夢幻宿せし真珠の調 ○☆ 三日目 現世 →◎

『夢を揺蕩う刻に人はもう戻れない。  往くと好い、きみたちの望む侭に』 ☆────────────────────☆ †匿名twitter創作企画†『夢幻宿せし真珠の調』 【概要:http://privatter.net/p/757197
1
前へ 1 2 3 ・・ 13 次へ
アイズ・サブスティーア @Substayia

わずかばかりの高揚感をひたかくして、ベッドの傍に腰掛けた。 背丈も貌も変わらずにいる夢の子。 「……本当、大きくなっている」 眼を丸くした。硝子のような色の眼を瞬いた。驚きの感情は無かった。 すらりと長い体躯は、幼い《仔》のそれから、嘗てみた《太陽》のようになっていた。

2015-07-04 01:02:50
アイズ・サブスティーア @Substayia

「そう、あなたは《海》のお嬢さん。あなたは少しだけ長く眠っていただけだよ。とてもぐっすりと眠っていたから、起こすのも躊躇ったのだけれど」 おねぼうさんになるのは、少しいけない気もした。人間は寝るばかりでは育つばかりなのですから。そんな的外れな冗談。 「―――は」 言葉が揺れる。

2015-07-04 01:04:22
アイズ・サブスティーア @Substayia

「お嬢さんはこれからもっと大きくなれる。酸いも甘いも色々な世界が見れる」 仰々しく手を広げ、窓の外へと視線と共に腕を伸ばした。 「だからこそ、お嬢さんをお嬢さんとばかり呼ぶのも大変だから、―――の名前を知りたい」 その稼動した本質に問いかけたい。夢の子は"あなた"にねだりました。

2015-07-04 01:07:48
《仔》 @ousia_mugen

藍色はぱちりと瞬いた。 「もっと。大きく」 耳に入ってくる自分の声も違うように思われた。余計に不安に思えても《夢》の確と返す《うみ》の音に安堵する。安堵であると認識していた。 「《私》。わたし、は」 名前を。それでも。《 》は《仔》としてしか呼ばわれなかった。《現》では。

2015-07-04 10:17:07
《仔》 @ousia_mugen

「……ママはね。可愛い仔になるのよ、って」 顔を上向ける。白い固いもの。天井と言うのだと脳裏に浮かぶ。 望まれて生まれた仔。金色の髪に藍色の瞳の。線の細い、柔らな身体の娘。赤子のような純真さと何にも触れた事の無い手を持って。 「パパも。でも、名前は、教えてくれていないのよ」

2015-07-04 10:17:13
《仔》 @ousia_mugen

調整という言葉は知っていても《 》はそれを思い浮かべる事が出来なかった。調整され続けて来たのだと知る由もなかったから。 「でも。でも、色んなところに行くなら。名前、無いと、大変、よね。不便、よね」 きっとそうなのだろうとは理解した。それに、何より。 「アイズに呼んでもらえない」

2015-07-04 10:17:19
《仔》 @ousia_mugen

それは、嫌だ。それは、駄目だ。 手を伸ばす。《夢》に向けて。銀の、その手をねだる。 「あのね。うみ、って、好きだわ。『本物』は、まだ見たことはないけど」 広く。大きく。深く。 「だから。《海》が良いわ。リコが。リコルドライトが。迷子にならないように。アイズが、呼んでくれるように」

2015-07-04 10:17:26
《仔》 @ousia_mugen

「だから、《海》が良いわ。名前、まだ知らないけど、でも、《私》は《海》」 手を伸ばす。指を広げて。ねだる為にか、受け入れることを求める為か、あるいは抱きしめようとしているとも『見える』それ。 「……駄目?」 ことん。枕の上で首を傾ぐ。そのくらいしか仕草を知らなかった。

2015-07-04 10:17:32
アイズ・サブスティーア @Substayia

《仔》は何も知らなかった。絵の具の塗られていない真っ白な紙がそこにはあった。 名前を教えてもらっていない。《仔》は《仔》としての寵愛を受けたに過ぎません。 ――その手は何を感じるのでしょう。その肌は何を感じたのでしょう。

2015-07-04 12:01:56
アイズ・サブスティーア @Substayia

あなたの目線に合わせますよう、上を見上げた。かと思えばすぐに《仔》に向き直ります。 「そうだね。それはとても困る」 呼べなくなることは、とてもつらいことなのですから。 二の句を待って、それ以上言葉を紡ぐのを止めました。 拙いですが、それでもはっきりとした意思を感じるあなたの言葉。

2015-07-04 12:02:23
アイズ・サブスティーア @Substayia

手をおねだりされるとあらば、あなたに夢の手を渡しましょう。そのやわい肌に滑らせましょう。 恋人がそうするよう、仲睦まじい友人がそうするよう、親子がそうするよう。 "見える"その挙動から、あなたをしっかりと抱擁したがり、その体を抱きしめようとしました。 「――それじゃあ、《海》」

2015-07-04 12:02:41
アイズ・サブスティーア @Substayia

瞼を落とす。首をかしげる仕草を認めたときにはそうしていました。 あなたの色を、現であろうと夢は映し込む。とても輝いて見えました。 「《海》   《海》 《海》」 何度か名前を呼びました。あなたのことを理解し、あなたのことを認識するように。 あなたを名付けた《海》と呼ぶことに。

2015-07-04 12:08:52
《仔》 @ousia_mugen

手が触れる。『名前』を呼ばれる。指の絡んだ《夢》の手はやはり暖かかった。そう感じた。 「アイズの手、ちょっとちいさい」 はにかんで笑む。こちらが大きくなったから、まるで逆転したかのよう。触れれば身体を起こして更に腕を伸ばした。 自ら。自分から。《夢》がしたがるそれを察したように。

2015-07-04 16:17:04
《仔》 @ousia_mugen

「《海》。そうよ。《海》よ」 抱き締めて、応える。窓から入り込む音がずっと耳を擽っているのに、それよりも声の方がずっと強かった。 「沢山。沢山読んでほしいのだわ。アイズに。……他の人にも。よくばり、かしら」 苦笑するような声音は《仔》にはないものだった。今は、それには止まらず。

2015-07-04 16:17:08
アイズ・サブスティーア @Substayia

抱え込んで抱きしめるには、夢の子は少しばかり足りない。夢の仲ならきっと、叶うのだけれど。 抱きかかえられてしまいそうな、大きくなったあなたの体。暖かな体。穏やかな鼓動。確かな生がある。 「そんなことはないよ。それくらいなら」 それくらいなら構わない。他の人だってそういうはずだ。

2015-07-04 17:18:27
アイズ・サブスティーア @Substayia

苦笑いを交えた声は、今までに聞いたことの無い《海》の音。ほんのすこしだけ、きょとんとしておりました。 あぁ、知識を詰め込まないといけない。その体躯に相応しい知識wo 与えないといけません 教えることは沢山あります、やらなければならないことは沢山ありました。。

2015-07-04 17:19:08
アイズ・サブスティーア @Substayia

知らない大きな体と、知っている小さな体。 「《海》はもっとよくばりさんになってもいいんだから」 でもほどほどに。それもまた教えてあげるのが夢の子の責務でした。

2015-07-04 17:21:16
《仔》 @ousia_mugen

「そう? そう、かしら、頑張れば、抱きかかえて、持ち上げられちゃうと思うのよ」 あったかい。緩々と力の抜けていくような。それでも寄りかかるよりはちゃんと抱くように。 「よくばり。欲張りになっても、良いのかしら。アイズは、それでも《海》は嫌いにならないでくれる?」 それは『怖い』。

2015-07-04 21:14:45
《仔》 @ousia_mugen

「なっても、良いなら。大丈夫なら。なり過ぎちゃったら。教えてくれたら、ちゃんと直すわ」 顔を上げる。窓を見上げる。青い空。太陽が輝いて。今にも身体が動き出してしまいそうで。 「だから。だからね。教えて欲しいわ。色んなこと。……あのね。あのね。海に行ってみたいわ」 波を。満ち潮を。

2015-07-04 21:14:49
《仔》 @ousia_mugen

見たい。見てみたい。己の目で。現実の、現のものとして。 「アイズが一緒なら。どこにだって、行けるような気がするの」

2015-07-04 21:14:53
アイズ・サブスティーア @Substayia

「私は嫌いにならないよ。あなたはどんなことになってもあなたなのだから」 クスクス。 「私は貴女のことが好きだから」 空はとても穏やかで、眩しい光はどこまでも届いていて。 きっときっと暑くなる、夏の日差し。空気はとても涼やかで、過ごしやすい、平穏な世界。

2015-07-04 22:21:41
アイズ・サブスティーア @Substayia

「うん、海を見に行こう」 その願いをかなえてあげたい。海を見つめることも、海にもぐることも。 名を冠する《海》の娘。 あなたとならどこまでもいけるはずだ。

2015-07-04 22:22:06
アイズ・サブスティーア @Substayia

「約束。約束だよ《海》」 抱きしめていた体勢から離して、彼女に向けて小指を立てた。指きりげんまん。知っているでしょうか。 お願い事を叶える、契約《約束》を。

2015-07-04 22:22:11
アイズ・サブスティーア @Substayia

――潮騒は、穏やかな音を流していた。 穏やかな海は、訪れる《海》を歓迎してくれることでしょう。

2015-07-04 22:28:40
《仔》 @ousia_mugen

「そう? ……そう? なら、」 良かった。零す声音は安堵に満ちていた。 「ええ。約束。約束よ。《海》が。《私》が。アイズと約束したことも。絶対、絶対よ」 身体と身体に距離が開いても寂しくはなかった。寒くも冷たくもなかった。 立てられた小指。《海》はそれが『何』かを知っていた。

2015-07-04 22:42:01
前へ 1 2 3 ・・ 13 次へ