山本七平botまとめ/【日本のこれまでを支えたものは何だったのか④】日本ではアメリカ式経済学、経営学は役に立たない
- yamamoto7hei
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①【日本では経済学、経営学は役に立たない】出版界に入って三十年、その間に多くの倒産劇を見てきた。 戦前の日本を代表する超大出版社の倒産も、すでに四代目を迎えている日本最古の出版社の倒産も見てきた。 改造社と内田老鶴圃である。<『日本資本主義の精神』
2015-07-02 23:09:02②この象徴的な二大倒産に共通している点は、興味深いことに、 その二世と四世が共に戦後早々にアメリカに留学し、経済学・経営学を学び、学んだとおりをそのまま実地に移した という点である。
2015-07-02 23:38:54③似た例は名古屋の有名な老舗にもあり、傍観者にとってはまさに 「学者になればよかったんだよナ。」 なのだが、出版界の二例は私にとっては少々衝撃であった。 前者は今では跡形もなく消え失せ、その社名すら忘れられている。
2015-07-03 08:09:04④後者は新社となって立ち直ったが、その社の人は私とごく親しく、その内情をつぶさに聞く機会があった。 それは一種「不思議」とも言うべき状態なのである。
2015-07-03 08:38:52⑤簡単にいえば「このままではもうだめだ。」と思った先代の番頭達が、社外の債権者の支持を得てクーデターを起こし、アメリカ帰りの社主を追放し、債権者を株主として番頭が経営するという形で急速に立ち直ったのである。 変わった点は「株式会社」と「新社」とが、旧社名に付加されただけである。
2015-07-03 09:09:09⑥いわば、この会社は、倒産へと転がり落ちていった四世のアメリカ的経営の二、三年を除けば、番頭の経験則だけで立派に立ち直り、今も立派にやっている。 妙な言い方をすれば、四世が、社業に全然無関心であれば、追放されることはなかったのである。
2015-07-03 09:38:53⑦この番頭は「日本資本主義の精神」を経験により体得しているが、経済学、経営学などという学問は全然知らない。 彼が体得しているのは文字通り「見えざる原則」なのである。 ただ、その原則を言葉にして客体化し、それを引っさげてアメリカ帰りの若い社長と討論する方法を彼はもっていなかった。
2015-07-03 10:09:17⑧自分の経験則と輸入の学問を、生産的な討論で共に生かすという手段を、もっていないのである。 従って、討論すれば「言い負かされる」に決まっている事を彼は知っている。 だが、言い負かされても自分の方が正しい事を彼は知っているから「ではお手並み拝見」という態度にならざるを得ない。
2015-07-03 10:38:52⑩そしてこのことは、この番頭が経験則として知っている事柄を、「言葉にして」論争を挑む者が現われたら、彼自身がたちまち、最初に記した経済学の論客同様に「その質問に答える用意は何もない。」と言わざるを得ない状態に陥ることを示している。
2015-07-03 11:38:55⑪経営者としては、実際に極めて有能だが、論争するとすぐに立ち往生する彼は、まさしく日本の超高度成長を支えた経営者の、一つの典型であろう。 それはまた、日本の会社が経済学、経営学とは無関係の「見えざる原則」で動いていることの、一つの証拠でもある。
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