秋山殿関連…かどうかはわからない個人的備忘録

徒然なるままにアレコレ記念その5。 僕のじいちゃんの話(時々優花里さん) ※史実を下敷きにしたフィクションに近いなにか。そして申し訳程度の優花里さん要素。
1
前へ 1 2 3 ・・ 6 次へ
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

そんなこんなで新宿でも良き伴侶とお客さんに囲まれよろしくやっていたじいちゃん。そんな日常の中で、一つの命を授かる。初めての子供である。

2015-07-29 14:24:20
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

子供が出来たと知ったじいちゃんは、一家の大黒柱としては雇われてるようじゃいけないと思い、自分の店を持つ決心をする。…が、当時既に支那事変がおこっていたこともあり、戦時統制がはじまっていた。そのため新しく店を建てることが出来ず、居抜きで譲ってくれるようなところを探しまわったらしい。

2015-07-29 14:24:24
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

やっとの思いで2つばかりあてを見つけた。今の大田区と杉並区である。2つとも池や公園が近くにあり、どちらにするか悩んだ。ばあちゃんは大田区のほうが都会だし親戚も近くにいるからこっちがいいといったが、杉並の方を一目みたじいちゃんはあっという間にこちらにキメてしまった。

2015-07-29 14:24:29
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

理由をきかれたじいちゃんは、こう答えたそうだ。「池を覗いたらみたこともないトゲウオがいる!ホトケドジョウもいる!」と。

2015-07-29 14:24:42
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

自然を愛するじいちゃんとしては床屋の近くに良い自然があることが嬉しかったようだが、ばあちゃんとは大分揉めたようだった。が、なんとか引っ越しを取り付けたという。 かくして、我が床屋はめでたく開店する運びとなったのである。

2015-07-29 14:25:06
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

婚姻はしていたものの、結婚式をあげていなかった二人は、千葉の親戚の元でささやかながら式をあげ、父の姉…つまり僕にとってのおばちゃんが生まれて、そうして新しい生活が始まったのである。昭和十六年、二月のことであった。

2015-07-29 14:25:49
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

そこから暫くは慣れない暮らしに戸惑うも、なんとか楽しく暮らしていたが、その年の終わり、大きな動乱が一家を襲う。そう、大東亜戦争の勃発である。

2015-07-29 14:25:55
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

開戦して暫くして、周囲の住民の幾人かは徴用されて工場へと働きに出た。が、じいちゃんには徴用の命令はすぐにはこなかった。「本籍地が地元の人間から呼ばれる」という話を聞いていたじいちゃんは、あらかじめ籍を母親の故郷にうつしておいたのである。新潟県にある根小屋という所だった。

2015-07-29 14:26:05
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

が、やはり来るものは来るのである。周囲に遅れること幾月、とうとう徴用の命令がきた。

2015-07-29 14:26:10
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

中島飛行機がすぐ近くにあったためか床屋の周りにも工場(モリヤマさんという名らしい)があり、じいちゃんはそこで旋盤作業を行っていた。もともと手先が器用だったため旋盤の腕もいいと褒められたそうだ。が、工場仕事が終われば残りの時間は床屋業が待っている。

2015-07-29 14:26:26
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

一日中働き通しのような毎日が続いていたが、それでも娘と生まれたばかりの息子、そして愛する妻の為に頑張っていた。ある日娘を膝に載せ、当時のはやりだった灰田勝彦の燦めく星座を歌っていたじいちゃんの元に、召集の電報が届く。

2015-07-29 14:26:32
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

これが来たからにはしかたがないと紙面を見たじいちゃんの目には「○ガツ○ニチニ シバ タマチヘ ~」の文が映る。シバ タマチとあったことからじいちゃんの故郷のあたり、つまり、芝のタマチだろうと思い込んだじいちゃんは、一安心といったようにその晩を過ごした。

2015-07-29 14:27:06
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

が、後日お店のお客さんにこの話をしたところ、「芝の辺りには連隊なんかなかったと思うが…」といわれるじいちゃん。徴用に備えて籍を移していたためか、新潟の方にあるシバタマチという場所の兵営に加わるように指名されたのである。赤紙の方にも新潟県とバッチリ記されていたそうだ。

2015-07-29 14:27:20
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

こうして遠路はるばる新潟にあるシバタマチ(恐らく新発田の歩兵第16連隊か?)に赴くことになったじいちゃんだったが、出向く前にじいちゃん宛に(物資不足の最中ではあったが)役所から一升瓶が届いた。出征にあたっての振る舞い酒にしなさいということか、と前日まで開けずにとっておいた。

2015-07-29 14:27:29
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

そしていよいよ明日…となった晩、じいちゃんは「ゆっくり呑めるのもこれで最後か」と慣れない酒をちびちびとやっていた。その胸中にどんな思いが渦巻いていたかはわからないが、なにかそういう気持ちにさせるものがあったのだろう。ところがどうだろう、いきなり瓶を取り上げられてしまったのである。

2015-07-29 14:27:37
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

驚いたじいちゃんが顔を上げると、そこには同居していたばあちゃんの母親の姿が。あまりのことに何も言えずにいるじいちゃんに掛けられたのは「こりゃお客さんに出すんだから!あんたが飲むもんじゃあない!!」という言葉であった。 …じいちゃんはそのことをいつまでも恨んでいたようである。

2015-07-29 14:27:57
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

当時東京の辺りも食い物は配給であった。配給とはいえ偉いさんが掠めとってしまうから、庶民くる量はたかが知れていた。虚しい話である。親子ともども栄養失調ギリギリで、体ももうガリガリであった。そんな状態のじいちゃんが着いた先で目にしたのは、筋骨隆々の屈強な男たちであった。

2015-07-29 14:28:19
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんの入った連隊は、城跡を拠点とし行軍やその他の訓練を行っていた。が、何分むこうの人は食うものに困っていなかったようで、旨い米を沢山食える。人は食べた分だけ体につくのでそれだけ肉のつき方も違ってくる。東京から来たガリガリのじいちゃんがそんな人達についていけるわけがなかった。

2015-07-29 14:28:27
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

十六貫もある装備を背負って十粁の道のりを行軍するのが毎日の訓練の一つだったが、十六貫といえば当時のじいちゃんの体重よりも重い。当然耐え切れるはずも無く、毎日途中でぶっ倒れる始末だった。連隊の人たちも、まさか東京からこんなヒョロいのが来るとは思わなかったらしく困惑したそうだ。

2015-07-29 14:29:27
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

さて、訓練の出来ない人間に無理やりやらせても仕方がない、そう考えた連隊の人たちはじいちゃんの履歴に目をつけた。東京で床屋を営んでいたことに気づくと、今度はじいちゃんのもってきた国旗を見る。寄せ書きをした面々の中に井伊直弼の孫や、軍の上層部の名前があるではないか。

2015-07-29 14:29:38
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

さぁいよいよこのヒョロガリは何者だ、となり、本人に聞けば松井石根とも面識があるという。とりあえず行軍などは控えめにさせ、将校の頭を刈らせようということになる。じいちゃんはばあちゃんに道具一式を送ってもらい、それからはもう毎日のように将校の頭を整える日が続いたのである。

2015-07-29 14:29:44
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

(じいちゃんと松井石根の関係は、何度か髪を切っていた、というだけのものではあるが、そもそも会ったことがある人自体それほどいないものだから、そんなことでも驚かれる材料になったようである。)

2015-07-29 14:30:51
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

無事に自分の腕を活かして事なきを得たかにみえたじいちゃんだったが、行軍の他の訓練や日頃の雑事は毎日こなさねばならなかった。 将校の髪を切る度にじいちゃんはあるものを頂戴していた。一本のタバコである。毎日のように刈っていた、ということは、毎日のようにもらっていたということである。

2015-07-29 14:31:01
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんはこれを吸わずに仲間にあげてしまっていた。だがタダではない。その雑事と引き換えであった。が、それで文句を言う者は一人もおらず、却って喜ばれ、なんでも引き受けてくれたという。贅沢は敵、そういうご時世である。兵士も人の子。嗜好品とはそれだけで、何物にも勝ったのである。

2015-07-29 14:32:12
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

無論、床屋稼業だけしていればよいわけではなく、たまには仲間と一緒に行軍せねばならない。が、これが不思議と耐えられるのである。というのも、こちらにきてから幾分か経ち、食事はたらふく食えるがそれほどキツく動かずに済むということもあり、体に肉がついてきたのである。脱・栄養失調である。

2015-07-29 14:32:18
前へ 1 2 3 ・・ 6 次へ