川上氏の深夜のツイノベ

ラノベ作家、川上稔氏が深夜に始めたツイノベのまとめ。
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川上稔 @kawakamiminoru

● 夏休みの終わり。 家のポストが半開きになっているのに少年は気付いた。 開いてみると、一つの封筒が幾通ものダイレクトメールとともにあった。 封筒の宛名には老講師の名があった。 封筒を開いて見ると、中にはもう一つの封筒があった。 あの封筒だった。書いてあるのは、 『ごめんなさい』

2010-12-30 01:29:06
川上稔 @kawakamiminoru

○ 化け物は思い出す。 昔、ずっと昔に、ある言葉を聞いたことがあったと。 それは人の言葉で、化け物は言えない言葉だった。

2010-12-30 01:29:14
川上稔 @kawakamiminoru

● 少年は夕刻の学校に行った。 夏休みでも校舎は開いており、クラブ活動の生徒達が彼に振り向いた。 変に親しそうな挨拶をする教員とすれ違い、教室に入って机に向かう。 開いていない封筒は三つ。書いてある言葉は全て同じ。 『ごめんなさい』 『ごめんなさい』 『ごめんなさい』

2010-12-30 01:29:51
川上稔 @kawakamiminoru

○ 化け物は思い出す。 昔、ずっと昔に、ある言葉を聞いたことがあったと。 それは、化け物は言えない言葉だった。 だけどそれは化け物にも理解出来た言葉。 夜に聞いた言葉だった。

2010-12-30 01:30:08
川上稔 @kawakamiminoru

● 少年は夜に出ていく。 途中、追ってくる者達に気付いたが、革ジャンパーの脇穴から入る風が身を停めた。 速度を上げて峠に入れば追いつく者もいない。 山の上、一人でら見る海は暗く、潮の音は届いてこない。

2010-12-30 01:30:22
川上稔 @kawakamiminoru

○ 化け物は朝日とともに巣穴に帰る。 化け物は日の出を水平に見て、そして眠る。 化け物は空を見上げない。 特に、夜の空は見上げない。

2010-12-30 01:30:34
川上稔 @kawakamiminoru

● 二学期始めのHRで、少年の机にまた和紙と手紙が来た。 手紙を開いてみれば、同じ言葉が書いてあった。 『ごめんなさい』

2010-12-30 01:30:45
川上稔 @kawakamiminoru

○ 化け物は、その言葉が嫌いだった。だからこう書いた。 《あやまるな》

2010-12-30 01:30:55
川上稔 @kawakamiminoru

● シャーペンで裏側に小さく書いた文字は気付かれるだろうか。 だが和紙は老講師に無言と無表情で回収され、彼の手元には手紙が残った。 その手紙を彼はまた机に入れておく。

2010-12-30 01:31:06
川上稔 @kawakamiminoru

○ やがて、化け物は人の声を聞いた。 『許してくれるの?』

2010-12-30 01:31:17
川上稔 @kawakamiminoru

● 馬鹿か、と少年は思った。 《おまえはなにもしていない》

2010-12-30 01:31:32
川上稔 @kawakamiminoru

○ 化け物は、また人の声を聞いた。 『でも めいわくかけてます  お父さんや お母さんに』

2010-12-30 01:31:39
川上稔 @kawakamiminoru

● 少年は書いた。 《おれのしったことじゃない》

2010-12-30 01:31:48
川上稔 @kawakamiminoru

○ 返答が来た。 『あなたは 誰?』 化け物は、声の相手が自分を見えていないのだと気付いた。 街の人々は自分の姿を見ただけで逃げるか襲いかかってくるかするものだが。 だから化け物はそのことを教えることにした。 人と関わるべきではない。

2010-12-30 01:32:03
川上稔 @kawakamiminoru

● 《きらわれものだ》 和紙の裏側に小さく書いた言葉に対し、返答は、一週間後に確実にあった。 『どうして?』  ○ 化け物は己のことを、その声に伝えることにした。 《ばけものだと そういわれてる》

2010-12-30 01:32:28
川上稔 @kawakamiminoru

※ちとセンテンス分けが多くなるので、入るものは入れていく方針で。

2010-12-30 01:32:59
川上稔 @kawakamiminoru

● 『化け物なの? ほんとう?  わたし、本で読んだことがあるよ』  ○ 《じゃあ、それとおなじだ》

2010-12-30 01:33:16
川上稔 @kawakamiminoru

●  しばらくして、言葉がたくさん返ってきた。 『ばけものはひとよりもからだがおおきい  ばけものはひとよりもちからがつよい  ばけものはひとのべんきょうをしない  ばけものはひとのせいかつをしない  ばけものはひとのともだちをもたない  ばけものはひとからおそれられている』

2010-12-30 01:33:56
川上稔 @kawakamiminoru

『これで合ってますか?』 ○《かってにしろ》

2010-12-30 01:34:23
川上稔 @kawakamiminoru

● 少年は夜に出ていく。 季節は夏を過ぎ、秋の入り口に差し掛かっていた。 夜風は涼しさから冷たさに変わりつつあり、山の上の方では緑が褪せてきた。

2010-12-30 01:34:34
川上稔 @kawakamiminoru

○ そして次の返答が来た。 『化け物なんだ すごい』 化け物は、当然のことを驚かれて、少し表情を変えた。 そして声に問うていた。 《おまえはだれだ》

2010-12-30 01:34:50
川上稔 @kawakamiminoru

● 『雪のふるところから今年来ました』 少年は知っている。この土地には雪なんてまず降らないことを。

2010-12-30 01:35:04
川上稔 @kawakamiminoru

○ 《さむいところか》   ● 『雪 知ってますか?』   ○ 《しらない》   ● 『面白いんです』   ○ 《なにが》   ● 『きれいで 立ってみると周りが全部白くて  お空も白いの』   ○ 《そらはあおい》   ● 『空 好き?』

2010-12-30 01:35:34
川上稔 @kawakamiminoru

○ 化け物は空を見上げない。 ただ全てを水平に見るか、見下ろすだけで。 《もっといいものみろ》 ● 『化け物はここにくわしいの?』  ○ 《うみがすきだ》 ● 『化け物は海が好き?』  ○ 《やまもすきだ》

2010-12-30 01:36:19
川上稔 @kawakamiminoru

● 『化け物はお空も好き?』  少年は応えなかった。 だから一週間後に返答が来た。 『ごめんなさい』 ○ 《あやまるな》 ● 『どうして?』 ○ 化け物は考えた。 声の持ち主に、どうすれば理解されつつ、自分を隠す方法はないかと。 《きれいなものをみるとしんでしまう》

2010-12-30 01:37:17