５／３　天雄さんと狭間

狭間 駿 @c_yu_n

【５月３日／都内：某カラオケボックス】

チョロ松 @_choro_m_

天雄】五月三日・昼下がり。待っていた連絡が入りカラオケボックスに来た。滅多に入らないので判らなかったが、人に聞かれたくない話をするにはうってつけである。良い場所を知っているのだなと素直に感じた。必要ならなにか適当に曲を入れておけばいいし飲食もできる。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「………あの……、……、」 ものすごく居心地の悪いような気持ちで、おずおずと、対面の席に座る相手に声をかける。部屋の奥に置かれたモニターからは、ヒットチャートのプロモーションがきらきらと流れている。

チョロ松 @_choro_m_

天雄】物珍しさに部屋をきょろきょろと見回して、やや落ち着きがない。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「…………………、…………こんにちは…、」 なんだか珍しげに、子どものようにキョロキョロと部屋を見回している青年に向けた言葉は、先ほど顔を合わせた当初にも向けた言葉である。間が抜けていると思わなくもないが、どうにも、いかんともしがたい。

狭間 駿 @c_yu_n

狭間】例の件から一日置いて、この青年を呼び出した。来てくれたことにまずはホッとするような、一方で胃が重いような、しかし自分こそシャンとしておかねばならないだろうとも思う、何ともいえない気持ちで向かい合う。

チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「あ、すみません」 用事を忘れたわけではなかったが少々この場にそぐわぬ態度をとってしまった。膝に手を置いて相手を見る。強張りが表面に出ている少年にの改めての挨拶に、こちらも軽く頭を下げよう。 「こんにちは。先日ぶりです」

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「えっ、んや、こちらこそ、」 咎めだてしたわけではなかった。配慮の足りない声の掛け方をした、と、こちらもやや慌てて、ふたたびペコと頭を下げる。 「……はい、…先日はどうも、…その、」 巧く口が回らない。何からどう話そうか。考えながら、ゆっくりと声を出す。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「……………あの………、……………、……ええ…、」 もごもごと、顔はあげていても下を向いてゆくような声は、BGMにたやすく飲まれてゆくだろう。相手の表情は、見た感じには、いつもとそう変わりないように見える。

狭間 駿 @c_yu_n

狭間】強めにひとつ、まばたきをして、気持ちを切り替えようとする。

チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「あの後、ハイジくんとはうまくいきましたか？」 気になっていることは他にもあるが、まずはそこを聞きたかった。二人に距離をとらせたのには自分も大いにかかわっていることで、むしろそうさせた。未だに二人を一緒に物事を考えるのには違和感があるが、今はいい。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「……、…はい。おおかた、説明しました、」 言って、気持ち背筋を正す。 「その……、……。…そう、説明に、きました、」 まさか二人で歌いにきたわけではない。分かりきったことではあるが、改めてそう、明確に口にする。

チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「そうですか」 短く返す。それが良いのだろう、深く追及することではない。 「ええ。お待ちしておりました」 待ったとは言ってもたったの二日、時間に換算すればそれより短い。気持ちとしては早いなと思ったくらいだが、言っておいても良いだろう。

チョロ松 @_choro_m_

天雄】（うまくいったか、に対してが、説明はした、………ですか） 膝の上で両手の指先をくっつける。上着から出ている指先部分の、小指が少し歪む。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「はい、…、」 どちらの返答にもかけて神妙に頷いて、 「……あなたの記憶、とったの、俺です」 端的にまず、そう言う。拳に握った手はテーブルの下で膝の上に置いている。相手と目を合わせるように、揺らぎようはなく、相手の目のほうを見る。

チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「まぁ、そうでしょうね」 肯定に頷いては、こちらを射抜きそうなほどにまっすぐと向けてくる視線を受ける。 「それは貴方の仕事と…、薬臭いのも、関係しているのでしょうか？」 窺うように目を向けたまま、僅か右側へと首を傾げる。

チョロ松 @_choro_m_

天雄】先日の余裕がなかった少年からは、最初に会った時のような薬臭さがあった。今はとても薄れているけれども、まだ名残がある。すん、と鼻を鳴らす。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「……シゴト…、」 一瞬考える。 「……シゴト、…といえば、そうですねシゴトですね。そうですね、関係してます…、……薬くさい…？　…ああ、」 ちら、と、素直な混乱で瞬間的に目を泳がせ、また戻す。 「…関係して、ます」

狭間 駿 @c_yu_n

狭間】関係は、しているようなしていないような、自分の中では区切り目は曖昧だが、しかし外から見れば、これらはまとめてひとつの件だろう。如月ハイジに明かしてしまった以上は、今さら何かをはぐらかす気もない。明快に断定の口調での返答ではないのは、説明の仕方を迷っているだけである。

チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「………また、危ない橋を渡りましたか」 独り言のように溜息に混ぜて、傾いだ首を戻した。聴きたいことはたくさんあって、あれこれどう尋ねてやろうかと考えていたのに、今はそれがすんなりと出てこない。さてどうしたものかと、ソファに深く腰掛ける。身体が僅かに沈んだ。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「そうですね。…そろそろ、この件くらいで、いいかげんケリつけようとは、思ってます」 少なくとも今はそう思っている。別にそれで安心させられるわけでもないだろうが言って、 「……あなたの記憶から盗ったのは、」 ちゃかちゃか弾けるテクノポップスを背景に口を開く。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「…俺とあいつの関わりについて、の記憶です。…戻していい、ってあなたが了承してくれるんなら、戻す手筈、とります」 そこまで言って、一瞬ちらりと目を伏せてからすぐにまた、上げる。 「…元々すぐに、こうやって謝って、戻させてもらうつもりでは、あったんですけど」

チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「先に僕とハイジくんが出会ってしまったんですね」 彼が駆けつけた時の様子を思い出す。予想だにしなかったのかもしれない、この広い東京のどこかでたった二人が出会うことを。確立としても低いだろう。

チョロ松 @_choro_m_

天雄】三日と見積もっても、それまで出会ってなかった期間の方が圧倒的に長い。いっそよく出会えたものだと思う。それが良かったのか悪かったのかと考えた時、どちらとも言えないのがどこか蟠りを残す。呼び出しておきながら、現れた少年を見て少々狼狽した。

狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「…まさか、仕掛けたその日に、会われるなんて思ってなかったですよ」 苦笑していいのかどうか、分からないけれどどうにも、小さく苦く笑ってしまう。 「あの日のうちに俺、戻しにいくつもりだったんですから…」