PODアフター　～迷子のオルトロス～

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

「《it》のかけら……ね」 診療所のベッドに横たわるハーレーは、開いた手のひらの上にあるものを眺めていた。淡く光を放つ、綿毛のような小さな物体。《it》のかけら、人によっては《with》と呼んでいるものだ。 #GC2_POD #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

《with》は手にした者によってその在り方を変える…と、噂に聞いている。妖精、人間、動物。さまざまな《with》がいるらしい。 三日に渡る混沌核討伐から数日、ずっと診療所に閉じ込められているハーレーは、他の《with》を見たことがなかったが――― #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

「なんつーか……地味だな、おれんとこのは」どうせなら妖艶な美女医療魔法師にでも化けて、寝たきりの自分を看病してくれたらよいものを。光る綿毛はふわふわ浮いているばかりで、なんの役にも立たない。「そういや……戻ってこないな、オルトロス。やっぱお使いは無理だったか」 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

手持ちぶさたすぎるから、本でも読もうかと買いに行かせたのだが……かれこれ半日ほども出掛けたままだ。「《ナナリー領》なら、本でもくすりでも酒でも、オルトロスに財布持たせときゃ買ってきてくれるんだがなあ」 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

ベッドサイドのテーブルに置いてある水晶玉には、《ナナリー領》の景色が今も映っている。休憩する農夫、息抜きする商人、居眠りする肉屋。少々のどか過ぎる景色をぼうっと眺めていたハーレーは、不意に、ある人物を見つけて息を飲んだ。 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

長大な槍を携えた精悍な顔つきの女性が、往来を歩いている。見間違いようもない。《ナナリー領最強》……だった人物だ。 「そうか。ひとつの時代だけ映してたわけじゃねえのか」 今はもう逝ってしまった女戦士の姿を、ハーレーは複雑な表情で見つめた。 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

親友の忘れ形見である君主を守るために、単身死地に赴いた彼女の後ろ姿が、今も脳裏に焼き付いている。生き残るためには逃げることも辞さなかった当時のハーレーには、彼女の行為が理解できなかった。理解できるようになってからは、よりいっそうの畏敬の念が湧いた。 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

今のハーレーはあの日の女戦士より遥かに強くなった。それなのに、今でも彼女を超えられた気がしない。 「……まあ、そういうもんさな」 死んだ人間は超えられない。蜃気楼のように、少し遠くで揺らめき続ける。自分自身でも決して手で触れることのできない、心の中に住まうが故に。 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

「ああ、くそっ。しんみりしちまった！オルトロスのやつ、はやく戻ってこねえかなあ……」頼んでおいた本を読めば、すぐにハッピーな気分になれるというのに。「ちゃんと本のタイトル書いたメモまで持たせといたってのに……やっぱり無理があったかねえ」 #祭壇探し

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod 小さなポーチを首から下げたオルトロスが、商店街をトボトボと歩いていた。診療所に入院中のハーレーからお使いを頼まれ、こうして商店街まで出てきたのだが、目当ての店を見つけられずにいるのだった。 (本屋……本屋はいずこに……)→ #迷子のオルトロス

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod 人混みが邪魔になって、どの建物が何屋なのかよくわからない。人に尋ねようにも言葉が通じない。ポーチの中にはお使いメモが入っているのだが、人に見てもらおうにも、投影体であるオルトロスに好き好んで近づいてくる者はそうそういない。→ #迷子のオルトロス

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod (主殿の相棒として認知されているからか、騒ぎにこそなってはおらなんだが…投影体には世知辛い世の中だ) 火の粉混じりのため息をつきながら歩いていたオルトロスは、あるときふと足を止めて、人混みを振り返った。 知っている匂いがしたのだ。 #迷子のオルトロス

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki 今日はどこへ行こうか考えながら街中を歩く。するとどうにも一角、あからさまに人が避けて通る区画がある。 「何か怖いものでも……あら」 見やれば、首から荷入れを下げた双頭の黒犬の姿。 「ハーレーさんのところのワンちゃん？」 とててと、彼？ の元へ近寄った。

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod (おおっ！アヤメ殿！！)オルトロスはこれぞ天の助けとばかりに、パタパタと尻尾を振りながら、見知った女性へと駆け寄っていった。(助かった！拙者、途方に暮れていたところであった…！) 「がうがうがうがうがうッ！！」 ※なお()内のテキストは意訳です。

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki 「こんちにはオルトロスちゃん。元気ねぇ」 よしよしと頭を撫でる。 手を繋いだ少女も撫でようとするが、急に吠えられてビクッと手を引っ込めた。 「そっとなら大丈夫よ、ジニア」 くすくすと笑う。 「で、どうしたの。お使い？ ……言葉が通じればいいのだけれど」

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod 「がうがう！」右の頭の首にぶらさげたポーチを、左の頭が鼻先でつついた。中に入っているお使いメモを見れば、お使いの内容も伝わるはずだ。(頼む、気づいてくれアヤメ殿！)

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki 「ポーチの中に何か入ってるの？ ……じゃ、ちょっとこそばゆいと思うけど我慢してね」 そっとオルトロスの首元に触れて、中に入った紙幣とメモを取り出す。 「……あらあら。男の人ねぇハーレーさんも」 やれやれと苦笑い。 「ちょっとお座りして待っててね」(続)

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki 暫く経つと、本を二冊抱えて書店から出てくる。 「はい、じゃあこれ。ちゃんと渡して上げてね」 彼の目当ての本の入った袋を、ポーチのついていない方の子の首に、ハンカチーフでくくりつける。首を締め付けないように。 「あと、これね」 メモをポーチに戻す。(続)

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki 『あまり変なお使いを任せないように。お釣りは伝言の通り、娘の絵本を買う足しにさせてもらったわ。 旅の生命魔法師アイリス P.S.わたしの所為で空いた風穴塞がった？ 何かあったら言ってね』 「これでよし、と。帰り道は大丈夫かしら、オルトロスちゃん？」

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod こくこく、と頷くオルトロス。感謝の気持ちを込めて尻尾をパタパタ。それから、怖がらせてしまったお詫びに小さな少女に身を寄せて、その頬をぺろりと舐めた。 くすぐったがる様子はどこにでもいる幼子のそれだが――― (この幼子……やはり、人間ではないのか)

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki くすぐったそうにしながらもあまんじて受けるジニア。 「気に入られたみたいでよかったわね、ジニア」 ふふふと笑顔を浮かべる。 「それにしてもこんな買い物をオルトロスちゃんに頼むなんて、ハーレーさんはどうかしたの？ そこまで横着だったのかしら？」

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod アヤメがそう洩らすのを聞いて、オルトロスは、病室で暇そうにしている主の姿を思い浮かべた。酒も飲めず、人と話もできず、水晶玉に映る故郷をぼーっと眺めている寂しい背中。 (アヤメ殿を連れて帰れば、主殿が元気になるかもしれないな)→

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod 忠犬的思考を発揮したオルトロスは、二人の足元に身を伏せた。アヤメを見上げて「がうがう」吠えて、乗れとばかりに尻尾を振る。 (主殿のために、一肌脱ぐとしようか)

ヒノカゴバナ＠朝ニン(カ)／やかん @y_anem_gc

@orikadoyuki 「乗れってこと？ うーん、ちょっと気持ちよさそうだけれど」 考えるうちに、ジニアは楽しそうにその背に跨りに行ってしまう。 「あ、ジニア！ ……もう。それじゃ、連れてってもらいましょうか。貴方のおサボリなご主人のところに」 ヒョイと横向きで背に腰掛けた。

シキ＠C99木西え15a @orikadoyuki

@yakan_r_pod 「おっ、この足音は相棒の！よくやくお楽しみの本を買ってきてくれたか……！！」退屈な入院生活に差し込む光明、『美女投影体特集』の到着だ。ハーレーは痛む腹を押さえて立ち上がり、扉の前で相棒の帰還を待ち構えた。「さあて、異界の素敵な女神ちゃんたちとご対面だ」