匿ったようだが】【それも無価値で無意味である】【我が光。その結末は既に決まっている。真実（こたえ）はひとつ。誤りはない、例外はない】

リコルドライト @recauldlight

【マレビトなる悪魔。おまえは何故、ここに居る】つい先ほど、乙女が問いかけてきたものと同じような言葉だった。質問だった。けれど、その声音の色合いは全く違った。誰の許可を得てここに居るのだ、とでも言わんばかりの。高圧的な、見下すような。

リコルドライト @recauldlight

【これは夢、ここは夢。永遠であり永久の。無限に試行を繰り返し、唯一の真実を追究する実験場】【＊＊＊は続けなければならない。真実（こたえ）がひとつで在り続けることを、観測するために】【既に証明は終了している。残るはただ繰り返すのみ。例外はない】

リコルドライト @recauldlight

【故に、おまえが存在する今も。おまえが存在し、寄り添い続ける我が光の、未来も】【すべてが無価値で無意味である】【おまえの寄り添いも、おまえとの契約も、すべてが無価値で無意味】心臓から洩れだす、胎動の吐息。肌に纏わりつくだろう。無遠慮に撫で擦るように。

リコルドライト @recauldlight

【出ていけ】【これは】【この光は】【光輝きながらも、無残に闇へ堕ちていく可能性（けつまつ）が決まっている、この哀れな光は】【＊＊＊のもの（玩具）だ】有無を言わせない、七色の声。無情に響く。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

「んー、ルーはルーはねぇ。リコちゃんに選ばれて、ルーがリコちゃんを選んだから、ここにね、いるんだよ！」 威圧的な問いかけに、少女は一瞬だけ止まって、それから「常のように」振り返って応えた。 「旅の仲間が欲しいって、道具になって欲しいって求められちゃったしぃ」

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

「もぉそうなったらルーも断りきれないってゆーかむしろ待ってましたいただきます！みたいなみたいな？」 両手を頬に当てて染めてもだもだ。 「だからぁ」 破裂音。 移動した跡もなく。 眼前に現れた少女は、その目に指を突きつけて。 「――なぁにこの子の旅路邪魔してくれちゃってんのアンタ」

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

破裂音。黒鋼の心臓の頭上から声。 「無価値？無意味？何度も繰り返す？」 破裂音。足下から。 高速移動ではない。それはまるで、意識の空白に滑り込んだかのように。 息吸う音が、聞こえて。 「ばぁぁぁぁぁっっっっっっっかじゃないの？」 耳があるかさえ分からないが、そのすぐ傍で絶叫した。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

「光は永遠じゃない？やがて尽き果てる？？そんなの知ってるっつーの！」 破裂音。破裂音。 「永遠が在るようなそこら辺の有象無象じゃない。ヒトには限りが在る。その魂（ひかり）にも果てがある。だからこそ、その最高に輝いた瞬間が好き好き大好き愛してる。それが欲しくてタマんないんだから！」

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

破裂音。それは光の乙女のすぐ傍に。 「だからお生憎様。こっちが先約だから絶対あげない」 伏せる顔を上げて、震える手を取って。 「たった一度の人生（ひかり）を、最っ高に輝かせる。それが、ワタシとこの子の結んだ契約（みち）」 足元。世界から区切られる円。二人だけの契約（ちかい）の場。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

ノイズ。少女の姿がぶれた。落ちる帽子が粒子となって溶ける。結髪は解けて、服と肌の境も、姿さえ朧気。 貌さえ失った、それ。 時が一瞬、停滞したような感覚。 後に訪れるのは、巻き戻るかのような再形成。雑音が消えて露わになる姿。 それは―――鏡写しの造型。 もう一人の、リコルドライト。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

月の乙女、くるりと振り返る。開いたドレスを翻しながら。白銀に輝く長髪を翻しながら。瞳に熱い妖光、口許に薄笑みを湛えて。陽光を、リコルドライトを見つめる。「ワタシ、決めた」落ち着いた声音で語る。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

古来より、招かれた魔なる存在が初めに叶える願いなど決まりきっている。 或る者は、貧しき己が身の上を。 或る者は、逼迫した己の生命を。 或る者は、満たせぬ心の解放を。 ―――願い叶えるは則ち、現状の打破をこそ。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

「ルーは悪い悪い悪魔さんなのでー、主（リコちゃん）が望む前にその願いを勝手に叶えちゃいまーす！」 破裂音。赫眼の視界に「ヒビ」が入った。 だがそれだけ。全体から見れば、それはほんの僅かでしかない。 少女は動いていない。ただ、その視線を向けた眼球の一つに「ヒビ」が入っただけの事。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

されどそれは、紛れもなく彼女の仕業。 初撃が上手く入ったのは、油断からか？彼我の力量差を考えれば、次はこうはいかないか？いやいやそんな事は関係ない。 ひび入るまで。 全て潰すまで。 何一つ、見えなくなるまで。 「こんな澱んで濁って腐れた毒壷、ぶっ壊しちゃって救い出してあげる」

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

その意識に「空白」を生んで近づく。 無数の眼球に「ヒビ」を入れて滑り込む。 黒鋼の心臓に走る赫々の「裂け目」をこじ開ける。 微かに空いた「隙間」の尽くを、その悪魔は見逃さず。 ほんの少しの小さな「傷痕」を、強引に致命的に大きくする。 無謬の機械が、砕けるまで。 何度も。 何度も。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

「リコちゃんのハジメテ貰うのはワタシってもう決まってんの。下がりなさい。このゲテモノ」

ルーフェ・マーブ @DIPlphemoab

目障りなもの全て潰して全盲にするまで。

リコルドライト @recauldlight

黒の心臓。常人ならば耳にしただけで吐き気を伴う、不快な呼吸音を響かせながら。月の言葉に笑う。嗤う。哂う。無数の目が、狂気染みた弧に歪んで。

リコルドライト @recauldlight

【だがしかし、無価値で無意味だ。既に証明は終了し――】言葉、途切れる。言葉が止まる。黒の心臓、己に秘めた観測装置のどれもが、悪魔の存在を感知しなくなったからだ。それに疑問を覚えた。

リコルドライト @recauldlight

観測できないものなど無い。認識できないものなど無い。ましてやこの、今ではすべてが黒に染まったこの箱庭を造り、管理しているのは自分自身。自らの世界に在るものは、そのすべてを把握しているはずだ。掌握しているはずだ。なのに、なのに。

リコルドライト @recauldlight

【どこだ】膨大な瞳、その数６６６つ。そのすべてが世界を見る。観る。視る。悪魔を。マレビトを。我が光に思考変異をもたらした障害を。【どこに――ぶがっ】悪魔の叫び。轟く叫び。それに続く炸裂音と共に、黒の心臓、無残にひしゃげる。その機械の巨躯以上に大きなもので、上から殴られたように。