『フライング・ブルーシート・イン・ザ・スカイ』 #1

青い…ニンジャ!
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不幸鳥 @hukurou_nayuta

『フライング・ブルーシート・イン・ザ・スカイ』#1

2015-07-19 14:05:00
不幸鳥 @hukurou_nayuta

男は夕暮れの細い路地を行く。辺りは日が落ちると同時に酔っぱらいなどで溢れ変える。少し賑わい始めた町の中、ポケットに突っ込まれた彼の手が少し血に濡れていることなど知る由もない。その男の背には子どもが背負われている。「お兄さん、安くしとくよ」「結構だ」奥ゆかしくない客引きだ。1

2015-07-19 14:06:07
不幸鳥 @hukurou_nayuta

客引きを振り切り、男はビルの隙間から差す西日と息子を背に、家路を辿る。 「お父さん、正義の味方っている?」「どうだろうな」「ニンジャっているの?」「…ニンジャはいねぇよ」 ヤマミダはタバコをくわえて言った。そう、ニンジャはいない。いない? ゆっくりと、溜め息とともに煙を吐く。 2

2015-07-19 14:08:30
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「ぼく見たんだよニンジャ。正義の味方のニンジャ」 尚も息子は続ける。眠たげではあるが、その声には熱っぽいものが混じっている。 「強いんだ、悪いやつをやっつけちゃった。かっこよかった。青いニンジャだ」 「ハハ…」 ヤマミダは乾いた笑いを漏らす。 3

2015-07-19 14:10:57
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ふと、足元に視線を落とす。影が伸びている。それは長く。暗く。 コケシマートの店内BGMが漏れ聞こえる道を足早に歩いた。 「ニンジャなんて、いないはずなんだ…それでいいんだ」 ヤマミダには己の影が、何か別のものに見えてならなかった。 4

2015-07-19 14:14:43
不幸鳥 @hukurou_nayuta

時は少し遡る。事の起こりは息子の窮地だった。彼の息子は運悪く、何らかの抗争に巻き込まれたのだ。息子だけではない。数多くの無関係な市民を巻き込んだ身勝手で無慈悲なイクサだ!男は…ヤマミダには何も為す術が無かった。ただ地面に指を食い込ませ、地に伏し、絶望する以外には。その筈だった。6

2015-07-19 14:22:43
不幸鳥 @hukurou_nayuta

瞬間!…青だ。目も眩むほどの青。突如ヤマミダの意識は暴力的なまでの青色に包まれたのだ!再び意識が現実に戻ったとき、代わりに眼前には赤色が広がっていた。幸い、息子には大事はなく、人々の殆どが生きていた。良かった。誰かが助けてくれたのだ。一体誰が?何故人々は俺を見て怯えている? 7

2015-07-19 14:28:22
不幸鳥 @hukurou_nayuta

近くの建物の窓に目を向ける。……ニンジャ?ニンジャナンデ?青い装束のニンジャがこちらを見ている。たまらず、気を失った息子を抱え、逃げた。ただ走った。ある程度まで逃げたのち、近場の店のショウウインドウを見た。そこにニンジャはいない。憔悴した己と背負われた我が子がいた。 8

2015-07-19 14:34:30
不幸鳥 @hukurou_nayuta

……そうして、家路を歩く。やがて家が見えてきた。「かっこいいのに変なニンジャだったんだよ」「おいおい、またその話か」ヤマミダは玄関の戸に手を掛ける。「だってさ、なんだか真っ青で」戸を開き、徐に靴を脱ぐ。「ブルーシートみたいだったんだよ」9

2015-07-19 14:40:19
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「ブルーシート」息子を寝かしつけたのち、ヤマミダはひとりごちた。あの青いニンジャ。(……本当はわかってンだ。あれは俺だ。)怒りと恐怖と狂気に満ちた目。返り血に塗れたメンポ。(バカ言ってんじゃねぇよ…)カラテ。殺戮。…殺戮。(あんなのが正義の味方かよ)何かの声が思念を中断する。10

2015-07-19 14:44:11
不幸鳥 @hukurou_nayuta

声は外から聞こえる。通常なら聞こえないほどの物音だ。それを聞いたのは彼のニンジャ聴力である。(誰だ。複数人いやがる。たった一人を除き……どれも同じ…声?)ヤマミダは横で眠る息子の頭を撫で、「すぐに戻ってくる。ダイジョブ」窓から外へ飛び出した。「「「ザッケンナコラー!」」」 11

2015-07-19 14:50:20
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ヤクザだ!ヤクザの集団は一糸乱れぬ動きで銃をヤマミダに向ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」ヤマミダの方が早かった。ヤクザたちのうち一人は即死、何名かは地面に転がった。「フム…貴様か、やってくれたな……」明らかにヤクザではないその男は腕組みをして言う。…あの男もニンジャである。12

2015-07-19 14:56:40
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「ドーモ。タクトレスです」敵ニンジャが先手を打つ。地に倒れていたクローンヤクザも起き上がり始めた。ヤマミダ……否!野暮ったい青装束ニンジャはオジギをする! 「ドーモ。タクトレス=サン…ブルーシートです…!」 13

2015-07-19 15:04:01
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「「「ザッケンナコラー!」」」再び射撃し始めるヤクザの群れ!「イヤーッ!」回避し、ケリ・キックを放つ。「グワーッ!」ブルーシートはヤクザのドロップした銃を素早く奪い、撃つ!「イヤーッ!」「「アバーッ!」」ヤクザ死亡!「そんなものにばかり気をとられていてよいのか!」上からの声!14

2015-07-19 15:14:06
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「イヤーッ!」実際鋭い踵落とし!これを間一髪で避ける。「フン、ニンジャになりたてのニュービー……そんなのが本物のニンジャに敵う道理はない!」「イヤーッ!」ブルーシートが拳を叩き込む!「黙れ。舌噛むぞ」だが、タクトレスは易々とそれをいなす!「先のイクサもマグレに決まっておるわ」15

2015-07-19 15:20:32
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「イヤーッ!」「グワーッ!?」タクトレスの突きが額をとらえた。ブルーシートは軽々と吹き飛ばされる!(これがニンジャかよ…!こないだの連中は何だったんだ、畜生ッ!)容赦ない攻撃は続く。あまりにも一方的だ。「グワーッ!」「イヤーッ!貴様など!ここで死ね!!二度とマグレは起きん!」16

2015-07-19 15:28:30
不幸鳥 @hukurou_nayuta

敵と己のカラテの差は歴然。(どうすンだ。すぐに戻ってくるっつったのによ)敵の拳やら蹴りやらがめり込む。(死ねって言うのか。ブッダのヤロウは)意識も朦朧としてきている。(死なねえ)タクトレスの下卑た哄笑が突き刺さる。(死にたくねえ!)答えるように、両者の間に青色が広がる!17

2015-07-19 15:36:16
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「イ…バカな。これは何だ!?」タクトレスは目を見開く。そこには…おお、ゴウランガ!巨大な青い布がはためいているのだ!ブルーシートはそれを手に立ち上がる。「死なねえ。息子が待ってンだよ」そして駆けた!「イヤーッ!」その手から布が放たれる!「グワーッ!」タクトレスは絡めとられた。18

2015-07-19 15:42:01
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「何をするかと思えば…布切れなど!」タクトレスは青い布の中でもがく。「千切ってみるか?そこから抜けてみるか?…出来るなら」タクトレスを捉えている布を引く!「グワーッ!何だと…破れん!?」まさに指一本動かせぬ状態!「貴様!このようなジツで図に乗りおって!!」「ああ、その通りだ」19

2015-07-19 15:47:52
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「マグレ…これも何かの間違いなのだ…!」「イヤーッ!」「グワーッ!」布に縛られたタクトレスはもはやただのサンドバッグだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムサン!先程とは立場がまるで逆である。「ま、待て…殺すな」「知るか。殺す」20

2015-07-19 15:52:16
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「お、俺を殺そうがまた何者かが貴様を殺しに来るぞ…!」「それも知るか。あんたを生かしても同じことだろうが」ブルーシートは冷めきった目でタクトレスを見下ろす。「わ、我らを嘗めるなよ貴様!」「もう充分聞いてやったよな、俺」ブルーシートは手を高く振り上げる。「イヤーッ!」21

2015-07-19 15:59:56
不幸鳥 @hukurou_nayuta

手刀はタクトレスの頭蓋を砕き、頭部を潰した。「サヨナラ!」タクトレスは爆発四散した。「…ヘマなヤロウめが」青装束は闇に解け、静寂とヤマミダの姿が残った。(…今帰る…ヒジロ)彼は息子の待つ家へと去っていった。22

2015-07-19 16:06:34