ヒロイン【横山家】

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・26】 一生懸命横山くんの応援してたら、いつの間にか先生が目の前にいて、教科書で思いっきり頭たたかれました。痛かったです。 横山くんは、今日のお昼は何を食べましたか？ ＊ 『…何やこれ。』 いわゆる、交換日記というやつなのか。 何でや。何で俺がこいつと、

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・27】 この心底どうでもいい小学生みたいな日記のやりとりをしないといけないのか。 めっちゃめんどくさい。めんどくさいのに。 『今日の弁当は、唐揚げと卵焼きと…』 なぜか俺は隣のページに、いつもより少しだけ丁寧な字で、どうでもいい日記を書き始めていた。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・28】 交換日記は年が明けても続いた。 どこで住所を調べたのか、年賀状も届いた。 よくわからん関係やけど、意外とええ奴っていうこともわかってきた頃。 “ヨコー！ハッピーバレンタイン！” 後ろから飛びついてきた友達に渡されたチョコレート。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・29】 『何で男にチョコもらわなあかんねん』 “ただのチョコちゃうで～、おっぱいチョコや！” 『何やそれ！おい、みんな集合！おっぱいチョコやて！』 相変わらず、学校ではバカやって。 “てかお前、あの子からもらえるんちゃうん？” 『いや、いらんわ。』

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・30】 “それよりヨコ！ヨコ！雪降ってるで！” 『うわー、ホンマや！積もったら裸雪合戦やるでぇ！』 そう。あの年のバレンタインも、雪が降っていた。 ＊ 雪合戦に夢中になって、バレンタインのことなんてすっかり忘れて。 ドロッドロになって校門を出た帰り道。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・31】 「横山くん、」 いつものように校門で待っていたあいつは、いつもより何かそわそわしてて。 ピンク色の小さな紙袋を差し出されて、やっと今日がバレンタインだったことを思い出した。 『あ…ありがとう。』 「…ん。」 照れた笑顔が可愛いな、なんて。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・32】 雪合戦してた間は止んでいた雪がまた降り始めて。 「綺麗やねぇ…」 彼女はそう言って笑う。 『綺麗なん？雪って。』 正直、雪は遊び道具やと思ってたから彼女の言葉がその時は不思議やった。 「綺麗じゃない？白くて、キラキラしてて。…あ。横山くんみたい♡」

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・33】 『誰が色白や』 キラキラして、の言葉は聞こえなかったことにした。 何て言ってええかわからへん。 「でもやっぱり、寒いね。」 そう言いながらも、やっぱり嬉しそうで。 「私も雪合戦したかったなー！…きゃっ！」

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・34】 威勢よく踏み出した足がちょうど凍った道路の上で滑って、 『危なっ！』 思わず手をつかんで引き寄せると、 「へへ、ありがと♪」 こっちの心配なんておかまいなしの、楽しそうな表情。子供か。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・35】 なのに思いがけず触れた身体は、普段タックルしあってる男子校の奴らとは全然違って。 その柔らかさと甘い香りに、何か変な気分になった。 ＊ 家に帰って、オカンと弟に冷やかされながらもらったチョコレートケーキを食べる。 『…うっま。』

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・36】 何やこれ。ホンマに手作りか？ 交換日記のページについたチョコレートや粉の跡を見て、ちょっと笑った。 ＊ ホワイトデーには、オカンが買ってきたええとこのっぽいクッキーを渡した。 ホワイトデーって白いから横山くんの日だね、なんて言ってまた笑われた。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・37】 “なぁ、お前らってホンマに付き合ってないん？” 『付き合うてへん言うてるやろ』 “え、でもぶっちゃけチューとかするやろ？” 『するかボケ。友達や、友達。』 "またまたぁ〜♡" 『おい、シバくぞ！』 中3になってからも、俺らの関係は変わらず。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・38】 中3になってからも、俺らの関係は変わらず。 でも、自然と自分の口からあいつを友達と言うようになっていた。 交換日記も、相変わらず続いた。 あいつの日記は食うことばっかで、色気の欠片もなかったから余計にそう思ったのかもしれへん。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・39】 バレンタインの時に感じた変な気持ちも、忘れかけていた。 ＊ 中3のバレンタイン。 その年は雪は降ってなくて、曇り空の帰り道。 「ねぇ、横山くんってどこの高校に行くの？」 『は？どこって、俺らエスカレーターやんけ。』 「あ、そっか。」

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・40】 『自分らのとこもやろ？』 「………」 黙ってしまった彼女。 『何やねん』 「お父さんがまた転勤でね、東京の高校に行くの。」 『え…』 「横山くんと一緒に帰れるバレンタインも、これで最後だね。」 渡されたトリュフは、やっぱりめっちゃ美味かった。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・41】 2月14日　曇り 横山くんのことが、好きです。 ＊ 2月15日　晴れ チョコ、うまかった ＊ 男子校やからとかそんなこと言い訳にならへんけど、好きとかそういうのほんまにわからんくて。 悩みに悩んで、結局交換日記にはそんなことしか書かれへんかった。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・42】 次の日からあいつはまたいつものような食レポ日記を書くようになり、俺もそれに適当に答えて。 バレンタインのことなんかなかったみたいな毎日が続いて、あっという間にやってきた卒業式はちょうど3月14日だった。 ＊ “お～ヨコ、みんなでカラオケ行くで！"

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・43】 『ごめん、後で！』 卒業式が終わってすぐ、学校を出た。 校門の前でいつも待っていた彼女の姿は、そこにはなくて。 初めて彼女の学校の前に行った。 “あ、横山くん…？” 振り返ると、何度か見たことのある彼女の友達らしき女子。 『あ、えっとあいつは…』

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・44】 “もう帰っちゃったよ。今日、引っ越しなんでしょ？” 『え…』 何それ。聞いてへん。 昨日、いつもみたいに「また明日ね」って言うたやんけ。 頭が真っ白になったけど、足は勝手に走り出していた。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・45】 「あ、横山くん」 『あ、横山くん。ちゃうわ…』 彼女の家の前に着くと、いつもの能天気な顔した彼女がそこにおった。 いつも見てたセーラー服じゃなくて、パーカーにジーンズ。まさに引っ越ししてますって感じの格好。 『お前、今日引っ越しって…』

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・46】 「あれ、言ってなかったっけ？」 『聞いてへんわ！』 「あ、ごめんね♡」 いやいやいや。ごめんねちゃうやん。 久しぶりの全力疾走で切れた息を整えて、深呼吸。 『お返し。ホワイトデーの。』 学ランから、上から2つ目のボタンを外して彼女の手に握らせた。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・47】 「横山くん…」 彼女は足元に置いていた段ボールの中からノートを取り出して、俺に差し出した。 「横山くんが、持ってて。私はこれで十分。」 ボタンを握った手を振ってみせて。 その時、初めて彼女の涙を見た。 「ばいばい、横山くん。」

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・48】 引っ越し屋のトラックが見えなくなるまで立ち尽くして、やっとわかった。 あいつのことが好きやった。 気付くのが、遅すぎた。 いや。 本当は答えは見えかけていたのに。 どうしていいかわからなくて、怯えてただけやった。 …馬鹿やなぁ、俺。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・49】 桜が咲いて、俺らは高校生になった。 とは言っても、制服も校舎もクラスメイトも何も変わらへん。 変わったのは、男友達とバカやりながら歩く帰り道だけ。 ＊ あの日もらった交換日記の最後のページには「横山くん、ありがとう」の文字だけ。

かおり @orange_shake_

【ヒロイン・50】 中学生最後の春休みを泣いて過ごした俺を気遣って、友達は何も言わずに今まで通りでおってくれた。 ＊ 春が過ぎ、夏が来て、秋が終わって、冬になる。 思い出さずにはいられない、あの季節が。 ＊ “雪やで～ヨコ！裸雪合戦や！” 『おっしゃ！望むところや！』